第31話 魔神の陰謀
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黒いシャンデリア、黒の絨毯、黒の石壁、黒の玉座。それは全てが黒で塗り固められた王座の間。赤髪の悪魔娘――サタナキアはその玉座の間で黒い上下の衣服に身を包む主たる金髪の少年に跪いている。この主たる金髪の少年の名はルシファー。地獄を支配する偉大なる4柱の魔神の1柱である。
サタナキアは跪きならがも他の配下の顔色を窺う。ルシファーの配下は全員女性だが、その綺麗な顔ににはサタナキアと同様捨て犬のような恐怖と驚愕が見える。
その理由は映写系の魔法道具により映し出される3柱の魔王達の大行進の様子にある。
その大行進は魔王達による人間種の殺戮の光景であるはずだった。しかし現実は悉く裏切られる
魔王が負ける。それならばいい。いつの時代も最終的には勇者や英雄に魔王は屠られる運命だ。だからこそその魔王達が活躍する数十年の刹那の灯は殊の外尊く美しいのだ。勇者と魔王との各々の有する誇りのぶつかり合いが鑑賞として最高の娯楽となり得るのだ。
しかしこの光景はどうだ。魔王軍の侵攻が単なる人間種の演習の道具にされた。誇り高きはずの魔王は前座の役すら与えられず強制退場となる。しかも魔王は震える小鹿のように黒ずくめの男に平伏してしまった。
この魔王達を恥知らずだと攻められればどれほど救われたことか。だが魔王達を責める者はサタナキアを含めこの部屋には1柱ともいない。下手をすれば自分達でさえも同じ目に遭いかねない。そんな危険さがこの映像にはある。
「此奴は一体誰? ヒサメ・サガラ?」
映像を見始めて初めてルシファーが口を開く。
「ヒ、ヒサメ・サガラ……? 『星の銀貨』のギルドマスター……」
ルシファーの側近の女性が震える声で呟くと、玉座の間にいる全ての者の目に怯えが浮かぶ。
『星の銀貨』。9年前、たった百人足らずで女神と天神の大軍勢と互角の戦いを演じた世界最強の戦闘集団。
その中でもギルドマスター――ヒサメ・サガラの強さは別格だった。通った後には雑草一本すらも残らない存在。そんなイメージがピッタリの破壊の化身。現に一時的とはいえ、あの女神、天神の両者を相手に互角の闘いすらしてみせた。
確かに、あの非常識なギルドマスターなら今回のごとき事態も容易に説明が付く。
「ですがルシファー様。『星の銀貨』のギルドマスターは女神と天神により滅ぼされたのでは?」
「そのはずだよ。女神がトドメを刺すところを僕は9年前この目で見たし。
だけどあのふざけた魔法はヒサメ・サガラにしか行使はできないはず。それを黒服の仮面の男ではなくその生徒の女が使う? ああ~! 駄目だ整理がつかない」
ルシファーは頭を掻きむしる。このような主の姿は初めてみた。それほどの事態という事。
ルシファーは十数分間思案した後再び言葉を発する。
「兎も角、ヒサメ・サガラが生きている可能性がある以上、お遊びはこれでお終いだ。早急にあの黒ずくめの男とその生徒達を排除する。
アガリアレプト。能力制限無効化術式の開発はどうなってる?」
地獄に住まう者はエインズワースの世界ではクラスが1だけ落ちる。ルシファーの地獄でのクラスはSS。エインズワースではSの力しか振うことはできない。この能力の制限を無効化する術の開発が地獄では進んでいたわけだ。
「すでに完成はしております。しかし……能力制限無効化術式の使用の許可はサタン様の許可が必要――」
「サタン様には僕から話しを通して置くよ。完成しているなら直ぐ発動装置を僕に渡して!」
「で、ですが規則では――」
「規則などと言ってる場合じゃないんだよ!!」
ルシファーの余裕を欠いた怒鳴り声が部屋中に反響する。滅多な事では笑みを絶やさない主に呪殺するような視線を向けられ白い着物を着た黒髪の美女――アガリアレプトは涙目で身を竦ませる。
ルシファーは何度か深呼吸をするといつもの微笑を浮かべる。
「わかってよ。君達若い子達には実感がないかもしれない。でもね。彼奴だけは本当に危険なんだ。
それに目算だがあの黒服が彼奴なら力は今の力はたいした事がない。これは寧ろ彼奴を滅ぼせる絶好の好機だ。昔の力が戻る前に僕達の最大戦力で殲滅し憂いをすべて取り払う」
「は……い」
「いい子だ。大丈夫だよ。この能力制限無効化術式があれば昔の完全な状態の彼奴でも互角以上の戦いは出来る。万が一、いや、億が一にも僕らに負けはない。
でも一応、ベルゼビュート、アスタロトにも本作戦に参戦するように打診しておいて!
彼奴らもあの腐れ魔導士を滅ぼせるなら拒否はしないはずさ」
室内が波のようにざわつく。さもありなん。
ベルゼビュート、アスタロトは地獄を支配する魔神の1柱。いわばルシファーと同格だ。地獄魔神大帝――サタンを除けば比類なき力と権力を持つ。
それ故、各魔神はプライドも高く、ライバル関係にある他の魔神に協力するなど通常ありえない。とどのつまり、通常とはかけ離れている事態が進行中ということだろう。
能力制限無効化術式の使用に他の2魔神の招集。このルシファーの警戒は異常だ。過去に何かヒサメ・サガラと因縁でもあるのかもしれない。
ルシファーはサタナキアの近くまで行くとしゃがみ込み肩に手を乗せる。
「サタナキア、君は王立中等騎士学校に潜入して情報収集を行って欲しい。
特にあの仮面の男の正体を探り、近づいて弱みを握るんだ」
その主の言葉にサタナキアは戦慄と恐怖が細波のように寄せては返すのを感じた。
冗談ではない。サタナキアだってヒサメ・サガラの事は先輩悪魔達から聞いている。
魔神大帝サタンとガチンコで殴り合っただの魔神アストロトを半殺しにしただのそんな冗談にもならない噂ばかりを聞く化物魔導士だなのだ。仮に捕まればサタナキアがどうなるかなど火を見るよりも明らかだ。
「ル、ルシファー様。それは――」
サタナキアが言い終わらないうちに身体を強く抱き締められ耳元で囁かれる。
「頼むよ。君しか頼める者がいないんだ」
(ずるいです……ルシファー様……)
サタナキア達配下の悪魔にとってルシファーは至高の主。その主の抱擁はサタナキアから抵抗の一切を奪い去っていく。考える事を奪っていく。
直ぐに頭はルシファーの事で一杯になり拒否しようとは微塵も思わなくなる。
お読みいただきありがとうございます。
やっと2部が終了です。次の3部が最後です。多分長くなると思います。 ここまで読む人が一人でもいればメッチャ感謝です




