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セカンドライフ――俺の記憶が戻るまで  作者: 力水
目覚め――迷宮攻略編
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第7話 迷宮攻略(3)


迷宮入りから 30日目 迷宮150階層


 朝だ。ベッドから飛び起きる。今日はアジに指定されたクラスチェンジ、レベル上げの期限の一ヶ月。この150階層の探索はすでに済ませており、マッピングも完璧だ。この150階層には【ギガンテス】と【死霊蛙王(ゴーストフロッグキング)】の他に、十メルを超す巨大蜘蛛である【地獄の大蜘蛛】、八本首の大蛇である【八岐大蛇】、闇の精霊である【闇の覇精霊】がいた。強さは【闇の覇精霊】と【地獄の大蜘蛛】はBクラスだったが、【八岐大蛇】はクラスA。当然のごとく何度も死亡と復活を繰り返し遂に【八岐大蛇】を倒しクラスAに到達する。その後はクラスAの【八岐大蛇】を倒しLVを上げる。

この一ヵ月間のレンの修行の成果は次の通りだ。


【レン・ヴァルトエック】

・種族   :人間

・年齢   :15歳

・LV   :19

・クラス  :A

能力値(ステータス)  :筋力92 耐久92 素早さ98 魔力99

能力(アビリティ)   :《天稟》《Cクラス以下物理攻撃無効》《Bクラス精霊召喚》《滅びの蜘蛛糸》


能力(アビリティ)名:《Bクラス精霊召喚》

◇詳細 :Bクラスの全属性の精霊をランダムで召還し使役する。

 

これは、【死霊蛙王(ゴーストフロッグキング)】がもっていた《Dクラス死霊合成》、【破滅の大蜘蛛】が持っていた《Cクラス蠱毒》、【闇の覇精王】が有した《Cクラス闇精霊召喚》が融合してできた能力(アビリティ)だ。


能力(アビリティ)名:《滅びの蜘蛛糸》

◇詳細 :炎、氷、雷、風、水、石、光、闇の性質を有する糸を召還し発動者の敵と認識した者を自動追尾攻撃する。


【地獄の大蜘蛛】が持っていた《地獄の蜘蛛糸》と【八岐大蛇】が持っていた《混色ブレス》が融合した能力(アビリティ)であり威力は凄まじいの一言。具体的には火の属性を有する蜘蛛糸を召還し【ギガンテス】に差し向けると糸に触れただけであの巨体がコンマ数秒で魔石すらも残らず炎滅するほどである。

Aクラスにクラスチェンジしてからレベルの上がりが極端に遅くなった。おそらく、地上にでるまでにSクラスにチェンジし得るかどうかというところだろう。

 アジが用意したいつもの黒色の衣服に着替え【カラドボルグ】と鞄を装着し、アジと殿下の待つリビングに向かう。



「おはようございます! 殿下! アジ!」


「「おはようございます(おっは~)」」



 殿下がレンの姿を視界に入れ顔を喜色に染める。黒いゴスロリ衣装を着た黒髪の幼女竜――アジが殿下にドヤ顔を向ける。


「キャロルちゃんの勇者様が来たところで今後の方針を話し会おうか」


 顔を紅潮させ俯く殿下。一ヵ月も一緒に生活をしていれば凡そ、このキャロル殿下という方の人物像が見えて来る。この方はこの手の桃色話のいなし方が超弩級に苦手なのだ。それがアジの琴線に触れるらしく毎日のようにからかわれている。にしても毎日レンを出汁に使うのは如何なものか。アハル様やフレイザーさんなど他に相応しい方など幾らでもいるだろうに。


「今日、地上へ向かうんだよね? 僕はOKだよ!」


 話題を強制的に変えるレン。アジもそこまで引っ張るつもりはないらしく大きく頷く。


「そうさ。今日から地上へ向かう。150層から120階層までは魔物も強いし環境もかなり過酷だからできる限りゆっくりいくよ」


「了解! それで提案なんだけど150層から上の階層も僕にマッピングさせてほしいんだ。その方が効率的だしさ」


 殿下が魔物が充満した迷宮を歩くのは出来れば避けたい。今のレンならば守り切れるとは思うが絶対ではない。迷宮には絶対はない。これは『世界冒険記』に記されていたことだがレンと殿下が迷宮の奥深くにいる時点で真理だと思う。


「ボクはそれで構わないよ。キャロルちゃんはその間ボクの本体とこの空間でお留守番ね」


 アジの言葉に殿下が幽鬼のような表情で勢いよく席を立ちあがった。


「だ、だめですわ! レンが危険なことするなんて絶対だめです!」


「キャロルちゃん。大丈夫。君の勇者様はボクの分身体が必ず守るからさ。これは修業の一環なんだよ。君もレン君に強くなって欲しいんだろう?」


「そ、それは……」


 膝の上に乗せた両手を震わせる殿下。それ以来、殿下は口を一言も発しなくなってしまった。だが丁度いい。これで殿下の一応の納得も得られた。魔物をできる限り狩ってから殿下には迷宮上層をめざしてもらう。

 こうして、レンの迷宮上層の探索が始まる。



 迷宮141階層

レンは今迷宮の上層へ魔物を殲滅しつつ探索をしている。たった一日で10階層近く上がる事が出来た。これは上層の魔物の強さが150層と比較して段違いに弱かったことも確かにある。だが、それ以上にレンの迷宮探索能力が上がっている事が大きい。より効率的なマッピングの仕方、魔石やドロップアイテムの回収運搬の仕方、魔物に囲まれない探索の仕方など一ヵ月までとは別人のように上手く処理できるようになっていた。


「よし。ドロップアイテム、ゲット!」


 怪獣のような巨大蜥蜴を一刀両断した後、魔石とともに、巨大な牙がカランと乾いた音をたてて石床に落ちる。魔物は倒すと魔石化する。その際に、ある条件を満たすことにより、1%以下という極めて僅かな確率でドロップアイテムが得られることがある。その条件とはドロップアイテムの部位は決して攻撃してはならないこと。実際、戦闘でドロップアイテムを気にしながら戦うわけにもいかず、得られる可能は限りなく低い。だからこそ得られた時のうれしさは一際なのだ。

 口元がほころばせながらドロップアイテムを抱える巨大な袋へ放り込み前方に聳え立つ扉に視線を向ける。扉には幾つもの魔法陣が刻まれている。


「これ何だろうね? 儀式の間?」


「これは門番(ゲートキーパー)のいる部屋だよ。ボクを迷宮外に出さない目的で設置された陰険女神(おばさん)の置き土産さ」


 小竜アジが忌々しいという顔色を器用にも浮かべながら答える。


「上層への階段はこの部屋の中?」


「そうだよ。ちょ、ちょっと、何やって――」


 レンは不気味で冷たい扉に掌を当て押し開ける。


「ここでつっ立って考えていても埒開かないさ。一度部屋に入ってみないと対策の立てようもない。どの道、地上に出るにはこの部屋を突破せざるを得ないんでしょ?」


「そ、それはそうだけど。また君、傷つくかもしれないよ?」


「あの糞蛙に散々齧られたからね。今更その程度で恐怖などしないさ。また死んだら生き返らせてよ。」


 まだ何か言いたそうな小竜アジから視線を部屋の奥へ向けるレン。部屋の中は5階層、150階層の祭壇の間と全く同じ風景。女神様手を抜き過ぎだろう。神話とは異なり、かなり大雑把な性格のようだ。この迷宮に入ってから女神様、竜のイメージが目下大崩壊中である。


『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』


 部屋中をわななかせる凄烈な咆哮。その咆哮はまるで女性の悲鳴のようで精神的嫌悪感をかきたてる。その気色悪い声の主は部屋の中心に浮遊する半径数メル程の白い球体だった。ただし、変哲もない球体では断じてない。球体の表面に無数の顔が張り付いていた。

(女神様の趣味ってB級ホラーの鑑賞だったりするのかな?)

 天眼で解析する。

【魍魎聖歌隊】

・LV   :5

・クラス  :A

能力値(ステータス)  :筋力10 耐久10 素早さ10 魔力35

能力(アビリティ)   :《死の咆哮》

・弱点   : 火


 能力値(ステータス)的には今のレンの相手ではない。だが、アジがこれほど警戒するのだ。能力(アビリティ)が極悪なのかもしれない。発動される前に最大戦力で叩き潰す事にしよう。

 《滅びの蜘蛛糸》を発動する。フワッと紅色の無数の糸がレンの周囲に浮かぶ。眼前の白色球体を焼失させるよう命じる。糸はレンの命にまるで狂喜するかのように何度か空を舞い踊り部屋中へ散らばっていく。白色球体に狙いを定め空中で停止する。


「やれ!」


 レンが言葉を発するやいなや無数の紅の糸たちはまるで赤い流星のように一斉に白色球体に殺到し落ちて行く。その体を無数の紅の糸が串刺しにすると同時にその身を灼熱の炎で燃やし尽くす。

「は……?」

 一切の抵抗する事を許さずジュッという快音を響かせ消滅した白色球体にアジは目を見開き、大口を開けている。


「よし。終わりっと。今日はこの辺で――」


「まて、まて、まて、まて、まてぇ! 君、今のは!?」


 小竜はレンの周りをパタパタと飛び回りながら捲くし立てる


「汚いなぁ。唾飛んでるよ」


「そんなのどうでもいい!」


「あれは僕の能力(アビリティ)。150階層魔物を倒したら覚えたんだ」


「魔物を倒して覚えた? そんな無茶苦茶な……」


「そう言われてもね。真実だし」


 小竜アジは空中に急停止し親指の爪をカリカリと噛んでいる。一丁前に思案しているようだ。その姿がリスが木の実をカリカリと齧っているかのようで思わず頬を緩め小竜アジの頭を撫でる。レンは昔から大の動物好きだ。特に小さくちょこちょこしている生物には目がない。


「なっ、な、何するんだ、君は!」


「リスみたいで可愛くて」


 未だに撫でるのを止めようとしないレンに小竜アジは溜息をついて頭を左右に振る。


「ボクをリス呼ばわりするのも君くらいだよ。一つ確認なんだけど、君今クラス幾つ?」


「クラス? Aだけど」


「……それ嘘言ってないよね?」


「何で僕が嘘言うの?」


「……」


 小竜アジは頬をピクピクいわせると再び思案の海にのまれてしまった。そんなに驚くことだろうか。150階層はA、Bクラスの魔物達が跳梁跋扈する楽園だった。その中で鍛えればAクラスくらい直ぐに到達し得ると思うのだが。


「ねえ。殿下も待っているだろうし速く帰ろうよ」


 小竜アジの頭を撫でるにも飽きたレンはアジをせかす。


「……わかったよ。帰ろう」



 殿下の元へ戻るレンとアジ。アジは終始無言。殿下も何処となく刺々しい。


「まだ時間もあるし、今日少しでも進んでおかない?」


「そうだね。141階層まではレン君があらかた倒してしまって今は無人だしぃ。再び魔物の巣窟化する前に通り抜けるのが無難かなぁ」


 アジの了解も得られた。後は殿下なのだが……。つんと、そっぽを向いてしまっている。女の人はホント良く分からない。気紛れ過ぎるだろう。アジがニヤニヤしながらレンに視線を向けてくる。


「君がボクの頭を何度も、何度も無遠慮に撫でたことを彼女に話したのさ。まあ、ボクなりの意趣返しと思ってくれ給えよ。はっはっは!」


 ワザとらしい高笑いを部屋中に響かせるアジに、『この糞小竜(ファンキンミニドラ)』と心の中で命一杯の罵声を浴びせるレン。殿下に事情を説明するとやっと話をしてくれるようにはなった。もっとも、まだ頬を膨らませたままであり、納得はしていまい。

 


 殿下の了解を貰い、レンは殿下と150階層の儀式間にいる。レンはキャロル殿下に背を向けてしゃがみ込み肩越しに殿下を見上げる。


「殿下。では僕の背中におぶさってください」


「え? え~~~!?」


 殿下は頬をみるみる紅潮させ、頬に両手を当てて悶えている。その様子をみてレンは自分の失態に思い至る。


(あ~そうか。殿下に触れるのはマズイんだった。だけどそれならどうする? 殿下に迷宮内を歩かせるわけにもいかないし。小竜の背にでも乗せてもらう?)

「あの~殿下。嫌ならアジにでも……」


 レンが言葉を紡ぎ終わる前に細い両腕がレンの首に巻きつく。背中にも柔らかな感触がする。


「レ、レン。私を地上まで連れて行ってください!」


 震え気味の殿下の声がレンの耳に入って来る。


(この人が今どんな顔をしているのかは想像はつくよ。きっと、断ると僕が傷つくとか思ってるよね。気を使わないでほしいな)


「はい! 必ず僕が殿下を地上までお連れします! じゃあ、行きます! すぐに着きますので目を瞑っていてください!」


 殿下のレンの肩に回す手に力が入る。レンは儀式の間の扉を開け駆け始める。

 




 お読みいただきありがとうございます。

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