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新説・百物語  作者: かみさか
1/3

壱 とあるスレッド

 とある掲示板サイトに、このようなスレッドが上がった。


 【怪談】百物語【実況】

 

 ルール

 ・参加者十名。(うp主含む)

 ・他の参加者はうp主の友人で、わかりやすいようにコテ付します。

 ・今回の百物語は怪談話ではなく伝統的な方法で行います。詳しくはウィキの百物語の項を参照。

 ・スレとリアルで同時並行して行います。無駄レスはできるだけ遠慮してください。

 ・前述の伝統的な方法では九十九話で終了しますが、こちらは百話までやりきります。

 ・百話終了後、リアル及び閲覧者の周囲で怪奇現象が起こったらレスお願いします。

 

 開始時間、八月十五日 二十時より開始。


 と、このような内容の説明がされていたようだ。

 真夏で、世間では夏休みという時期でもあり、オカ板の暇な住人達がぞろぞろと集まってくる。

 画面の前で今か今かと待ち構えていると、ついに一話目の話が始まった。

 不思議なことに、ルールを守ってか、そのスレッドは荒れることもなく、かと言ってむやみに盛り上がるわけでもなく、淡々と進んで行った。

 十話を終え、五十話に差し掛っても、それは変わることなく、粛々と不思議な内容の話が消化されて行く。

 そして、九十九話を終えても、それは変わらなかった。

 ついに百話目になり、話が始まる。


 それは、怖い話が好きでしょうがないという、ある人物の話です。

 その人物をAさんとしよう。

 Aさんは、怖い話が好きでした。

 それが興じて、ネットで様々な怖い話をかき集め、時には怪奇スポット巡りをするほどに怖いものを求めていたのです。

 こっくりさん、ひとりかくれんぼといった降霊術の類まで行ってみたものの、怪奇現象に遭遇することは一度もありませんでした。

 ある時、Aさんは考えた。自分ひとりだからダメなのではないか?

 だったら、他の人達を巻き込んでみよう。

 Aさんは、友人達を招き、百物語をやることにしました。

 友人達は皆、怖い話が大好きでした。

 それぞれ様々な怪奇スポットを巡っていた時に出会った友人です。 

 どうせだから、ネット上の同士達にも楽しんでもらおう。

 Aさんは、早速スレッドを立てました。

 ああ、楽しみだなぁ。

 Aさんは、この日の為に、会場の準備や行灯を自作するなどして、限りなく本格的になるように入念に準備を行いました。

 さあ、いよいよ約束の日がやってきました。

 Aさんが用意した会場は、田舎にある祖父母の家です。

 周囲は畑で、街灯すらなく、夜になると真っ暗な闇に包まれます。

 この日のために、祖父母には旅行をプレゼントしてあります。

 両親には友達と合宿をするから、邪魔をしないようにと言って出てきました。

 日のある時間帯に友人達は集合し、あとは開始を待つだけです。

 あたりが薄暗くなってくると、Aさんは奥の部屋にある行灯に火を入れました。

 伝統通り、L字型に配置された三間の部屋です。

 夕食を終えた頃にはすっかり日も落ち、もうすぐ予告していた開始時間です。

 家の襖を締め切り、スマホや携帯の光だけを頼りに時間を待ちます。

 時間が来ました。

 光源はできる限り少ない方が良いので、Aさん以外は携帯やスマホの電源を切り、Aさんは掲示板に投稿する為、自分の携帯の電源だけを入れていました。

 一人目の話が始まり、ほどなくして終了しました。

 暗闇の中、一話目を話した人が手探りで次の部屋へ向かう襖を開け、閉める音が聞こえます。

 ほどなくして、隣の部屋からさらに奥の部屋へ向かう襖が開く音がして、閉める音が聞こえます。

 暗闇の中、友人達は一言も話しません。

 部屋の襖が開く音がして、一話目を話した友人が戻ってきました。

「消してきた。次、頼む」

 と、その友人が簡潔に告げると、二話目が始まりました。

 こうして、特に何かが起こるというわけでもなく、百物語は順調に進んで行きました。

 いよいよ、百話目です。

 Aさんは、自分の番が来たと思い、話し始めようとしましたが、おかしなことに、別の者が話し始めました。

 聞いたことがない声です。

 しかし、友人達は誰も何も言いません。

 Aさんは、恐怖のあまり、声も出せませんでした。

 その謎の声の主が話す内容が、今日ここにいる自分達のことを、まるで見てきたかのように話しているのです。

 悲鳴を上げたいのをなんとか堪え、話が終わるまで、じっと耐えました。

 話が終わると、誰かが部屋の襖を開けて、閉める音が聞こえました。

 閉まる音を確認するなり、Aさんは必死に声を潜めて友人達に話しかけます。

 今の話をしていたのは誰だ。と。

 これには友人達も驚きます。

 何しろ、先ほどまで話していて、行灯の火を消しに行ったはずのAさんがそこにいたのです。

 誰かがふざけているのだと思い、全員が名前を言いますが、その場には、十人揃っています。

 では、部屋を出ていったのは一体何者なのか?

 そして、ふと気付きます。自分達の行動が、つい先ほどまで何者かが話していた内容と一致することに。そうなると、次は……。

 わかっているはずなのに、話に沿った行動が止められない。

 ひた、ひた、と足音が聞こえ、何者かが襖を開けて入ってきます。

 何も見えない暗闇の先から、誰の物でもない声が聞こえました。

「じゃあ、誰から死ぬ?」


 それから三日後、旅行から帰った祖父母が見たのは、変わり果てた孫の姿と、無残に殺害された孫の友人達の姿でした。

 その出来事は事件として取り上げられるも、唯一生存したAさんの変わり果て様と、殺害された友人達の余りにも凄惨かつ異常な死に方から、不可能犯罪とされ、表向きは傷害事件として処理されてしまいました。

 それをどこから聞きつけてか、そのスレッドは異常な盛り上がりを見せ、あとに続く者達が出始めますが、それらしい成果はなく、様々な考察がされた結果、限りなく似た条件で行えば何かが起こるのでは? という意見が採用された結果、翌年の八月十五日に検証してみよう。という結果に落ち着きました。

 翌年、掲示板サイトにスレッドが立てられました。


【怪談】第二回 百物語 グル壱【実況】


ルール

 前回行われた物と同じ内容で行います。以下コピペ↓


 ・参加者十名。(うp主含む)

 ・他の参加者はうp主の友人で、わかりやすいようにコテ付します。

 ・今回の百物語は怪談話ではなく伝統的な方法で行います。詳しくはウィキの百物語の項を参照。

 ・スレとリアルで同時並行して行います。無駄レスはできるだけ遠慮してください。

 ・前述の伝統的な方法では九十九話で終了しますが、こちらは百話までやりきります。

 ・百話終了後、リアル及び閲覧者の周囲で怪奇現象が起こったらレスお願いします。


 追記、今回は複数のグループがあるようですが、異変を感じたらすぐ止めるか、逃げるなどして、自己責任で対応してください。

 

 開始時間、八月十五日 二十時より開始。


 その翌日以降、各都道府県複数の地域で集団怪死、集団自殺などの事件が多発し、隠しきれないと判断した国が、大々的に動き出すほどの案件となってしまいました。

 結果、その掲示板サイトは閉鎖とされ、自体は沈静化するものと思われました。

 しかし、人の探究心という物は、時として、どこまでも人を盲目にするのです。

 それこそ、自身の命すら省みぬ程に。


 その翌年、SNSやほかの掲示板サイトを利用し、再び百物語を実行する者達が現れたのです。

 しかも、ご丁寧なことに国内のサイトではなく、海外のサイトを利用することによって警察の目を逃れ、百物語は実行されてしまいます。


【Horror】ROG_Third Season GROUP_A【LIVE】


※以下英文

ルール

 前回行われた物と同じ内容で行います。以下コピペ↓


 ・参加者十名。(うp主含む)

 ・他の参加者はうp主の友人で、わかりやすいようにコテ付します。

 ・今回の百物語は怪談話ではなく伝統的な方法で行います。詳しくはウィキの百物語の項を参照。

 ・スレとリアルで同時並行して行います。無駄レスはできるだけ遠慮してください。

 ・前述の伝統的な方法では九十九話で終了しますが、こちらは百話までやりきります。

 ・百話終了後、リアル及び閲覧者の周囲で怪奇現象が起こったらレスお願いします。


 追記、今回は複数のグループがあるようですが、異変を感じたらすぐ止めるか、逃げるなどして、自己責任で対応してください。

 

 開始時間、八月十五日 二十時より開始。


 結果は、やはり酷い物でした。それも、前回を上回る規模のものです。

 このスレッドを見た他国の人達が、興味本位で百物語を実行してしまったのです。

 不幸中の幸いは、詳しい方法までは英訳されていなかった為、正しい方法で行えずに、何も起こらなかったケースが大半でした。

 この自体を重く見てか、各国の掲示板やSNSを軒並み停止するという動きが見られましたが、それらを運営する企業からの反対にあい、かと言って、心霊現象を法律で取り締まるようなこともできず、具体的な手を打てないまま月日は流れ、今年の夏も、百物語が行われることになってしまいました。


【Horror】ROG_Last Season GROUP_A【LIVE】


※以下英文

ルール

 前回行われた物と同じ内容で行います。以下コピペ↓


 ・参加者十名。(うp主含む)

 ・他の参加者はうp主の友人で、わかりやすいようにコテ付します。

 ・今回の百物語は怪談話ではなく伝統的な方法で行います。詳しくはウィキの百物語の項を参照。

 ・スレとリアルで同時並行して行います。無駄レスはできるだけ遠慮してください。

 ・前述の伝統的な方法では九十九話で終了しますが、こちらは百話までやりきります。

 ・百話終了後、リアル及び閲覧者の周囲で怪奇現象が起こったらレスお願いします。


 追記、今回は複数のグループがあるようですが、異変を感じたらすぐ止めるか、逃げるなどして、自己責任で対応してください。


 追々記、今回で最後の挑戦になると思われます。警察も動いているようなので、皆様、準備などは十分に注意して行ってください。健闘を祈ります。

 

 開始時間、八月十五日 二十時より開始。


 百物語は、これで最後となります。

 あれだけの被害者を出している以上、今後しばらくの間は行うことができなくなるでしょう。

 もしかしたら、いつの日か再び始まるかもしれませんが、果たして、その時まで私は生きているのでしょうか?

 今回の百物語には、私も参加します。

 大切な友人が無理やり参加させられてしまった為、やむなく参加することにしたのです。

 私は百物語が嫌いです。

 私は、私の兄を奪った百物語を許せません。

 命こそ無事でしたが、今の兄は抜け殻です。

 兄の魂は、最後に現れた何者かによって奪われたのです。

 兄の友人達も皆、変わり者でしたが、とても気の良い人達でした。

 出来ることなら、この世から消してやりたいほど憎いです。

 ですが、一人の人間でしかない私には、どうすることもできません。

 今回参加したのも、友人を連れて途中で逃げ出そうと思っているからです。

 聞いた話だと、私にとって幸いにも、条件としては最適な物件ではないようなので、何も起こらないと思われますが、異変を感じたら、すぐにでも友人を連れて逃げるつもりです。

 通報しようとも考えましたが、企画した相手は、よりによって権力者の娘です。

 私はともかく、友人にまで被害が及ぶかもしれません。

 おとなしく従う他、手段はありませんでした。

 彼女が言うには、確実に何かが起こるようにと入念な準備をしているのだそうですが、嫌な予感しかしません。

 私には、どうすることもできません。

 百物語は、明日には行われます。

 何事もなく終わることを切実に祈るばかりです。

 

 と、以上が、一年ほど前まで騒がれていた百物語のスレッドに関する一連の流れだ。

 たまたま発見したこの記事は、どこかの女子高生がブログに残したものらしい。

 なぜこんなものが残っていたのかはわからないが、非常に好奇心をそそられる。

 ジャーナリスト魂が騒ぐとでも言うのだろうか。

 オカルト雑誌の記者として、なんとか、この少女と連絡を取りたいものだ。

 俺が見つけた記事は、ここまでで終わっている。

 とはいえ、彼女らが百物語を行ったと思われる場所は特定できた。

 まずは、そこに行ってみるとしよう。



 某県某所、高級住宅の立ち並ぶ一角に、その屋敷はあった。

 一年前の八月十六日、この屋敷の持ち主やその家族、遊びに来ていた持ち主の娘の友人達、使用人までもが変わり果てた状態で見つかったそうだ。

 死者十名、重傷者七名、他五名は軽症で済んだが、混乱が酷く、施設にいるらしい。

 屋敷の中は、殺人現場に慣れた警官ですら病んでしまうほど、酷い有様だったようだ。

 現在、屋敷の門は厳重に閉ざされ、一切の立ち入りが禁じられている。

 とてもじゃないが、入れそうにない。

「さすがに無理か……」 

 屋敷の周りをぐるりと一周回って、思わず呟いた。

 しかし、この厳重な管理に少し疑問を抱く。

 屋敷の周囲はどこを見て回っても厳重に閉ざされているのだが、どうもその対象がおかしい。

 通常なら、外からの侵入を防ぐために、大半の鍵などは内側に設けるはずだ。

 しかし、鍵は全て外側を向いている。

 生憎と俺には鍵を開けるような技術はないので不可能だが、何らかの方法で鍵を開けることができるのなら、侵入は容易だろう。

 他にも、返し状の鉄条網がわざわざ内側に張られていた。

 これは明らかに、外からの侵入よりも、内側から何かが出るのを警戒しているとしか思えない。

 得体のしれない恐怖を感じて、思わず身震いすると、いきなり背後から声をかけられた。

「おい、何をやっている!」

 驚いて振り返ると、そこには警備会社の物と思われる制服を着た男がいた。

 しかし、随分と物騒な装備だな。大型警棒タイプのスタンガンにタクティカルアーマー、おまけにシールドまで担いでいる。

「いえ、知り合いの家を訪ねてきたのですが、道に迷ってしまって……」

 とっさに出まかせを言うと、相手は疑うそぶりを見せながらも「そうか、ここは立ち入り禁止区域となっている。今すぐ立ち去りなさい」と言ってきた。

 ふう、危なかった。ここはひとまず退散しよう。

「すいませんでした。あの、何か事件でも?」

 とは言え、ただで引き下がるのも何なので、何も知らない風体を装って聞いてみた。

「……そんなところだ。さあ、早く行きなさい」

 駄目か。あの様子だと、詳しいことは知らなそうだな。

 俺はもう一度警備の男に謝ると、屋敷を離れた。

 さて、次の行き先は病院だ。例の女子高生は重体で運ばれたようだが、果たして、どの程度無事なのかが気になる。せめて意識はあってほしい物だ。

 と、歩き出したところで、ふと視線を感じた。

 屋敷の方角だ。

 先ほどの警備員かと思って振り返るが、人の姿はない。

 しかし、視線はより強く感じる。

 目を凝らして屋敷の方を見ると、屋敷の二階にある中央の部屋。その部屋の大きな窓から、誰かがこちらを見ている。

「あれは……?」

 持っていたデジカメの望遠機能を利用して確認すると、そこにいたのは十代半ばと思われる少女だった。少女の視線がこちらをとらえ、その口元が小さく動く。たった二文字の言葉だ。


「きて」


 それだけを呟くように言うと、少女は部屋の奥へと吸い込まれるようにして消えた。

 たったそれだけのことだというのに、嫌な汗が止まらない。

 このような体験は初めてではないが、今回のは明らかに次元が違った。

 見た目だけは、どこの学校にも必ず一人は居そうな、おとなしい印象の少女だった。

 だというのに、画面越しに見た彼女からは、邪悪で醜悪な何かの片鱗が見て取れた。

 あれは、いったい何だったのだろう。

 ひとまず、考えていてもしょうがないので、俺は気を取り直して病院へ向かうことにした。



 駅のすぐ近くにある総合病院、そこの重篤患者専用の隔離病棟に、彼女はいた。

「……誰?」

 それが、俺を見た彼女の第一声だった。

 まあ、無理もない、看護師をうまいこと騙してここまで来たのだ。

 まずは、自己紹介だな。

「初めまして、オカルト雑誌の記者をやっている者だ」

 と、名刺を差し出す。

「はあ、モノダさんですか」

「いや、名刺を見ろよ!」

 思わず突っ込んでしまった。

「すみません、興味がないものですから」

 なかなか手厳しい少女だ。

 とはいえ、おとなしく引き下がるわけにはいかない。

「って、待て、何をやっている?」

「え、ナースコールしようかと。変質者がいるって」

「ま、待て! 落ち着け!」

「え、やだ、触らないでください! 妊娠しちゃう!」

「しねぇよ! 処女かお前は!」

「ええ、どうせ処女ですよ。処女で悪かったですね……」

「いや、だからそれをまず手放そう。俺が悪かったから。なっ?」

 中々コールボタンを手放さない少女を根気よくなだめると、どうにか落ち着いてくれた。

「……それで、オカルト雑誌の記者さんが何の用ですか?」

「君の残したブログを見た。ハンドルネームはアリスだったな。君で間違いないか?」

「……はい。見たんですね。あれを」

「ああ、色々と悩んだ末に参加することにしたようだが、詳しい理由を聞いても?」

「……簡単なことですよ。私、女子高に通っていたんですけど、クラスではいじめられていましたから」

「そうだったのか……」

 多少雰囲気が暗いとは言え、なかなかの美少女だと思うんだがなぁ。身体つきもこの年頃にしては発育の良い方だと思うし、性格とは裏腹に気の強そうな顔立ちもまたいい。

「……変な目で見ないでください。呼びますよ?」

「勘弁してください。捕まってしまいます」

「……まあ、いいですけど。それで、最初のうちは、そんな危ないことが分かっているのにやるなんて馬鹿じゃないのって思っていたんですけど、私の友達が無理やり参加させられちゃって……」

 ああ、そこからはブログの通りってわけか。

「なるほどな。で、自分も参加して、友達だけは助けようとしたってわけか」

「はい、無理言って参加させてもらえたんですけど、会場に行ってみると……」

「どうした?」

「……あの、呪物って、知っていますか?」

「ああ、知っているし、見たこともあるぞ。良い物から悪いものまであるが、初めて本物のコトリバコを見た時はやばかったなぁ」

 あの時は、スタッフの女の子が何人か体調崩したりして、本当に危なかった。

 見ただけだからその程度で済んだが、あれに触れていたら、一体どうなっていたことか。

「……もし、仮にですよ? そういった強力な呪物が大量にあって、それが一か所に集まったら、どうなるか、わかりますか?」

 一瞬、何を言われたのかわからなかった。

 が、その言葉の意味を理解して、俺は総毛だった。

「……おい、まさか……嘘だろ?」

「嘘だったら、どんなに良かったことか……バカな金持ちが興味本位で呪物や術に手を出した結果が、今のあの屋敷です。見てきたんでしょう?」

「……なんでわかるんだ?」

「……たくさん憑いていますからね」

「うわっ! そういうのやめろよ! 見えてないけど信じているんだからな! だ、大丈夫なのかっ?」

「……近寄っただけなら平気です。ただ、中に入るのなら、それなりの覚悟が必要ですよ? 正直、見えないあなたが羨ましい……」

「そ、そんなに酷いのか? その、見えてると」

「……カメラは持っていますか?」

「ああ、デジカメなら」

「少し貸していただけますか?」

「ああ」

 アリスに出顰めを渡すと、彼女は「んっ」と、力を籠めるような動作をした後、俺に返してきた。

「画面越しに私を見てください」

「何をしたんだ?」

「早くしないと効果が切れてしまいますよ?」

「あ、ああ」

 慌ててカメラをアリスに向け、画面を見た俺は、デジカメを放り出しそうになった。

「うわ! な、なんだこりゃ! どういう仕掛けだっ?」

 カメラ越しに見たアリスには、黒い靄のような物がまとわりついていた。

「……少しだけ、私の力を込めてみました。上手くいったようで何よりです。そこに映っているのが、普段、私が見ている光景ですよ」

「君の周りに黒い靄のようなものが見えるんだが……」

「……あまり言いたくははないのですが、知りたいですか?」

「あー、いや、言いたくないのならいい。君は平気なように見えるが、それは、大丈夫なのか?」

「……少なくとも、私に害を加えるつもりはないようです」

「君が大丈夫ならそれでいいが……お祓いとかは?」

「……子供の頃、神社に入ろうとして神主さんに断られたことがあります。私の中にいるものは神様を食べようとするから、こう言う所に入ってはいけないと言われました。それ以来、お寺や神社には近づいていません」

「そうか……所で、こんな病棟に入っている割には、どこにも怪我はないようだが?」

「ああ、先月までは虫の息でしたよ。生命維持装置に繋がれて、生きているのが不思議なくらいの状態でした」

「はあ? そんな状態から一ヶ月でここまで回復したのか?」

「……まあ、そうなりますね」

「もしかして、さっきの黒い靄が関係しているのか?」

「……おそらくは、そうでしょうね。屋敷から逃げる時に、この子も随分と酷く弱っていたのですが、一か月前にそれなりの力を取り戻したみたいで、その日から、私の身体も驚くような速さで治っていきました」

「スゲェな……」

「あげましょうか?」

「いや、遠慮しとく」

「……不気味、ですよね」

「確かに、それは不気味だが、君は可愛いと思うぞ?」

「……はあ? いきなり何言ってるんですか? 口説いてるつもりですか? 私が処女だからって馬鹿にしてますか? 呼びますよ? 今度こそ呼びますからね?」

「悪かった! 俺が悪かったからそれだけは勘弁してくれ!」

「……全く、男なんて、みんな下半身直結型思考なんですから」

「君は男に恨みでもあるのか……」

「……恨みはありませんが、嫌いです。小さな頃からよくいじめられていたので」

 小さな頃からって……この子の場合、どっちの意味なんだろう。可愛い子は苛めたくなるってやつか、それとも、子供は幽霊が見えやすいから、この子に憑いている何かを見てなのか。

「……きっと後者ですよ」

「なんでわかったっ!」

「……そういう顔をしていたので」

 この子、実は人の心を読めるんじゃないだろうな?

「……そんなことはないですよ」

「読まれてる! もしかして、それも君の力か?」

「いえ、本当にわかりませんよ。あなたの顔がわかりやすいだけです」

 そう言えば、昔から思っていることが顔に出やすいぞと家族や友人に言われていたな。

「……単純で悪かったな」

「……でも、そういうところは好ましいと思います」

「お、嬉しいこと言ってくれるねぇ。もしかしてお兄さんに惚れちゃった?」

「調子に乗らないでください。呼びますよ?」

「ごめんなさい。調子こきました。すみませんでした!」

「……それで、結局、お兄さんは何が目的でこちらへ?」

「ああ、屋敷を見に行ったら追い返されたんで、生存者と接触を取ろうと思ってな。で、あのブログを書いていた君に白羽の矢が立ったってわけだ。ああ、そうだ。ひとつ気になっていたことがあるんだが、聞いてもいいか?」

「……はい、なんでしょう?」

「事件による死者十名、重傷者七名、他五名は軽症で、頭がいかれ……混乱して入院中となっているんだが、百物語を行った人数は十名以上いたのか?」

「いいえ、百物語を行ったのは十名で間違いありません。残りの人は、屋敷の主人や使用人等です」

「それだと、ルール違反になるんじゃないのか?」

「はい、ですが、始める前から既に怪奇現象が起こりつつあるような状態でしたので。それに、あくまで百物語の舞台は三間の部屋なので、ルールからは逸脱していません」

「なるほどな。じゃあ、死んだ十人っていうのは、どういう基準で選ばれたんだ?」

 死者の十名は、屋敷の主人、使用人が三名、参加者の男子高校生四名と女子高生二名だ。

 共通点らしきものを調べてみたが、何もなかった。

「基準なんてものはなかったと思います。あの時、私と友人は最後の自分の話を終えたあと、こっそりと抜け出したので、部屋に残っていた参加者は八名だったはずです。生き残った二名がどのように逃れたのかは知りません」

「じゃあ、百物語を終えた後に出現した何かは、参加者六名を殺害後、屋敷内にいた四名を無差別に殺したってところか?」

「おそらくは、そうなりますね。実は、私が調べた過去の百物語に関わる事件でも、必ず人が十人、死んでいます」

「それはルール上、十名で行うからだろう?」

「いいえ、生存者のいた事件がひとつだけあります」

「……あっ、最初の百物語か! だが、あの時の死者は九名となっていたが?」

「別件で処理されているのです。隣家のおじいさんが亡くなっているのが、事件の三日後に見つかったんです。死亡推定時刻は、百物語があった日の夜です」

「不足分を近くにいた人間で補ったわけか……」

「はい、しかし、あの屋敷に現れたものはそれだけでは止まりませんでした」

「そういえば、重傷者が七名いたな」

「そのうちの一人が私ですね。あとは、私の友人です。二人で逃げていたのですが、あいつに襲われて友人が大怪我を負い、友人を背負って一緒に逃げようとした私を襲ったところで、私の中の子が現れて、争い始めたんです。なんとか私の中の子が追い払ったようなんですが、どちらも随分と弱っているようでした。ただ、あいつが逃げていくのを確認したところで、私は気を失ってしまったんです」

「で、気づいたら病院のベッドの上ってところか?」

「……はい、彼女も無事だと話には聞いていますが、まだ一度もあっていません」

「どういう子なんだ?」

「とても大人しくて優しい子ですよ。写真、見ますか?」

「ああ、いいのか?」

「写真くらいならいいですよ」

 と、写真を見せられた俺は、絶句した。

 そこに映っていた少女は、つい先ほど、見かけたばかりなのだ。

「……この子で、間違いないのか?」

「そうですが……どうかしましたか?」

「落ち着いて聞いてくれ」

「っ! あの子に何があったんですか!」

「ま、待て! 俺の勘違いかも知れないんだが、屋敷に立ち寄った時、屋敷の中に人がいて、その顔が、この子にそっくりだったんだ」

「嘘……どうして……?」

 ショックのあまり呆然とする彼女をどうにかなだめようとしていると、ふと、百物語という単語が耳に入ってきた。

 見ると、室内テレビがいつの間にか点いていて、一年前の事件や、一連の百物語事件に関して有名な霊能者やコメンテーターが語り合っていた。と、そこへ速報が入る。

 去年の百物語事件で重傷で入院していたはずの少女が失踪したというのだ。

 そして、画面に映し出された少女の顔は、手元の写真と同じ人物だった。

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