第6話 新スキルの開発
10月8日(土) 自宅
秋風が、さあっと落ち葉を掃いていく。今日も一人での登校だ。キャロル殿下との一件以来、エーフィとレンの関係は僅かにそして確実に変わった。
別にエーフィが冷たくなった訳でも、レンを避けている訳でもない。現に毎日晩御飯は一緒に食べるし、リビングで話もする。
だが毎日レンを起しには来なくなったし、エーフィは毎朝早く学校へ行くようになった。確かに兄として寂しくはあるが、今までが甘え過ぎだった。
レンも来年の4月にはこのヴァルトエック家からいなくなる。今度の件はレンから離れる良いリハビリとなるのではないか。そう思う。
レンを取り巻く環境が変わったのはエーフィの事だけではない。
一つはフレイザーとキャロル殿下の婚約が解消されてしまったことだ。その原因はフレイザーが女神の血を引くことによる。
フレイザーの父は貴族の中でも王族や平民達との関係を重視する穏健派で有名だが、貴族派連合の一員には違いない。
元々、フレイザーとキャロル殿下の婚姻は近年の平民階級の力の増大の方針を推し進めて来た王族への貴族達の不満を解消することにあった。具体的にはロイスター王族と貴族派連合の盟主バルフォア家を融合し、貴族派連合の地位を向上しようとしたのだ。
だが、フレイザーが女神の直系なら話がまた変わって来る。逆にこの婚姻は王族に女神の血を入れる事になり、さらなる王族の力の増大を招く。さらに女神の血は血統を重んじる貴族達にとっては天上の価値そのものだ。自身の家系にその血を入れたいと思うのは当然のことであった。
結果、フレイザーとキャロル殿下の婚約を解消すべきとの意見が貴族派連合の重鎮から相次ぎ、フレイザーの父がオリヴァー陛下へ泣き付、婚約は解消となったのである。
もっとも、名目上本人達の自由意思に任せるとしたに過ぎない。フレイザーの父とオリヴァー陛下は二人以外の婚姻を認めていない以上、事実上婚約は継続しているとみて良い。
キャロル殿下とフレイザーの婚姻はロイスター王国の分裂を阻止する最大の方策らしい。
この緊迫した状態でキャロル殿下とレンの仲を疑われると、貴族達だけではなく今まで好意的であった王家や平民出身の官僚達まで敵に回しかねない。それは、国中の敵意がレンに向けられる事を意味する。下手をすれば、事実上このロイスター王国にはいれなくなる。
それを危惧したアニータが、この件については口を出す気がさらさらないルーカスをその凄まじい眼光で従わせ、レンに事情を説明し、キャロル殿下とは今後会わない様に念を押してきたわけだ。
心配しないでもキャロル殿下への気持ちはその恋心を自覚したあの日に捨てている。それに、恋が叶う見込みがない以上、実際に会っても辛い思いをするだけだ。何よりキャロル殿下に迷惑だけはかけたくはない。もう会うつもりはない。
二つ目の変化はナキアの存在。ナキアは席がレンの斜め後ろに位置することもあり、頻繁に話すようになっていた。
当初、ミャーとはソリが会わないようだったが、いつの間にか仲良くなっていた。今ではレン、カラム、ミャーにナキアの存在を加えた4人で行動する事が圧倒的に多い。卒業間近で友達が増えるのは実に嬉しい誤算である。
次が能力についてだ。
トリスとピョン子に頼み生産系の能力を転写させてもらった。トリスからはクラスBの《錬金術》、ピョン子からはクラスBの《不思議な国》を獲得した。
《錬金術》を生産系の第7スロットに入れ融合させると、クラスBの《創造》となる。《不思議な国》は第6スロットの《異空間造成》と融合させ、《不思議の世界》が出来た。
さらに、トリス達、精霊達に精霊界で生産系の適正者がいたらレンの元まで連れて来てくれるよう頼むと快く了承してくれた。そこで精霊界との行き来する門を《創造》により造り出し、レンの部屋と、ピョン子の治める兎の国、トリスの鍛冶と技術の国、タツの治める聖光大帝領の主要数か所に設置した。これで召喚の能力を用いなくても世界を自由に行き来できる。
そう考えて、お茶を用意して待っていたのだが、レンは精霊達の本気を若干甘く見過ぎていた。
ほぼ、精霊界のほぼ全土から毎晩のように使者がレンの部屋に訪れたのだ。
彼らに能力を転写させてもらい、その度に欲しい武具や道具を聞き、《創造》により造り出し与える。
この事についての反応は様々だった。受け取ることなど恐れ多いと殊更拒むもの。遠慮し粗末なものを求めるもの。レンなりのジョークだと受け取り、遠慮せずに自身の願望を言葉として紡ぐもの。
全ての精霊が平等になるように、クラスAとBほどの奇跡を武具や道具に付与して造り与える。武具や魔法道具を受け取ると、大抵顎が外れんばかりに開けて呆然としながら帰って行った。
兎も角、連日連夜に及ぶ精霊達のデスマーチにより能力は飛躍的に増加した。それぞれの能力は次の通りだ。
◇能力名:《万能創造》
◇クラス:SS
◇詳細 :発動者の魔力を用いてクラスSSまでのあらゆる奇跡を体現する物質を創造できる。
この能力は実験を繰り返して全貌は粗方掴んでいる。
イメージを構築し《創造》を発動するだけでレンの魔力により武具や建造物等を創り出すことはできる。ただし金属などの触媒を使用した方がより高質なものが出来る。
そして作れるものに制限はない。クラスSまでの奇跡を体現するものならイメージさえあれば簡単になんでも創造できる。そんな便利この上ない能力だ。
◇能力名:《無限の世界》
◇クラス:SS
◇詳細 :異世界を自身の想像通りに創造する事が可能。ただしその大きさ発動者の魔力の大きさに比例する。
《異空間造成》は建物や倉庫しか創造できなかったが、この《無限の世界》は山や川、草木、小動物等も存在した。広さも飛翔瞬歩で上空から観察しても地平線が見えるほどの広さだ。さらに魔物等の特殊な生物も創り出す事が可能なようだ。おそらく、無生物は発動者の魔力で造り、魂等は発動者の魔力により自動召喚でもしているのだと思われる。要は魔物の出来方と同じだ。
ただし、一度使うと魔力がすっからかんとなり約一週間は酷い乗り物酔いのような状態が続く。それに世界を乱発して女神や天神に文句を言われても困る。極力使わないようにはするつもりだ。
こうして冒険者育成学校の対策としては十分な能力は獲得したわけであるが、能力の向上が楽しくなると途中で止まらなくなるのも事実である。まあ、能力は強くて困るものでもないはずだ。この際なのでもう一つ思いつきを実行する事にする。
そこでアイザックに紹介してもらうことにする。アイザックは軍人であり、剣術や、体術等の職業能力を所持している人の知り合いは多いはずだ。
アイザックがレン達の家を訪れた際、剣術や体術の師範代達を紹介して欲しいと頼むと、満面の笑みで了承してくれた。
だが、年末にあるヴァルトエック家の会食への出席を約束させられてしまう。アイザックからは欠席は認めないという強い意思を感じた。出席せざるを得まい。
こうもレンが親戚付き合いを忌避するのにも訳がある。
ヴァルトエック家の人々は戦災孤児に過ぎないレンを毛嫌いしている。というより憎んでいると言った方が正確か。憎む理由は簡単だ。ヴァルトエック家の家督をレンに奪われるという迷惑な思い込みをしているからだ。
ヴァルトエック家は確かに子爵だが、ロイスター国に代々仕える由緒正しい騎士の家系。職業軍人制度が出来てから軍属の家系に変わったが、それでも国内では類を見ない富と発言力を有する。ヴァルトエック家の当主となれば政界財界に圧倒的な顔が利くし、王族とも交流が持てる。レンが幼少期にキャロル殿下と知り合えたのも、ルーカスがヴァルトエック家の現当主だからだ。
レンは所詮養子に過ぎない。通常なら家督相続など蚊帳の外だ。しかし、ここでいくつかの問題が生じる。
祖父であるアイザックが、レン達子供達が25歳に達したときに軍属で、かつ最も地位が高い者に家督を継がせる旨を明言したのだ。アイザックの子供は4人いるが、そのうち軍属はルーカスだけ。常識的に考えれば父が中央軍の幹部であるレンが一番当主に近い存在となる。こうして、レンはヴァルトエック家親戚一同の憎しみの対象となったのである。
年末までに父ルーカスに冒険者育成学校に進学する事の了解を貰うしかあるまい。それを会食の場で宣言すれば親戚たちのあからさまな態度も若干緩和されると思われる。
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