第2話 妹と買い物
◇◇◇◇
夏休み最後の日。エーフィと街に出かけている。
エーフィは朝からはしゃいで大変だった。まるで幼年学校時代に戻ってしまったようだ。
思い返せばこうしてエーフィと一緒に出かけるのも数年ぶりかもしれない。
仮に、レンが冒険者育成学校へ入学すれば年に数回しか帰ってくることは出来なくなる。卒業し冒険者になればもっと家から足は遠のくだろう。もっと今の家族との時間は大事にすべきかもしれない。
レンの右腕にへばりつく小動物――エーフィに視線を向ける。エーフィは幸せそうにその可愛らしい顔をほころばせている。
それにしても、この好奇心と嫉妬の籠ったこの視線はどうにかならないものだろうか。
エーフィはスタイルも抜群であり、垂れ目でその優しい落ち着いた容姿も相まって中等部生にはとても見えない。高等部生と間違われることはざらだ。本人はそれを途轍もなく気にしている。全体的に大人っぽく見えるだけで顔はむしろ童顔だ。そう気にする必要性を感じないのだが本人にしては一大事らしい。これに対しやや背が低く身体も華奢なレンは一、二学年下に見られることが多い。十中八九、少し歳の離れた恋人同士に見られている。実にやりづらい。
ラシスト最大のショッピングモールに到着し、エーフィに向き直る。
「エーフィ。どこか行きたい所はない?」
「兄様の好きな所がいいです」
「僕の好きな所って言われてもねぇ……。じゃあ――」
ならばこのショッピングモールには行きたい場所がある。
騎士校を卒業する際に今までの感謝も兼ねて父ルーカス、母アニータ、妹のエーフィにプレゼントを買ってあげたいのだ。だから中等部2年生の夏休み明けから週2回のアルバイトをしてお金を溜めていた。
家族には出来れば長く使えるものを贈りたい。女性への贈り物として考えつくのはアクセサリーだ。プレゼント用のアクセサリーを売っているショップは中等部生の男子が入るのは若干抵抗がある。今日は最大のチャンスなのだ。
ショッピングモールの中にある王都でも一二を争うジュエリーショップへ足を運ぶ。
ショップの中は沢山のガラスケースが規則正しく並んでおり、数組のカップルがケースの中をのぞき込んでいた。
エーフィはみるみる顔を真っ赤にする。店内の客は恋人同士ばかりだ。そんな店に兄と入ればばつが悪いことこの上ない。それは赤面もするというものだ。
(妹よ! 手と足が同時にでているぞ)
不憫な我が妹に母アニータへの贈り物を選ぶのを手伝って欲しいと周囲にも聞こえる声で説明するといつもの調子を取り戻した。
9年もの年月を共に過ごしてきたのだ。エーフィが欲しいものは視線と口調から十分把握できた。母アニータのプレゼントまで選ぶ事ができ一石二鳥だ。
後日訪れて購入する事にする。その後、能力でアクセサリーを改造すれば出来上がりだ。
この際だ、父ルーカスのプレゼントも選ぶのを手伝ってもらおう。
その後、エーフィと色々な店を歩き回り、ルーカスへのプレゼントを探す。エーフィが思いの外楽しそうでよかった。
家に着いた頃にはすっかり日も暮れていた。屋敷には数億ルドはしそうなリムジンが止められている。ルーカスは中央軍の重鎮だ。当然高位貴族の知人など腐るほどいる。だから、この手の車がこの屋敷にあるのは珍しくはない。しかし、今日ルーカスは仕事で家にいないはず。しかもこのリムジン。どこかで見たことがあるような……。
玄関から家に入るとトタトタと足音が聞こえて来る。レンも視線を足跡のする方に固定する。足跡の主はレンを見ると目尻に涙を浮かべる。
(う、嘘……)
「キャロル……殿下……?」
「レン!」
キャロル殿下は勢いよくレンの胸に飛び込むと息が止まるほど、ギュッと抱きしめてくる。そして、頭を割れやすい卵のようにレンの胸にそっと抱える。
「っ!? 殿下……」
暫し忘れていたキャロル殿下の温もりを、その優しさを感じたらもう駄目だ。切なさに胸が突き上げられ、レンもキャロル殿下の背中に手を回し優しく抱き締める。
溢れて来る温かな気持ちをやっと制御し得る様になり視線を前に向けると母アニータとキャロルお付きの執事達がレン達に困惑だらけの視線を向けて来る。あたふたして殿下の両肩を持ち身体を離す。
「で、殿下、どうして僕の家に?」
キャロル殿下もアニータ達から疑心に満ちた視線が向けられているのに気付き顔をぱっと紅葉よりも赤くする。
「レンにこれを返したくて……」
キャロル殿下は腰の鞄から星型の不恰好なペンダントを取り出しレンの手に乗せる。これは昔殿下に貰ったレンの宝物。
「これを態々? ありがとう殿下!」
喜びを顔にみなぎらせて殿下の両手を握るレン。
アニータがリビングでお茶にでもしようと沸騰したヤカンのように茹っているキャロル殿下の手をかなり強引に引っ張っていく。そのいつになく必死な様子は、キャロルお付きの執事達に気を使ったのだと思われる。言われてみれば執事達は目じりを険しく吊り上げている。
他愛もない話をしたあと、執事達にせかされてキャロル殿下は王宮へ帰って行った。アジとも話したかったレンとしては若干残念だったが、都合というものがある。仕方がない
その後、アニータからしつこくキャロル殿下との関係性に聞かれるが、友達という以外には表現しようがない。何度もそう答えるが貴賓室のときの事とは異なり最後まで納得はしてもらえなかった。
すぐに晩御飯の時間になるが、エーフィが部屋に籠って出てこない。何度も扉を叩くが返事一返って来ない。おそらく、眠ってしまったのだろう。確かに今日はいつになくはしゃいでおり、家に戻る頃には心底眠そうだった。キャロル殿下と挨拶をする際など心ここにあらずの状態だった。そっとしておいてやる事にする。
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