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第9話 歴史の裏舞台


           ◇◇◇◇


 聖歴512年8月20日


 世界の記憶が見せた最初の場所はエインズワース西側大陸にある弱小国ロイスター王国の首都――ラシスト。その首都の魔法道具屋に物語の主人公となる魔導士とその魔導士が溺愛する息子が住んでいた。

この魔導士の顔がレンで、その息子がフレイザーだったのには思わず吹いてしまった。これも女神なりの洒落なのだろうが、キャラ設定が著しく間違っている。せめて魔導士役をハミルトンにでもすればここまでの強烈な違和感は抱かなかっただろう。それほど魔導士はレンの今のイメージとかけ離れていた。

その魔導士は傍若無人、短気でキレやすい。上下関係に頓着はなく、如何なる立場の者に対しても不遜な態度をとる。

自己が経営する魔法道具店で働く仲間と養子の一人息子以外に一切の興味がなく、王都の近隣で盗賊や魔物の襲撃があっても知らんぷり。

店の経営も仲間と一人息子にすべて押し付けていつも昼寝と読書、研究に費やす。そんな偏屈な人間失格のダメ人間。

この自己中心的な英雄像とは真逆な魔導士にレンは強烈な嫌悪感が湧く。

女神がこのタイミングで見せるのだ。この魔導士はロイスター王国の建国に少なからず関わる人物であり、かなりの実力を有するのだろう。それなのに泣いている弱者を助けない。後に英雄――ベオウルフあたりに影響され会心でもするのだろうが、見捨てたという事実を消せはしない。だからこんな人物にレンは憧れないし、自分の姿を重ねて欲しくはない。

 

 8月末、魔導士はいつものように4階で魔道書を読みふけっていた。

そんな暑い日の日暮れ、王都上空に黄金の龍神――バハムートと毒蛇の魔神――アスタロトが出現し、戦闘を開始する。龍族と魔族の最上位クラスの全力の戦いだ。小規模都市に過ぎない王都ラシストなど一瞬で壊滅だろう。

案の定、バハムートとアスタロトの最初の衝突による破壊で、ロイスター王国の王都は半壊する。

 当然魔法道具店も瓦礫の山の一つとなり果てた。魔導士は瓦礫をかき分け、必死に1階で店を手伝っていた息子を探す。

目に入れても痛くない程に可愛がっていた一人息子は瓦礫の下敷きとなり虫の息となっていた。すぐに魔導士の魔法で回復させ、息子を仲間に託し、今も戦闘を続ける上空の愚か共に攻撃を開始する。

魔導士も所詮人間だ。通常なら人間が神や魔の戦争に参戦しても屍が一体増えるだけ。戦闘の様子を見たところ、少なくともバハムートとアスタロトはクラスSのレベル後半はある。人間の身で圧倒するなどあり得るはずもないのだ。

しかし、レンのその予想に反し魔導士は非常識に強すぎた。事件を引き起こしたバハムートとアスタロトは魔導士の出鱈目な魔法で一方的に半殺しになる。

アスタロト達を圧倒した奇跡のような魔法は以前カリーナが使用した魔法に似ていた。もしかしたら、この魔導士とカリーナは因縁があるのかもしれない。

 闘いが終わり、息子の元に駆けつける魔導士。

魔導士の息子の怪我自体は治った。だが一切意識が回復せず、昏睡状態となってしまう。その事実に目の前が真っ暗になるほどの絶望を味わい、それでも目を覚ます希望にすがった。だが、一向に目を覚まさない息子に少しずつ絶望が憤怒に、憤怒が憎悪に変わっていく。

遂に、耐えられなくなった魔導士は、この事件を引き起こした天族・龍族・幻獣族・魔族に対し宣戦を布告する。



魔導士は西側大陸のアスタロトの率いる魔族の王達を破り、東の大陸で争っていた魔神ルシファーと悪神ロキ、南の大陸で魔神ベルゼビュート、死神タナトスを相次いで撃破する。

半死半生で帰還したルシファー達から事情を聞いた魔族側の大ボスである魔神大帝サタンが魔導士の前に現れ戦闘が開始される。

 丁度世界の中心とされる無人島で魔導士とサタンは闘い続け、約60日後、サタンの敗北で神と魔の闘いは意外な終焉を迎えた。

サタンは他の魔神を引き連れ地獄界に去り、神々達も戦闘を継続する意味もなくなった。

確かに事故の原因の魔神を地獄界へ追放し、魔導士の憎悪と憤怒が一時的にではあるが治まってはいる。だが神・龍・幻獣に対してはまだ怒りは継続中なのは間違いない。それを危惧した神々に泣きつかれた天神と女神が策をひねり出す。

 女神と天神は魔導士に近づきある提案する。

天神が魔導士の息子の意識を取り戻させることを条件に、ロイスター王国の王女を盟主に魔導士が混沌の最中(さなか)にあるエインズワース西側大陸を平定することだ。この件についてレン達が女神から与えられた情報は少ない。だが予想はつく。

魔導士に謝罪し息子の意識を戻せば神々達に対する怒りはあっさり治まるだろう。だが息子に害を及ぼした事に対する敵意は持ち続ける。それは後々面倒だ。

そこで逆に条件を付ける事で、一連の事件に神々は基本無関係である事を魔導士に認識させ、同時にエインズワース西側大陸の覇権を握る事を形式的に共に為す事で一種の連帯感を起させ敵意を減らす。こんな所だろう。

その後、キャロル殿下そっくりに設定されたロイスター王国王女――ルミル・ダイアス・ロイスターと魔導士は女神を介して出会う。そして魔導士は自身をベオウルフ・バルフォアと名乗り、大陸を平定していく。

統一後、十年で国の地盤を固めた後、魔導士はルミル王女にロイスター王国の全てを委ねて姿を消す。


英雄――ベオウルフ・バルフォア。たとえこの物語の真実を知っても、レンはこの魔導士が好きにはなれない。自身のためにしか力を振るわない。助けない。救わない。

 この魔導士にとって世界中の人々の安寧よりも息子の意識が戻る方が遥かに大事なのだろう。それはまだ許せる。レンの抱く理想の英雄像など所詮幻想に過ぎないのくらいわかっているから。

だが、それならなぜ息子から姿を消したのだろうか。世界全てを敵に回すくらい息子を愛していたのに、あっさりと捨てる。この理由について女神からは何の情報も与えられなかった。

だが例えどんな理由があったにせよ、息子を捨てるような奴をレンは許せない。そんな奴は英雄どころか、親じゃない。軽蔑こそすれ尊敬などするはずもない。




 お読みいただきありがとうございます。

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