第1話 演習の後始末
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天神――ゼウス、女神――ノルンを交えた計略はオリヴァー陛下、アイザック、ランディが乗り気なだけにすぐにまとまった。
神族の学生達で試合をさせ勝ち残った5柱が今度の世界学生武道大会の個人試合に出場しカリーナ達と争うことになった。団体試合ではなく個人試合での対決となったのは、団体試合は各国の威信をかけた祭りであるため個人試合以上に盛り上がる。個人試合にのみ今回の介入をする事でその影響をできる限り少なくするためだ。さらに、個人試合の方が団体試合よりも実力差を判断し易いといったメリットもある。
今日、グラウンドからけたたましい咆哮が聞こえたり、上空に巨人が現れ金槌を振り下ろしたりした。いくら政府がもみ消そうとしてもマスコミ各社からつつかれるのは必至だろう。これについてオリヴァー陛下が駄目元で天神に相談するとあっさり解決してくれると約束してくれた。
具体的にはこの貴賓室にいるもの以外この王都――ラシストにいる全ての者の記憶を次のように操作する。
【今回の迷宮からの魔物の襲来は予め神託により予言されていた事。半信半疑であったが、魔物は襲来し、さらにグラウンドには傷を負わないという特殊な効果まで付与されていた。
ロイスター王国は冒険者機構に演習の参加を許諾。これにより演習を実施し無事終了した】
この貴賓室内にはロイスター王国の幹部、中央軍、近衛騎士団がおり、彼らさえ覚えておれば支障はない。冒険者機構はダッド達の件もあり口を挟む気はさらさらないようだ。加えて各国の要人達は本来今回の事件には無関係。記憶を消されなかっただけもうけものであり異議を唱えるはずもない。
女神は貴賓室を去る際にノルンとゼウスが出現後の貴賓室での出来事は他言無用だと命じ、仮にこの命を破ればこの貴賓室での出来事は綺麗サッパリ忘れるように術式を組み込んだと駄目押しをする。これには多少不満があるようだが相手は女神だ。全員大人しく従った。もっとも、女神がフレイザーの曾孫の件は他言しても構わないと爆弾発言をしたからかもしれない。
騎士校の貴賓室での出来事は神経がドラゴンよりも図太いオリヴァー陛下、アイザック、ランディはさておき、一般の大人達には刺激が強すぎた。
女神と天神が去ると再び長い、長い質問タイムが再度始まる。内容は7割が女神、天神とレンの関係について、残りの3割がフレイザーの母親の件だ。
聞かれても前者はレンにだって判然としないし、後者においてはレンだって初耳だ。
天神と女神にレンに対する一連の意味不明の態度につき尋ねるが、昔会った人物に激似でついそう接してしまったとはぐらかされる。かなりの確率でこれは嘘だ。レンは天神と女神に会った事がある。そんな気がする。しかし、当時のレンは6歳。女神、天神と対等の立場にあるはずがない。記憶を失う前のレンはあのガルトレイドの大虐殺で女神と天神に助けられたがかなり横柄な態度をとってしまった。レンに対する一連の態度は天神、女神なりの意趣返し。他にも不自然な点は多々あるが一先ずはこう考えるしかあるまい。
もっとも鮮血の黒騎士の衣装を身に纏うレンにはこの考察を直接告げるわけにもいかず、皆には天神が去り際に言った言葉が全てであると説明し、フレイザーの件も全くの初耳だと答える。
納得はしていないようだったがそれはレンも同じだ。諦めてもらおう。
ルーカスに連れられヴァルトエック邸へ帰る。
車の後部座席から出る。車の中で熱くるしい鮮血の黒騎士の衣装は脱いでいた。今はどの角度から見てもレン・ヴァルトエックだ。
「レン君……」
「はい? はぐぅ!」
軽い衝撃の後、レンの身体が温もりで包まれる。金髪が靡きレンの顔に振りかかる。
「よかった……よかったです」
その泣き出しそうな声を聞いてやっとレンは事の次第を把握した。
「カティ……少尉?」
困惑してルーカスとディアナに助けを求めるが、二人ともドヤ顔を向けてくるだけで役に立ちそうもない。仕方なくカティ少尉の両肩を掴んだままの状態でいると家の玄関のドアが勢いよく開く。
ドアを開けた少女は目を大きく見開いて少しの間レンとカティ少尉の姿を眺めていたが表情を消したままゆっくり扉を閉めてしまった。
その後、遂に泣き出してしまったカティ少尉を宥めて家の中に入り、ルーカス、アニータと話す。
貴賓室内での事についてはレンが知る以上の事は詳しいことは尋ねられなかった。伊達に何年もレンの親をやっているわけではない。レンが嘘を言っていない事はその姿から読み取っているようだった。
困ったのはドアを開けた少女――エーフィの機嫌が悪かったことだ。いつもと同じようでどこか余所余所しい。どうやらルーカスはレンが友達と打ち上げ旅行に行ったと説明していたらしい。寂しい思いをさせた上に、家の前でカティ少尉と寄り添うのを目的したのがトドメだったようだ。
近日中に必ず遊びに連れて行く事を約束するとやっといつもの調子に戻る。
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