第4話 時期外れの転校生
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9月26日(月)
後期の初日はいきなり遅刻してしまった。理由は簡単。エーフィが起してくれなかったことによる寝坊による遅刻だ。当り前だが、自分で起きられなかったレンが一方的に悪く、エーフィに落ち度は皆無だ。
だが、この数年エーフィが起してくれなかった事などなかった。寧ろ遅刻したことよりもエーフィの態度に心が疼くような強い不安を覚える。
心当たりはある。というか、昨日のレンとキャロル殿下の仲を勘違いして故の行動しかありえない。レンだってエーフィと他の男が抱き合うのを見れば動揺くらいはする。無論それは否定的なものではなく気まずく顔が会わせにくい類のものだ。どのように転んでも一時的なものに過ぎまい。今はそっとしておくのが吉だろう。
天神の力により迷宮実習終了直後に中央軍らの魔物を利用した演習が入り生徒は直ちに避難したように記憶が操作されていた。
この際、レン達はマルツによる転移装置の故意の誤作動により殺されかけたが運よく、地下30階層の広間に飛ばされ救助された事に皆の記憶が変わっていた。レン達の事故により一時演習の中止の声も上がったが、演習は女神の神託であるし、レン達が無事救助されたため演習続行派が勝ち演習が続行された。こんな具合だ。
つまり、今回の事件を覚えているのは貴賓室にいた要人達と、カリーナ達だけというわけだ。
フレイザー達生徒は基本、後日ジュラルド校長から丁寧な説明がなされたが、カリーナだけは別に説明がなされた。これはカリーナの女神に対する強烈な感情にある。
あの貴賓室での悪巧みの最中、レンだけにカリーナが女神を恨んでいる事が教えられた。女神も天神もその理由は教えてはくれなかったが、面倒な因縁がある様子だ。
よって、カリーナ、デリア、ドロシーへの3名に対する説明はその日の内にレンこと鮮血の黒騎士からなされることになった。
カリーナ達には全て鮮血の黒騎士が記憶を操作したと説明した。女神の言の通り、カリーナは女神の功績にする事に激烈に反応したが鮮血の黒騎士の力を隠したいことからくる便宜上の措置だと説得を続け、やっとの事で説得に成功する。
カリーナと異なり、デリアとドロシーはそこまで女神に憎悪は抱いておらず説得に協力してくれた事が大きい。
こうしてめでたく魔王の襲来は歴史から闇に葬られたのである。
廊下でパット、ダン、エゴンとすれ違うが、以前のようなレンに対する敵意は嘘の様に消失していた。相変わらず、表情は硬いままだが、挨拶を返してくれるようになっただけ数千倍増しになった。
パット達がレンに対しあれ程怒り狂っていたのかは未だに不明だが、今回の事件でパット達は昔の優しいパット達だとわかった。それだけ理解できればレンには十分だ。
教室に入ると8組の皆がミャーに集まり、マルツに転移された事を尋ねていた。本来嘘をつけない性格のミャーは話したくてウズウズしているようだが、近くにいるお目付け役のカラムの手前必死で我慢している。
すぐにハーフエルフの8組の担任教師――ハンネ・ローレが現れ全員が席に着く。いつもハンネの言う事など聞きもしない8組の皆が大人しく従ったのにも訳がある。
それは――。
「みなしゃ~ん。席につきましたデシ? それで――」
「ハンちゃ~ん。その子だれ?」
カラムがハンナのゆっくりとした話し方に堪りかねて尋ねる。8組の男子のほぼ全員がカラムによくやったと熱いエールを送る。
「今から紹介するつもりたったデシ。後ヵ月ではありますが転校生デシ。では自己紹介をお願いしま~しゅ」
「ナキア・プートです。よろしくお願いします」
赤髪ボブカットの少女――ナキアは軽く会釈をする。
男子は歓声を上げ、女子は溜息を吐く。
それはそうだ。端整な容姿にくびれたウエストに制服からはみ出さんばかりに盛り上がった胸の双丘は中等部3年生には聊か刺激が強すぎる。
ナキアの席は丁度空席であったレンの右後ろの席になった。すれ違うときジロジロと品定めをされたような気がした。
神眼で解析するが一瞬ノイズが入っただけで特段変わった所はない。この頃、魔王の襲撃に始まり、陰謀で殺されかけもした。色々あって自意識過剰になっているのだろう。気を付けねば。
後期、最初の授業は文化祭の出し物を決める事だった。ナキアの事で頭が一杯になった8組の皆からは碌な案が出ない。
思春期パワー全開のとある男子の提案した水着喫茶に一時決まりそうになったが、ミャーを初めとするナキアの出現にさほどショックを受けなかった女子達の手で阻止された。
結局、ベタなお化け屋敷で落ち着くことになる。そして、例のごとくその具体的な計画等は全て学級委員であるレンに丸投げされる。
卒業間近の時期の美人転校生というナキアの存在に気を取られ過ぎていた8組全員によるこの安易な決定が、後に騎士校始まって以来の大騒動を引き起こすのだがそれはまた別のお話。
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