その4、この世界に来た理由
「俺は、笹川焔。別の世界から来たものだ」
その一言が周りを驚愕した。
「どういう意味でござるか?焔殿別の世界ってのは?」
「そ、それは・・・・・」
「いい。お主に興味を持った悪いがこの坊主と少し話がしたい。申し訳ないがお前達は、出てくれないか」
俺が、凛音に真実を言おうとした瞬間術長の一言により妨害された。
「みんな聞いた通りよ。この部屋から出ましょう」
「雨水さん!!」
そして、術長の言う通り俺と術長以外が部屋を出ようとした。雨水さんが雲良と凛音に部屋から出るよう促す。」
部屋を出る前に凛音が俺を心配して見つめていた。
「焔殿・・・・・」
「後で話す。しばらく待ってくれ」
凛音がこくりと頷き部屋の障子を閉めた。
「坊主この座布団を使え」
凛音達が部屋から出た瞬間どこに出したか分からない座布団を投げ出し、俺は、それを受け止めなれない正座で座った。
「では、お前の話を聞こうではないか」
そう言いながらキセルをくわえながら術長も座布団に座る。
「その前に聞きたいことがある」
「・・・・・何だ?言ってみろ」
煙を吹き出しながらこっちを睨むように見つめる術長。そして、チラチラと風が吹いてたかように不気味に揺れる炎。
「あんたは、この世界のすべてを知っているのか?」
「ふむ、おもしろいことをいう。そんな奴はどこにもいない。世界のすべてを知る者はそれは、神に近いナニカだ。私のようなちっぽけな人間がすべてを知るわけないだろう。だが、私が知ってる範囲は、何なりと答えてやろう」
「分かった。この言葉を聞けて良かった。術長・・・・いや霞さんこれから俺がこの世界に来たからの出来事をすべて話す。だから力を貸してくれ」
俺は、今までに起きた摩訶不思議な出来事を話す。例えどんな結果になろうともこの人に話すことしか方法がないのだから
「ふむ・・・不思議な声に導かれ古井戸に落ちこの世界にきた・・・・そして、突然お主に現れる特殊な赤覆狒々か・・・・・・」
霞さんが冷静な表情をして自分の顎を手で掴みながら考えている。
「一つ聞きたい。お主古井戸に落ちたといったな。その時頭を強く打ったり一瞬だけ自分から血が出ているのは見たことあるか?そして、この世界に来たとき誰か人影を見たことあるか?」
突然の質問攻めに驚く俺、それでも、覚えてるかぎり答える。
「嫌、そんな感覚はない。気が付いたらこの世界に来た。そして、たぶん頭がボーとしてたせいかたぶん人影は見てないと思う」
「そうか・・・・ならお主元の世界に帰れる確率が高くなったぞ。」
「え、本当なのか」
帰れる・・・・・やった帰れるぞ。でも、この世界をもう少しエンジョイしたかったな。いやいや死にそうになったんだぞ。帰れるのは、賢明だろと複雑な気持ちで考える。
「まあな、まずお主が恐らく死んでいないのは一番の理由だな。死んだ人間を蘇らせるのはまず不可能だ。
「え、どういうだ?」
「まず、死んだ人間を無機物や他の肉塊に魂を定着させるのは、口寄せと言うのだ」
霞さんが分かり安く解説を始めた。この世界をもっと知るためだ。頑張って聞こう。
「口寄せは、基本定着させた魂を術者の下僕や使い魔として扱う存在逆らうことはまずできないし、術者本人に接触して、契約しなければ不可能だろう」
「え、どういう・・・・・・。」
「術者と契約することで初めて自我を保てる。契約しなければお主はただの木偶だ」
確かにあの時、誰かに何かをされたことはなんもなかったな。
「加えて」
突然俺に詰め寄り霞さんが俺の頭をつかみ自分の胸に押し付けようとした。そして、着物の首元を掴み俺の首後ろを見ようとする。
霞さんのメロンのようなおっぱいの圧で息ができない。でもめっちゃ興奮する。この俺の15年間生きて初めてのラッキーなイベントだ。神様ありがとう。
「うなじに呪印らしきものがない」
霞さんが俺から離れ近くにあるやかんにコップに水を入れ、そして、棚から何かを取り出し一緒に俺に渡し自分の座布団の方に戻る霞さん。
渡されたものは、薬が入った三つの薬袋だった。
「さっきはすまなかったな。これを飲め、興奮を抑える薬と熱を下げる薬だ。悪く思うな。これもお主のためだ。
ホントは、清めた後に渡すはずだったが、最近物忘れが多くて大変なんだ」
頭を指でコンコン叩きながら悩まれる霞さん。
俺は、即薬を飲もうとしたが一つ気になることがあったそれは、三つの内一つの薬は、ドス黒い不気味な臭いをした粉末だった。なんだよこれ。もしかして薬なのか暗黒物質の間違いだろ。
「どうした?飲まんのか。もしかして薬を嫌いか。それとも口移しで飲ませようか?」
口移しお願いします。と言いたいところだがいい年して薬が嫌いなのはハズイし、何より誰かに見られたら第二の黒歴史が起こるぞ。
「分かったよ飲めばいいんだろ」
俺は、三種類の薬を飲み水を含んで流した。苦いが今まで飲んだ普通の薬の味だ変わりがない。
「落ち着いたか。では、話を続けるぞ」
すっきりした俺に話を続けようとする霞さん。
「では、口寄せではないお主がかけられた術は、転移術だ」
転移術?ここだけそのままだーーーーーーーーーーーーーーーー!!異世界転生は、口寄せ術なのに異世界転移はそのままの転移術?安直すぎるだろ。
「転移術は、別世界の相手を設置された神殿に誘導し別世界に転移させる。
神殿の設置は、そこそこ極めた術師でもできるが、まさか、別世界に神殿を設置させるのは、驚きだ。たぶん恐らく奴だ」
「え?心当たりがあるのか?」
「そやつは、恐らく天だ。儂の弟子の中で最もたちが悪いバカ弟子だ」
天?知らねえよ誰だよそいつ。全く俺接点がないよ。そいつのせいでこの世界に来たのか?ありがたいが、せめて最初からチート能力付けてから呼んで来い。説明もなくきたら誰だって怒るよ。
「あやつは、術者でも優秀だが探求心が強くてな例え禁術でも平気で使おうとする馬鹿者だ。
いくら仕置きをしても聞かずいたずらするたわけものだから破門にしてやった。バカだと思ったがまさか転移術にふれるなんて、そんなものどこで覚えたんだ?」
また頭を抱える霞さん。いや知らねえよ。あんたのせいでもあるんじゃねえかそんな危険な奴なんで一生閉じ込めねえんだよ。監督不行届もんだよこれ
「・・・・恐らく何らかの方法で古い書物で調べたに違いない。このバカ弟子が、今度こそ許さん」
なぜか突然俺の胸倉を掴む霞さん。そして、今にもぶん殴りそうな形相をしていた。
「動くなよ。」
「いや俺関係ねえよ。とばっちりだよ。殺るんだったら天って奴にやれよ。頭おかしいんじゃねえか」
ズン!!
なんか生々しい音が聞こえた。そして、不思議な感じがする。気が付いたら霞さんの右手の二つの指が俺の腹を刺していた。
痛みがないがなんかモヤモヤする。
「少し待ってな」
瞬間霞さんの周りには不思議な蒼いオーラのような物によって包まれた。なんか妙なエネルギーが俺の中に入っている感覚がした。・・・・そして、決死の顔で
「あああああああああああああああ」
霞さんが力強く叫んで俺の腹刺した右指を抜いていた。俺は刺された所を触ると傷なんかなかった。その代わり霞さんの右腕には、浅黒いナニカを掴んでいた。
「霞さんそれは?」
「これは、お主がこの世界に来た理由の一つだ。恐らく空間を移動させる核のようなものだ」
霞さんは、その核と呼ばれたものを胸元に隠していた小瓶に入れタンスに閉まった。その核と呼ばれるものは、目に見えないが浅黒い光だけが光っていた。
「え・・・・・どういう・・・」
「簡単な理由だ。細胞レベルのこいつがお主の中に感染されていたのだ。あやつめ儂に勘づかれぬように極微少の妖力をこいつに植えついたのか。
だが、まだ青いその程度の妖力で儂が気づかぬと思ったか。儂の莫大の妖力をこいつに放出させたらひょっこり現れやがった」
霞さん独り言を勝ち誇ったようにブツブツ呟いていた。
「え?つまりなんだよ。俺は帰れるか帰れないか説明してくれ。」
「結論から言うと五分五分だな」
「五分五分?」
「そうだ。ざっくり説明するとお主が帰れる方法は、召喚した本人の妖力をお主に注ぐことで帰れることなだが・・・・・・奴は風来坊でな。
手掛かりもなく、どこにいるか分からん。この世界はお主が思っている以上広大だ地道に何年も何十年も探すしかない」
そんな帰れると思ったのに。・・・・・・でも何だこの感覚は、それを聞いて逆に嬉しく感じる。まるであのクソみたいで退屈な元の世界より形はどうであれ昔から憧れな異世界に一生過ごせるんだぞそんなチャンスは、滅多にない。
「何を嬉しく感じている。まあこの世界に一生暮らすことは、勝手だがそれは、天を見付けた後でいいではないか。
幸いお主がこの世界に来た時点で向こうの世界の時間軸は、凍結しているはずだ。じっくりと探すがよい。お主がこの世界に一生いようと元の世界に帰ろうとどちらでもいい。だけど、冒険することで、お主が心に秘めた思いが変わるはずだ。こんな人生一億分の一の確率でも当たらんぞ」
「ここにいるのも帰れるのも俺次第か・・・・・・」
この言葉で俺の中のモヤモヤが消えた。
確かにせっかくの異世界ライフだ。決断は目的は、天って奴を探せばいいんだろ。決断はそれからだ。
要するにこの世界にいる凛音を嫁にするか、元の世界にいる幼馴染の春華を嫁にするかどっちかってことだろう。でも攻略確率が難しい春華は嫌だなぁ。ハーレム物は、あまり好きではないが、二人とも選べるように頑張るか。
「決めたよ・・・・霞さん、俺頑張るよ。目的は、まだ分からないがこの世界をじっくりと堪能したい。協力してくれないか」
俺のやる気が霞さんに伝わったか、クスリとほほ笑んで、
「そうかその言葉が聞いて良かった。まあでもできれば、曾孫の雨水と婚約して、この村を一生暮らすのが儂の最大の望みだからな。まあいいお主の好きにせえ」
「え、今何ていった?」
俺の中の時間が一瞬凍結した。本当は、途中から気づいたのだがその事実を心から否定したかった。
「ん?ああそうか気づかんかったのか。お主はいささか勘がいいと思ったんだがな」
「あんた・・・・・まさか」
「その通り儂はこう見えて年は、100歳以上で、この神社の巫女の雨水の曾祖母であり、何よりこの村の創設者の霞様と言えば儂のことよ」
カッコいい雰囲気でカッコつける霞さんに怒りと同時に涙が込み上げてきた。
やっぱりかァァァァァァァァァァァァァァ薄々感じたんだよな。この人が糞BBAだってことはな
「うえええええええええええ」
俺は、すべてを吐き出そうとする。てか、吐き出さないとヘンな性癖に目覚めてしまう。
「おいおい吐くなよ。ここは、仮にも神を祀る聖域だぞ」
「うるせええあんたに俺の気持ちがわかるかよ思春期の少年の気持ちを弄びやがって。まさか母親の次に女の裸を拝んだ先には、やや身体つきがいい婆さんだぞ。これが吐かずにいられるか!!」
「では、吐かす前に眠らしてやろう・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
俺が汚物を吐き出す前に突然の呪文が聞こえ俺は、意識が薄れていた。
最後に見た表情に小さな声が聞こえた。その表情は怒っているのではなくこれから起こる出来事が楽しみで楽しみでしょうがない小さな子供が笑う表情をしていた。
「全く失礼なガキだったが・・・なかなか楽しめそうじゃないか」
気が付くと、先程の神聖な部屋だった場所が、やや綺麗な和室に寝かされていた。
頭がぼんやりとする。ゆっくりと起きて気が付くと、あの青紫色の長髪に見覚えがある。しかもあの牛のような乳をした整形しまくりの糞ババアじゃない。なんとも肌が透き通るぐらい白い肌をしたお姉さんが俺を解放してくれた。
それは、先程出会った霞さんの曾孫の雨水さんだった。
「あらあら気づいてくださったの良かったぁ」
雨水さんが、ニッコリほほ笑んでくれる。さっきのグロイ出来事に比べたらまさに清涼剤だ。
「もうあんなことをしたらもうダメだよ。神聖な祭壇部屋に吐くのは」
安心してください吐いてないですよ。あくまで未遂です。
「ここは、・・・・」
「ここは、客室部屋だよ。気絶したあなたを門下の人達が、おぶってくれたのよ」
「そうか、俺ここに来てから失礼な事ばかり・・・・・こりゃ絶対バチが当たるな」
俺は苦そうな顔でほくそ笑んだ。それに対し静かに横をふった。そして、俺のほぺったを両手で触れ俺の表情をじっくり見る雨水さん
「失礼なことじゃないよ。術ちょ・・・・・いや曾祖母様は、逆に笑っていたよ。『まさか神聖な部屋に汚物を吐き出しかけるとは、恐れ入った』と言ってたわよ」
「はあ、良かった。そんなに怒ってなかったんだ」
「でも、本気で吐き出すと髪の毛も残さぬほどの術を発動してたわよ絶対。曾祖母様は、ああ見えて短気だから・・・・・」
さっきまで明るい声がだんだんトーンを下げて暗くなってる。なんか怖い。
「・・・・・・気を付けます」
俺は、時間が見たいから掛け時計の方を見るともう三時が過ぎていた。それと同時に空腹を感じていた。
そして、周りを見渡しあのおにぎり弁当が入った袋を見付けた。
「雨水さん申し訳ないけどあの袋に入っている弁当を食べたいんだ。取ってきてくれないか?」
「え?あの袋の中でももう三時過ぎてるし、六時には、みんなで、夕食があるのに食べられないわよ。大丈夫ただでさえ病み上がりなのに。そんなに食べようとしていいの?」
遠回しに夕食ごちそうに誘われた。でも俺は、信念を曲げずに
「大丈夫。せっかく食堂の店主が用意してくれたんだ。それにここでお米を粗末にしたら絶対罰が当たる」
「そうね、待ってて今すぐ用意してあげる」
雨水さんが俺が持ってきた袋の中の弁当を取り出しお茶と一緒に俺に出してくれる。
「雨水さんありがとう。では、いただきます」
「はいどうぞ。」
手を合わせた後すぐに弁当のおにぎり弁当に食らいつく。そして、その様子を静かに見守る雨水さん。
「はあ、食った食った」
「はい、お粗末様でした」
おにぎり弁当を満足に食べつくし横になる俺そして、俺の元気の食べっぷりに喜ぶ雨水さん。なんかこのやりとり新婚夫婦のようなやりとりみたいだ。ちくしょうあの婆さんに煽られたせいで、凛音だけではなく雨水さんまで意識してしまったじゃねーか。こんなにフラグ立ててしまって取り返しがつかなかったらどうするんだ。
時計を見る今は、四時ごろ夕食まであと二時間腹は少しパンパンだ。このままだとちょとしか食べられないぞ。まあ万が一頼んで持ち帰る方法もあるしな。霞さんは、なぜか俺の事を気に入っているみたいだし大丈夫だろう。
「では、焔君私そろそろ夕食の手伝いがあるからもういっていいかな?」
「いいですけど。最後にひとつきいていいかな?凛音はどこにいるかな?」
「凛音ちゃん?あらあらごめんなさい。すっかり忘れてしまったわ」
頭を指でコンコン叩いてうっかりしたことをきずく雨水さん、さっきの癖も霞さんの血をひいていることが分かった。
「凛音ちゃんは、出て溜まった依頼を達成するために、村から出たわよ。安心して、夕食の時までは、戻って言ってたわよ」
「そうですか・・・・」
くそ、俺のせいだ。凛音に迷惑しかかけていない。俺と関わったせいで凛音の苦労がかかるばかりだ。それにこの俺が違う世界から来たことを一番に言いたかったのは、彼女のはずなのに自分のことしか考えてないクズ野郎だ。やっぱり俺は、自分を変えることは、できないのか。
「そんな顔をしないで、焔君、凛音ちゃんは、きっと帰ってくるよ」
暗い顔をした顔を見て励ます雨水さんでも俺は・・・・
「俺のせいだ。あいつが俺に関わったせいで大変な目にあってしまう。俺がこの世界にきたせいであいつの自由が奪われてしまうなのになんであいつは、俺の事を構うんだよ!!!」
泣きながらすべてを吐き出す俺、でもそんな俺に強く抱きしめ、
「そんなことない。そんなことないよ!!!凛音ちゃんは、心が弱い焔君が一人前になれるように一緒にいるのよ。あの子は、昔から世話好きでそれを嫌いになることなんて一度でもないよ。だから焔君そんなに自分を責めないで。もし少しでも罪悪感があるならあの子の役にたてるように頑張りなさい」
雨水さんも泣いている俺にもらい泣きして、励まそうとしている。
今雨水さんが俺に抱きついて泣いている。
いつもの俺なら下心丸出しで喜ぶが今は違う。
本当に良かった。
どんな方法でもいいこんな俺を優しくしてくれる人がここにいてくれてよかった。
「ありがとう。雨水さんのおかげで決心がつきました。少しでもあいつの役にたつように頑張るようになりたいです」
「そう、頑張りなさい。私も応援するから」
俺から離れ着物からポーチのような袋を取り出し中からハンカチを二つ分取り出し涙で汚れたを拭く雨水さんそしてもう一つのハンカチを俺に渡す。
「ありがとうございます」
俺もハンカチでくしゃくしゃになった顔を拭きとる。
「それ、あなたにあげるよ。それじゃあ私行くね。食事ができたら呼んであげるから」
そう言って部屋から立ち去る彼女。そしてその後ろ姿を見て俺は、本当に成長したいと思った。