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第7話 練習試合


 そんな事を考えながら騎士校中等部の校門に到着する。今日は土曜日。本来なら休日であり、登校する必要がない。レンもそこまで学校が大好き人間ではない。休日は本が多い図書館にでも行って入試勉強しているのが通例だ。

つまりだ。今日この場にレンがいるのには理由があるのである。

 


 昇降口で上履きに履き替えていると背後から気配がする。


「おはようございます。坊ちゃん」


 髪からローブ、靴まですべて真っ黒に染め上げられた青年から声をかけられる。

元魔王の一人、スカルロードだ。レンは単にスカルと呼んでいる。

スカルはジュラルド校長から魔法の教師として雇われ騎士校の中等部生、高等部生に魔法の教鞭をとっている。

元魔王が教師などできるのか当初疑問ではあったが、スカルは昔人間であったが、魔道の探求のため不死を望みアンデッドとなった。アンデッドとなった後も、魔道の極地を目指し驀進していたが、偉大なる存在とやらに敗北し魔王化されてしまったわけだ。

 人間時代は伝説の宮廷魔導士でもあったスカルは魔法の力は当然の事、教えるのも半端じゃなく上手かった。あれやこれやという間に、騎士校一の人気教師となっている。

 ちなみに、ヘカトンケイルことヘカは近衛騎士団に、メドゥサことメドは中央軍に就職が決まった。

ヘカもスカル同様、元人間であり、いわゆる異世界の転生者というやつだ。気が付いたら巨人として生を受けていたのでひっそりと山に籠っていたところ偉大なる存在に捕まり魔王化することになる。ヘカは異世界では侍という職業を営んでいた。この侍、ロイスター王国でいう騎士のような職業であり、ヘカの性格とも上手くマッチし、レンに次ぐ新たな主君としてカルヴィン殿下に忠誠を誓っている。その忠誠心は凄まじく、若干他の騎士が引き気味らしいが、カルヴィン殿下は大層喜んでいるようだ。お忍びで街にアニメのDVDを漁りにきたアジと偶然にも会ったときに聞いた情報だ。間違いはあるまい。

 中央軍に就職したメドは元々戦闘好き故に特殊部隊に配属されて任務に当たっている。

メドは元人間と蛇の妖精との間のハーフであり、帝国が支配する北部大陸にある妖精の村で両親と幸せに暮らしていた。しかし、帝国に攻め入られメド以外皆殺しになり捕えられる。その後、輸送中のトラックが魔物の襲撃により横転しその隙に逃げ、とある傭兵部隊に助けられ育てられる。仲間と作戦行動中に偉大なる存在に運悪く出会い、魔王化された。

 魔王化される前は凄腕の傭兵であり、軍隊の本質をよくわかっている。さらに、トリスの改造でクラスがDになった事もあり中央軍では最強の存在だ。すでに部隊長を任されて活動している。


「あ、スカルさん、おはよう。でも、人前ではレンでお願いね」

 

「これは申し訳ないですじゃ。今日は例の子供達の初会わせですかな?」


 根が真面目であったこともあり、すっかりジュラルド校長に気に入られ、スカルは今やジュラルド校長の側近だ。当然にレン達の悪巧みについても聞いている。


「うん。皆もう来ている?」


「生徒と衣装を着たトリス様はすでに全員第一修練所に集合しております。

女神様と天神様ももうじきいらっしゃるとの連絡もありました。レン……君に渡されたダメージ無効化の魔道具(マジックアイテム)もすでに設置済みです。準備は万全ですじゃ」


今日は女神と天神の子供達との顔合わせの日。早いうちに互いの力を知っていた方が後に得られる効果が大きいとの女神と天神の主張により、今日個人試合が開かれる事に相成った。


「サンクス。じゃあ、僕は修練所に行ってるよ」


 スカルに簡単な挨拶をし、第一修練所に向けて歩き出す。



 第一修練所には鮮血(ブラディ)黒騎士(ブラックナイト)の衣装を着たトリス、フレイザー、カラム、ミャー、パット、ダン、エゴンのタツチーム、バリー、ベラ、フェイ、コーマックのピョン子チームがいた。

 既にトリスから十分な説明がなされたせいか、全員が敵地に足を踏み入れたような険しい顔をしている。

今日は一対一の勝ち抜き戦。そうした理由はその方が実力をより正確に把握しやすいからだ。

カリーナ、デリア、ドロシーがいないのはレン達が知らせなかったからに他ならない。

カリーナ達は強すぎる。【キマイラ兎】を倒す前ですら、クラスCに圧勝しそうな雰囲気だったのだ。クラスDに到達したカリーナ達はすでにクラスBの敵とも互角以上の戦いができるとみて良い。その彼女達と戦って、天神と女神達の子供達が自信喪失になってしまっては本末転倒だ。今日は勝利の美酒によってもらわなければならないのだから。

 ここまではいい。だが何故この人までいるのだろう……。その人はレンを見ると両手をブンブン振る。どこからどう見てもまぎれもないロイスター王国の第一王女様だ。

 その子供のように頬をほころばせてレンに手を振るキャロル殿下の姿にフレイザーが複雑な顔をし、それをみた他の者達がヒソヒソと話し始める。

この針の筵のような状態で、天神と女神の気配がする。助かったと視線を向けると、天神の女神の背後には5柱の男女がいた。

天神と女神の事前の説明では彼らは外見同様レン達と同じ15歳だ。これは神族の特殊な体質が関係する。

神族は天界のみで完全な不老不死となり、歳を取らない。つまり赤ん坊ならずっと赤ん坊のままだ。それでは困るので20歳になるまでは、神族は通常下界で生活する。特に天神と女神の系譜の神族は下界を管理する責務もあるから、人間族に混じって生活させているわけだ。

では、フレイザーの母のように下界に留まったままの神族はどうなるのだろうか。この解は非常に簡単だ。不老不死ではない以上年老いて死ぬ。ただし、流石は神。死んでも、例え老衰したとしてもその後、天界に存在するある場所で二十歳の状態で目覚める。要は何度もやり直しがきく人生という訳だ。

だから、レンは天神や女神がこれほどの危機感を覚える事に僅かな違和感を覚える。

考えられるのは今のレンが最も危惧する状況。即ち、敵対する者に自身の大切な者を奪われること。レンもルーカス達大切な人達を殺されれば心を正常に保つ自信などない。おそらく心が壊れる。特に自身の力なくて救えなかった場合は尚更だろう。

 兎も角、天神達はこの5人が大会で敗北するシーンを他の神族の子供達に見せる事により危機感を持たせ、自己鍛錬に励ませる気だ。

 いつの間にか、校長先生とスカルも第一修練場内にいた。

バリーやパット達、同じ神族の血を引くフレイザーでさえも女神と天神に畏縮してしまっている。対して5柱の神族の子供達の内3柱はやる気なく欠伸をし、残り2柱はキャロル殿下を見て目を輝かせている。

天神はその様子に肩を竦め溜息を吐き、自己紹介を促す。

 最初は女性、名をアテナ。天神の直系を思わせる白髪ショートカット、碧眼の美女だ。伸長は高く、女性特有の凹凸のあるスラリとした体躯に自己主張する胸の膨らみ。まさに御伽噺の世界から飛び出してきたような完璧な女性だ。

 次がやる気なく何度も欠伸をしている長身の美少年がアポローン。長い白髪を後ろで束ね、黒のズボンに胸元がはだけた上着を着用する様は一見して性格がキツメのホストのようだ。この手の男を女性は放ってはおかない。

 3番目がアレス。爽やかな笑顔と金髪の白い歯がキラリと光るイケメン少年。彼も上下の白い服を着用し、トップホストのような外見をしている。ただし、眠そうに欠伸をするのはアポローンと変わらない。

 4番目ノルニルはこの暑いのに厚手の紺色のローブを着ている黒髪の少年。流石は神。例外なく美しい。

ただし、彼は終始ずっとキャロル殿下に視線が釘付けになっている。少年とその隣にいる金髪幼女に駆け寄りたくてウズウズしているキャロル殿下の姿からも、知り合いであるのは確実だ。

 5番目の聖法教会の修道服を着用した長い金髪の幼女がブリュンヒルデだ。女神の直系の神族がシスターの恰好をするのはどうなのだろうか? 何か間違っている気がするのだが……。彼女はキャロル殿下を見て目を輝かせており、十中八九知り合いだろう。

無駄は省こう。トリスに進めるように指示する。


「それでは今からフレイザー達のチームとアポローン殿達のチームとの勝ち抜き戦を行う。

人数に差があるのは実力に大きな差があるからだ。理解してほしい。

この第一修練所にはダメージを負わない魔道具(マジックアイテム)が設置されている。思う存分、武を競ってくれ」


 実際はダメージを負わないのではない。肉体的なダメージを超圧縮して魔力に対するダメージに変換しているに過ぎない。結果、仮に死亡しても数分間乗り物酔いの状態になる程度で済む。


「いや、勝ち抜き戦など必要ねぇよ。雑魚共相手に時間使いたくねぇ。まとめて来な。俺一人で十分だ」


アポローンの言葉にトリスがレンに視線を向けて来る。概ねこの発言も打ち合わせしたパターンの一つに当てはまる。アポローン達は最良の選択をしてくれた。

 今回のフレイザー達に課した課題は常に冷静になれだ。闘いには怒りは大事。だがその怒りに呑まれ冷静な判断を失えば、自身と仲間が屍に変わる。冷静に怒らなければならない。これはある意味矛盾だ。だからこそ難しい。

レンも以前、ミャーが傷つけられそうになり怒りで意識が飛んでいる。だが結果的に戦闘に特化した状態になった。あの時の状態なら例え相手がクラス2上でも勝負は成立し得る。

とは言え、カリーナ達のような反則的な能力(アビリティ)がフレイザー達にはない以上、いくら冷静になっても結果は目に見えている。その事も含めてフレイザー達には十分な説明をしている。あとはフレイザー達次第だろう。


「アポローン。そんな言い方失礼ですよ。

まあ確かに、観光の時間が無くなりますので、ボクもアポローンの一度の試合で決める意見に賛成です」


 アポローンの言葉に賛同するアレス。完璧に舐めきっている。


「私も賛成だ。時間の無駄はできる限り省きたい。それに勝ち抜き戦でなくとも死力は尽くせるはずだ」


 アテナの上から目線な発言にも誰も言葉を荒げたりはしない。ただ無言でトリスの決断を待つ。そのフレイザー達の様子に天神が目を細め、女神が口角をやや上げる。


「別に我等はそれで構わない。天神様、女神様も構いませんかな?」


 トリスが女神と天神に視線を向けて尋ねる。


「すまんな。そうしてくれ」

 

「ごめんねぇ。妾からも謝るゾ」


「では、今からフレイザーチームとアポローンチームの試合をとりおこなう。

試合形式は10対5の集団戦闘だ。試合に出るもの以外は、観客席に移動してもらいたい」


 第一修練所は丁度、ドーム状の建物で中はすり鉢状になっており、底に当たる場所に広々とした訓練場がある。

 トリスの指示により試合に出るフレイザー達以外の全員が円形の訓練場の境界の高い壁の向こうの見学席へと移動する。レンもこれに直ろうとするが……。


「そいつは試合に出ないのか?」


 アポローンがレンに視線を固定しつつトリスに尋ねる。


「ああ、彼は見学だ」


「仲間が戦うのに高見の見物か。いい御身分だな」


 『この白髪野郎!』とニャー、ニャー言いながら掴みかかろうとするミャーを抑えながら、どう答えるかを思案しているとレンの頭に大きな手が乗せられる。


「此奴は、マスコットだ。それが此奴の役目なんだよ。テメエらも時間ねぇんだろ? さっさと始めんぞ」


 パットの言葉にエゴンが首をコキリと鳴らし、エゴンが指をポキポキ鳴らす。


「臆病野郎が!」


 アポローンに何か言いかけたカラム肩をフレイザーが掴み、首を振る。


「先生に言われたろ? 今日の戦いは戦況の把握だ。怒りは次の機会に取っておけ」


「わかってるよ」


 舌打ちをしてカラムは修練場の中心に足を運ぶ。

 


カラム達が指定の位置に着く間にレン達も観客席に向かう。

レンの両脇にトリス、天神。レンの丁度後ろに女神が座る。

女神が苦手なアジにでも泣きつかれたのだろう。校長、スカルと共にキャロル殿下はレン達とは若干の距離を取って座った。



 予想通りアポローン達の圧倒的優勢だった。

最も速いバリーがアポローンの速さについていけないのだ。本来なら瞬時に勝負は決まってもおかしくはない。それをしないのはアポローン達が適度に手を抜いているからだろう。要は、遊んでいるのだ。


「俺達の言いたい事、了知してもらえたか?」


 レンの右に座る天神が独り言のようにボソリと呟く。

事今に至っては天神と女神の苦悩も十分すぎる程理解できる。

《神眼》で解析したが、彼らは全員クラスC。特殊な能力(アビリティ)も持つ。これでは天狗になるなというのも無理な話だ。

ただし、その高い能力も戦闘で生かされなければ意味はない。彼らの戦闘スタイルは戦術も糞もないクラスと能力(アビリティ)に頼り切った稚拙なスタイル。見たところ高度な戦闘センスもあるのにこれでは宝の持ち腐れだ。

おそらく実際の戦闘では同じクラスCのハミルトン一人にさえも呆気なく敗北する。改造後のクラスDのスカルにさえも不覚を取る可能性は高い。


「はあ、カリーナさん達を連れてこなくて正解でした」


 特にカリーナは闘いになると人格が一変する。相手が闘いを舐めている輩なら一切の容赦はすまい。恐怖を骨の髄まで叩き込まれていた事だろう。下手をすれば戦士として再起不能にまで追い込まれていたかもしれない。


「あの化物嬢ちゃん達か。ありゃあ反則だろう。

 それでお前の見立てでは俺達の餓鬼共はどうだ?」


「殆ど鍛練した事がないという天神様の言が真実なら、彼らは人間でいう所の天才ですね。能力値(ステータス)能力(アビリティ)、戦闘センス、全てにおいてずば抜けています。

適切な修練を積めさえすればかなりの所まで行けると愚考します。ただし……」


「今の奢りを捨てさえすればということか?」


「はい。アポローン様は完璧に遊んでいますし、アルス様とアテナ様は最初少し戦闘に参加しただけで、今はアポローン様を後ろで見ているだけ。

 ブリュンヒルデ様は端から闘う気自体がなく、逃げの一手。ノルニル様は一応戦闘に参加はしていますが、他に気を取られている様子。

戦闘中でありながら、彼らは心がこの戦闘にはない。こんな調子ではいつか死にます」


「まったく耳がイテェよ。だが、自身が死ぬくらいならまだいいさ。どうせ数年で復活できるしよぉ。仮にその奢り故に目の前で大切な者を死なせたら戦士としも管理者としても再起不能だ。それこそが俺達が最も危惧する点」


「それは理解できます」


 どうやら、予想した通りのようだ。


「実を言うとなぁ、天界ではお前に直接、餓鬼共の鍛練を依頼しろとの声が強かったんだ。

だが、今の彼奴等が大人しく人間に教わるなど考えもつかんだろ? 困ったもんだ」


「僕が教える? 冗談でしょう? 僕に他者を教える技術などありませんよ」


「そう考えてるのはお前だけさ。だいたい、お前には実績が――」


「天ちゃん!」


 ゾッと凍えるような声が背後から聞こえ、天神がギギとは以後の女神を振り返り、幽鬼のような顔で身を竦ませる。


「み、見ろ、終わったようだぞ」


 試合は全体としてはアポローン一人の圧勝と言っていいだろう。

もっとも、アポローンのスピードの源である《神速》の能力(アビリティ)の効果が切れヘバッたアポローンにパットとカラムが一撃を入れてから、攻撃を受けたことによる怒りでアポローンの動きが単調になり、両者は膠着状態となる。その後、仕方なくアルス達も戦闘に加わり戦闘は終了した。

トリスの終了宣言直後からバリー達4人は対策を練り始める。バリー達は悔しそうどころか目標が見つかりかえって楽しそうだった。バリー達は今まで敗北等腐るほどしている。良い意味でプライドなど彼らにはない。特に、レンとピョン子との修業では幾度となく死にかけた。今までの死線を越えなければならない修練と比べれば、このダメージを負わない試合などお遊びに等しいのかもしれない。

 対してフレイザーチームの面々は屈辱を噛み締めているようではあったが、バリー達にあてられてか集まって対策を練り始める。

負けて当然というバリー達の態度に侮蔑の視線を向けるアポローンとアルス。

天神はトリスから先ほどの闘いの動画を記録したメモリを受け取ると簡単な挨拶をして去って行った。この闘いの映像は神族の子供達にも送られ目にする事になるそうだ。これで悪巧みの仕込みは完了した。

 トリスが解散の宣言をする。

フレイザー、バリーの両チームも場所をファミレスに移して今日の反省会をするようだ。

レンもミャーに袖を引っ張られて連行されそうになるが、女神がフレイザーとレンは残るように命じる。

案の定、ミャーが駄々をこねたがカラムが上手く説得して連れて行く。こうもミャーがレンに懐くのはミャーの兄とレンが激似であるからだと思われる。

ミャーの故郷の獣王国は四方大陸の内、南の大陸を支配する超巨大国家。当然故郷までは数百キロメルも離れており、年に数度しか帰国はできない。故郷の懐かしい兄の姿をレンに重ねているのかもしれない。




 お読みいただきありがとうございます。

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