その9、初めての依頼
凛音との地獄のような特訓は、ようやく終わり、昼ご飯を済ませこれから午後の特訓が始まろうとしている。
午前の特訓でついた痣は、彼女の治癒の術で消えていたが、心は、癒えていない。しばらくはトラウマが続くであろう。だけど、俺は、迫る一週間後に再び赤覆狒々と戦わなければならない。
その戦いで出来れば誰も死なずに奴を倒したい。あの時みたいになにも出来ずに人が喰われているのを黙って見るのは嫌だ。そのためにこの世界の生活を学ばなければならない。
俺と凛音は、一度村に戻った。その理由は分からない。いや、聞いてないまたは聞き漏らしたといった方が正しいか。なぜなら先に言った通り今朝は寝不足で凛音の話を聞いていなかったからだ。
まあ、とりあえず、後で聞いてみよう。
その時、凛音はある場所で足を止めた。
「あれ、なんでここで止まったんだ?」
「焔殿これからやる仕事についての工程についてを教えるでござる」
「仕事の工程」
「もしかして、焔殿今朝のことについて聞いてないでござるな」
凛音は予想以上に頭を抱えて呆れかえっていた。もしかして余程の大切のことだったのか。
「いいでござるか。もう一度いうが、午後の修練は実際に仕事の依頼をこなすでござる。・・・・・もちろんうちの付き添いでござるが」
「仕事の依頼か・・・・・いよいよだな」
「まあ。とりあえず仕事の依頼について教えるでござる。うちのやってる討伐屋・・・まあ都では、『万屋』は基本妖退治だけではなく探し物を探したり、または高値の物品を納めたりするのも仕事の一環でござる」
まあ要するにゲームでいうとクエストみたいなもんだろ。
「そして・・・・」
凛音は目の前にある掲示板を叩き解説を続ける。
「この目の前にあるのは、その掲示板ここにはここら周辺の依頼者が送った依頼の数でござる」
その掲示板に無数の依頼の用紙がこの大きな掲示板でさえ収まらないほどの依頼の数が貼られている。その内容は、妖退治や探し人はたまた不倫の調査なども書かれており、報酬もくっきり書かれていた。こりゃホントにゲームの世界に入ってきたな。
「そして、決めた依頼は隣の小屋の巨大な看板に書かれている『依頼受付所』に依頼を申し受けるでござる。そしたら翌日仕事依頼の文がこちらに来るでござる。ちなみに焔殿の名前や住所・・・まあ住所はあの宿屋でいいでござるな。まあ、そんなことしなくてもこちらの臭いさえ分かれば居場所を捉えるでござるからな」
「臭い?」
「そう、あそこの管理者は皆相手の臭いを捉える術を会得していて、居場所が分かったら式神を使って受付者に依頼が届くようになっているでござる。どう理解できたでござるか・・・・」
凛音が懇切丁寧に教えてくれる。まあ、一応理解はしたしありがたいのだが、ただし疑問点はいくつか残る
「で?凛音は俺の臭いを何時とったのかな?まずそれについて説明してもらおうか」
俺はいやらしくその質問をする。いくら臭いでも俺のものを勝手に取るとはそれなりの理由が必要だ。
なぜならその理由を聞いた彼女の困った顔が無性に見たくなったからだ。午前中のお返しだ悪く思うなよ。
「さーーーーーてと焔殿これから依頼主の所に向かうでござるよ」
「・・・・・・・・・・・・・」
凛音はすかさず目を逸らし今の話をスルーした。いや聞かなかったことにした。
「いや聞けよ。なんか説明しろよ」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「おーーーーーーーい」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「もしもーーーーーーーーーーーーーし」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
いくら聞いても無視して会話が続かない。余程なんかまずいことでもやったのかな?彼女。これ以上話しかけてもこのループが続くかも知れないし、何より喧嘩にもなって面倒なことが起きても嫌だから。この話やめとくか。
そう想いながら俺は凛音の後をついていった。
しばらくつくと小さな団小屋の前に着いた。ここにこれから依頼者が来るのか?
しかし先程昼飯食ったばかりなのに腹が減ってきたな。スイーツと言えば洋菓子派の俺だが団子も古風があっていいと思うな。最後に団子食ったのはいつだっけ?たぶん大分昔のことなので思い出しても思い浮かばない。どうやらあまり記憶になかったらしい。
「なあ、凛音ここに依頼者が来るのか?」
俺がそう言うと、コクリと首をうなずいた。
「そう、たしか場所はここに示されているでござる」
凛音は片手に依頼書を持ってそれを眺めている。
「ちなみにそれはどんな依頼なんだ?」
「確かこの先の北の沼地にある『鬼岩沼』にある無くしものを探すのが依頼でござる」
凛音は依頼書を片手に持ちなにか浮かない表情をしていた。
「どうしたんだ?」
「いや、鬼岩沼というのは並の武神使いや術師でも逃げ出すような場所でいわゆる並の人間じゃ近寄らない場所でそこで無くしものとかがどうも引っかかって」
「なんで?」
「一流の討伐者は戦の時は戦以外で必要としないものは置いていかない。それは、戦いのおいては基本でござる。ましてや万屋や術者でもない普通の人間がここに入るのが余程の理由じゃない限りありえないでござる」
「じゃあなんでそんなおっかない場所に俺を連れてくんだよ。一応俺、初心者なんだぞ」
「焔殿は一週間でうちらと同等に強くするためにはこれしかないでござる。まず、妖と戦うための基礎を学ぶために余計な知識を省いて次の段階を進むためでござる」
「ホントにそれで強くなれるのか?」
「さあ。焔殿次第でござるよ」
凛音が俺の為に次の事を考えてくれる。なら俺は、その期待に応えるしかないな。
「まあ、いざとなったら焔殿はうちが守るから別に手を抜いても大丈夫でござるよ。その代わり来週の作戦はお留守番でござるからな~~~~」
彼女はケラケラ笑いながら煽っている。でも・・・・・
「ああ、俺は真剣にやるつもりだ。弱いのは自分が一番理解している。・・・・・だから凛音の方こそ手を抜いてもいいんだぞ?」
俺の今のセリフで彼女は、驚いている。そりゃそりゃそうだ。戦もしたこともないぺーぺーがこんな上から目線のことを言うなんてよ。
なぜ無謀なセリフを言ったのか俺にも分からないでも、でもそうでも言わなきゃ守りたい人を守れないそんな感じがするからだ。
しかし待ち合わせ場所が団子屋になるとここで立って待つより店に入ってお茶にしながら待つのもいいのではないか?俺はそう思った。
「じゃあ、待ってる間、ここでゆっくりしても・・・・・」
「ダメでござる」
あっさり拒否られた。しかも、思いっきり俺の服の袖を引っ張ってなかなか進まない。まるで軽トラでも引っ張ている感覚がする。
こんな細腕のどこにこんな力があるんだよ。なんでこういう異世界を含む二次元では体の体型と力の強さは比例しないんだよ。普通このような小柄の少女はあまり力ないのが普通だろ。なんでこんなに力があるようになってんだよ。もしかして術なのか?いやそうであってくれ。そうじゃなきゃ彼女はただ少女の皮を被ったゴリラに見えるかもしれない。
「な、なんで・・・・・・・・・・・・」
「焔殿・・・・今うちらは金欠でござるよ。その件については何度も言ったはずでござる」
「でも・・・・このまま来ないんじゃ」
「まだ来る時間まであと数分あるでござる。もう少し待つでござる」
俺本当は食いしん坊キャラじゃないし、腹があまり減ってないのに無性に食いたくなる。それが人間の本性だ。それを理解してくれ凛音。
しかし周りから見ると駄々をこねる子供とそれに対応する親に見えんな。
「ケチ。もう少し休んでもいいだろ」
「焔殿。さっきも休んだはずでござるよ。いつまで休むつもりでござるか?」
「だから依頼者が来るまで・・・・・・」
「そんなの立って待つでござるよ。一応焔殿も男の子でござろう」
年下の娘に子供扱いされた。俺の黒歴史はどれだけ続くんだよ。これだけ汚点が着いたらマジで引きこもりそう。俺一応ガラスのハートの持ち主なんだぞ。
そんな俺らの夫婦漫才?をある少女によって止められた。
「あの・・・・・もしかしてあなたが私の依頼を受けることになった万屋の凛音さんですか?」
その一言で俺達は声の主に顔を向いた。その声の主は、小さな少女が声を掛けてきた。
その少女は本当に俺達が依頼の受取人かどうか警戒しているためにもじもじしていた。
「そうでござるよ。うちが凛音でござるよ。あなたは?」
「私は、依頼者のお初です。よろしくお願いします」
その少女は礼儀正しくお辞儀をした。
俺達は場所を移し俺達が泊まった民宿の俺達が泊まった部屋に移った。なぜなら凛音は本当に金欠らしくここでお茶してお金を使うより民宿の部屋で入れたお茶の方がお金要らないでござると聞かないからだ。
彼女、節約家というよりここまでくるとケチなんじゃないか・・・俺はそう思いながら依頼者の話を聞いた。
依頼の内容はどうやらこうだ。
先日この少女お初ちゃんの友達から度胸試しで鬼岩沼に探検に出掛けると言うお誘いを受けたようだ。
気が弱いお初ちゃんには断る勇気もなく結局その友達と一緒にその沼に出掛けたらしい。
そして、沼の奥に向かうと巨大な怪物たちがうようよとしていて、その姿は、お初ちゃんをはじめとする子供たちには刺激が大きすぎて、みんな慌てて逃げかえったらしい。
幸いその怪物に襲われた子はいなく、けが人はいなかったが、お初ちゃんは逃げる際に死んだ母の形見である、かんざしを落としたらしく。それをとってくるのが俺達の依頼らしい。
いわゆるテンプレな依頼だなと思ったが、とりあえず依頼を受けるか。
それを凛音に依頼を受けようと声を掛けようとするが、凛音は依頼を聞き出した途端に機嫌が悪くなりお初ちゃんを睨んでいるような顔をしていた。その顔に対してお初ちゃんは怯えている。
まあ気持ちは分かるよ。小さな子供たちがあんな危険な場所に言ったことは悪いことだよ。でも今は抑えよう。そう思いつつ。俺は凛音に抑えるようにと声を掛けると。やれやれと思いつつ、彼女は深呼吸をして落ち着いたらしい。
「まあ、言いたいことは依頼を済ませた後にたっぷりと絞り出すとして、報酬の方を見せてほしいでござる」
凛音は先程機嫌が悪かったのが嘘なように普通の口調で言う。それに対しお初ちゃんは風呂敷から彼女の手の甲より大きな黒い石を俺に見せた。どうやらそれは武具石らしい。
「はい報酬はこの武具石です。お金はありませんがこれさえあればどんな依頼を受けてくれるとおじいちゃんが言ってたので・・・・・」
「これをどこでもしかしてこれもお母さんの形見・・・・・」
「いや違いますよ。これは以前散策で偶然見つけたものでお母さんのものとは関係ないですよ」
俺の質問に対し両手を開いてそれを否定するお初ちゃん。ごめんね、俺はどうやら相手に嫌らしい質問をするのが得意ならしいそれが俺がモテない一番の理由だと今気づいた。
「足りないでござるな・・・・」
「え?」
凛音が腕を組み静かなの一言により部屋一面が凍り付くような雰囲気を出していた。
「鬼岩沼は一応危険地帯。そこでの依頼は高額な報酬が必要。たとえそれが妖退治ではなく探し物でもそれなりの報酬は必要・・・・・あとこの大きさの武具石はあと二つ必要でござる」
「そんな・・・・これより価値のある物なんて家には・・・・」
凛音の冷たい一言により彼女は泣きそうになる。そして、凛音は心なしか部屋から出ようとする。
「じゃあ残念ながら依頼は受け入れないでござるそれじゃあ」
「おい待てよ・・・凛音どこに行くつもりだ」
彼女が部屋から出るのを見てそれを止めるために凛音の腕を握った。
「放すでござる・・・・・」
「放さねえよ。なぜ依頼を受けない理由が必要だ」
そのことを聞いてケラケラ笑う彼女を見て俺は急にはらわたが煮えくり返ってきた。
「理由はただ一つこの仕事は自分の命を代償に仕事を受ける・・・・それ相当な報酬を払うのは当然でござろう」
「そ、それは・・・・」
凛音の正論に誰も返せなかった。そりゃそうだ。仕事を行うにはそれと同等な報酬が必要そんなの当たり前じゃないか。
「じゃあ俺が払うよ・・・・」
「払うって何をでござるか?」
「俺が彼女の分まで払うと言ったんだ。報酬は相良さんの鍛冶屋にある特注の武具石これでどうだ」
「焔さんどうして見ず知らずの私の為に・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
お初ちゃんは泣きべそをかきながら俺に聞いてくる。凛音も俺のその答えが気になっている。
「勘違いするな。誰も君の為に言ったんじゃない。自分の為なんだ。ここでもし依頼を断ったら後に自分はすごく後悔する。そんな後悔のある人生はもう送りたくない。それだけだ・・・・」
「そ、そんな理由の為に・・・・・」
お初ちゃんはとても驚いた表情をしていた。
「分かったでござる。依頼を受けるでござるよ。それでいいんでござるな焔殿」
凛音はため息を吐きながら納得したようだ。
「ああ!!」
「ありがとうございます。」
お初ちゃんは頭を深く下げ心底感謝している。
それに対し凛音は俺を見つめて・・・・
「依頼の報酬の約束忘れないでほしいでござるよ・・・・」
そう言いながら背の長太刀を握り俺を静かに睨む彼女
「ああ、男に二言はない」
こうして俺の波乱の初依頼が始まった。