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第30話 天神と女神

 その後、貴賓室にいるほぼ全員から質問攻めにあった。皆が求める内容は子供達を鍛え上げ、魔王の襲来をただの演習に変えた存在の説明と最後のカリーナの魔法について。

 カリーナの魔法については【願望(デザイア)具現(エンボディメント)】の発動者の願望を叶える能力につき説明するが、アイザックとランディ以外、能力(アビリティ)の概念自体初耳だったらしく説明に苦労した。もっとも、能力(アビリティ)が皆に存在しないわけではなく覚醒の恩恵と勘違いしていただけのようだ。

願望(デザイア)具現(エンボディメント)】の能力(アビリティ)により一時的にカリーナが過去に読んだ物語中の英雄を自身に具現化したのだろうと述べると全員絶句はしていたがすんなり受け入れてくれた。ランディとプルートもカリーナが恒久的に変質してはいないと知りほっとしていた。

魔王の襲来をただの演習に変えた存在は素直に精霊であると説明した。その事実は想像がついていたのか誰も眉一つ動かさない。当然に問題は精霊を呼び出せるようになった経緯に移る。

中央軍にはレンの正体がばれている。鮮血(ブラディ)黒騎士(ブラックナイト)に全部押し付ける方法は使えない。校長達にも女神に力を貰ったと言ってしまっている。今更変更すれば疑われるのは確実だ。女神に貰った力だと言っておく。

そして長い質問タイムが終りに近づいたときそいつらは現れた。


「へぇ~。面白い話をしてるわねぇ。でも妾に精霊を召喚する力などないゾ。ましてや妾と同格の存在に恩恵を与えるなど無理に決まってる。嘘はいけないゾ、嘘は~」


「おめぇよぉ。ちゃんと空気よめよ~。話の流れから餓鬼共に能力隠してぇんだろ」


 眼球を声のする方へ向けると白い服を着た長い銀髪を腰まで垂らした美し女性と、白い袴に上半身裸、緑の絹を纏う白髪の筋骨隆々な青年が佇んでいた。

 一目見ただけで背筋に電撃が走る。この2柱(ふたり)は人間でも魔物でも精霊でもない。もっと危険な存在だ。そして今の(・・)レンではこの2(ふたり)には勝てない。逃げる事が出来るかすら怪しい。


「ああ、所謂秘めた力ってやつ? そう言えば、坊や、重度の厨二病患者だったよねぇ。やたら身悶えする痛い名前つけたがってたし……」


「違いねぇが此奴も存在自体が厨二病のお前にだけは言われたくはねぇだろうよ」


「あ~天ちゃん。それひど~い。 ねぇ? ひどくな~い? 坊やもそう思うでしょ?」


「はあ……」


 銀髪の女性に同意を求められ訳も分からず頷くレン。2(ふたり)の気の抜けるやり取りに張り詰めていた空気が一気に弛緩する。この状態から今すぐ戦闘状態に突入する事はないだろう。

何時の間にかトリス、タツ、ピョン子がレンを庇うように油断なく身構えていた。3(さんにん)とも猟犬のように体を緊張させている。タツがガラスのように透き通る大剣を銀髪の女性に向ける。


「女神……天神……か?」


女神はこのロイスター王国がある世界の西側各国、天神はアベカシスのある東側大陸で信仰されている神。精霊、魔王の次は神か。共に神話中でしか知らないが、アジの話から理由なく暴れるような神ではないはずだ。


「正解~~! そういう君は精霊君かなぁ? 坊や、相変わらず変わった部下連れてるわねぇ」

 

腰に手を当てタツ達をジロジロと眺め見る女神。


「驚かして悪かったな。精霊達。オレ達は別にお前らの主人に喧嘩売りに来たわけじゃあねぇよ。しいて言えば、同窓会のようなもんさな」


 彼らの発言を聞きタツ達は振り返りレンに化物でも見るような視線を向けて来る。身に覚えなど皆無だ。マジで適当な事言わないでほしい。これでまたタツ達の中でレンの人外化が進む。


「同窓会には心当たりがありませんが御用はおありなのでしょう? どんな御用でしょうか?」


「……坊やに敬語を使われるなんて、マジないわぁ。妾、鳥肌が立ってきたゾ。

人間が育ちによって影響を受けやすいといってもこれは変わり過ぎだゾ」


「同感だ。全くの別人じゃねぇか。てか傲岸不遜の塊のような奴が敬語使うとマジキモイのな」


 失礼な物言いをする柱達(ひとたち)だ。正直徹夜で疲れに疲れている。意味不明な話は止めてくれ。


「で? 御用件は?」


「あっと~、多少元に戻ったみたいねぇ。これで普通に話せるゾ。

では用件を言うわよぉ。用件は2つ。一つ目はギルドの復活の報告だゾ」


 貴賓室内が騒めく。周囲を見渡すと、長耳族(エルフ)、ドワーフ族、竜人族、獣人族の外交官以外の人間族は全て女神達に跪いていた。精霊のタツ達の会話から本物の女神と天神と判断したらしい。レンも跪こうとも思ったがそれをすると話が迷宮に迷い込む予感が猛烈する。止めておこう。

プルートが跪きながら女神に尋ねる。


「女神様。天神様。御言葉を遮る不敬お許しください」


「よい。申してみよ」


 女神からレンと話していた際の気さくさが消失し、一転して精霊達でさえ冷や汗が出るほどの途轍もない重圧が室内を満たす。今まで軽く礼をしているに過ぎなかった長耳族(エルフ)、ドワーフ族、竜人族、獣人族の外交官も額に大量の汗を流しながら跪いていた。


「おい、おい! 餓鬼共超ビビってんじゃねぇか。やたらめったら神気ばら撒くんじゃねぇよ」


「ごめん、ごめんだゾ。その子畏まってるから遂いつもの癖で」


 天神に窘められにゃははと笑いながらポリポリと頭を掻く女神。対して人間種と精霊は冷汗びっしょりだ。プルートが震えながらも口を開く。


「ギルドの復活と仰っておられましたが近い将来女神様方のお力でギルドが復活するということなのでしょうか?」


「いんや。俺達2(ふたり)が下界に直接干渉できるのはクラスB以上の存在が暴れ回ったときだけだ。

我等各神話系統を統べる者が人間に力を行使する事は天界の掟で許されておらん」


「で、ではギルドの復活とは?」


「世界から姿を消していた4大ギルドとその傘下の上位ギルドが再び姿を現すのよぉ。

4大ギルドの各ギルド(マスタ―)で構成される世界冒険者機構の最高機関――長老会議の効果は君も冒険者なら知ってるでしょう?」


「長老会議……実在していたのですか?」


 プルートが冒険者機構中央局の幹部であるアッカー伯爵に向けると貴賓室内の全ての視線が一斉に集まる。アッカー伯爵は額の汗をハンカチで拭いながら話始める。


「長老様方が姿を消してから今まで凍結していましたが実在します。

御存知かもしれませんが長老会議の決定は何よりも優先されます。

今の冒険者機構の現状は皆様が目にした通りです。この痴態が長老様方の耳に入ればお許しになるはずがない。ギルド結成禁止法は近い将来失効することになるでしょう」


 プルートとシーザーは顔に満面に喜色を湛えていた。反対派に娘が殺されかけたくらいだ。

プルート達の道がどれほど険しいものであったかは想像するに容易い。この反応は当然だろう。


「それでねぇ用件の2つ目、妾達が此処に来た目的よぉ。

今度の冬にある世界学生武道大会へ、坊やの教え子たちに出場してもらいたいの」


世界学生武道大会の出場者は迷宮実習の成績で決せられる。この大会の出場のために必死に陰で努力してきた学生がいる事をレンは知っている。女神の頼みでも許すわけには行かない。


「私には許可をする権限は有りませんが、仮にあってもお断りします」


 女神は肩を落とし、天神は深い溜息を吐く。そんな悲痛なリアクション取らないでほしい。これではまるでレンが悪者だ。


「そこんとこ、どうにかならない? まだ半年あるし出場する子達を坊やが鍛えてもいいし」


「私も忙しい身、易々とお引き受けするわけには行きません。お断りいたします」


 冬には冒険者育成学校の一般入試がある。レンだって崖っぷちの状態なのだ。他人の世話を焼いている場合では断じてない。多数の非難のたっぷり籠った視線を完全スルーする。


「女神様、天神様には何やら深い事情がおありの様子。良ければお聞かせ願いますかな?」


 アイザックが恭しくも物怖じしない様子で女神達に尋ねる。アイザックにやれと命じられればレンは基本逆らえない。この御仁に興味を持たれては困るのだ。自身の頬が自然に引き攣るのがわかる。レンの仮面越しにもわかる動揺を感じとった女神と天神は瞳に安堵の色を滲ませた。


「話が分かる奴がいて助かる。結構俺達も切羽詰まってんだよ。

俺達神々にはこのエインズワースの管理をする権利と義務がある。具体的にはよぉ、加護や恩恵、奇跡を与えたり、エインズワースの世界で生きる者達の手には負えなくなった危機を解決しバランスを維持したりするわけだ。

だが別にこれは俺達神が偉いとかそんな単純な話じゃねぇ。お前ら人間種の王達と同じ単なる役割分担ってやつだ。世界を守る代わりに信仰を得て神力を獲得する。

だからこそ絶対の信仰を得るためにも神は奢ってもいけねぇ、誤まってもいけねぇ。世界の生物を根こそぎ愛し、絶対にして無二の神威を振るわなければならねぇ。つまりだぁ、世界の生物を管理するにふさわしい矜持が神には必要なんだよ。

 それに神は一般に強大な力を持つ。そんな者が無制限に力を振ったらそれこそ脅威だろ?

だから俺達は加護の対象となる人間種達の力を把握し、より慈しめるように神々の子供達をこのエインズワースの人間の子供達に紛れて生活させている」


「そう、そう。あまりに慈しみすぎちゃって人間種と恋に落ちるケースは勿論あるゾ。身近で言えばあのフレイザーの母親は妾の曾孫。まあフレイザー本人は知らされてはいないだろうけどぉ」


 再度貴賓室内が騒めく。今度の騒めきは先ほどの比ではなかった。何の前触れもなくフレイザーの母親が女神の血を引くと聞かせられれば無理もない。


「餓鬼共に余計な事いうんじゃねぇよ。お前の曾孫、これでまた大変だぞ?」


「いいの。妾の下を断りもなく去った可愛い可愛い曾孫への意趣返し」


「うへぇ~、どうでもいいがフレイザーとかいう餓鬼まで巻き込むなよ……。

 まあいい。話を戻すぞ。餓鬼で未熟でもされど神。エインズワースの人間種と比べたら桁外れの強さを元々持っている。だから自身がこのエインズワースには敵はいねぇと奢っちまっているんだ。当然傲慢にもなる。修業もせずに遊び歩いてやがる。確かに真摯に修業さえ続ければ俺達に匹敵する器はあるんだぁ。だが俺達がいくら口を酸っぱく言っても聞きやしねぇ」


「奢りもへったくれも世界に敵などいないのは真実では?」


 レンの言葉に天神は顔を顰め、大きな息を吐き出す。 


「お前がそれを言うかよ! だいたいなぁ、お前が面白半分にあいつらを鍛えるから――」


「ゼウス! それ以上は契約違反だゾ!」


 女神のいつになく厳しい声色に天神――ゼウスは暫し黙り、頭を振ってから話を続ける。


「これからの世界はなぁ、凡そ1500年前の群雄割拠の時代に逆戻りだ。

4大ギルドの長共は正真正銘の怪物だ。純粋な能力値(ステータス)だけなら俺達とタメ張れるくらいの力を持っている。更に4大ギルド傘下の上位ギルドの長も糞強ぇ。4大ギルドと上位ギルドの長の約半数が神族と神話上の怪物だから当然ではあるんだがな。

終いには最近、魔神達の活動も活発になってきた。

こんな中で未熟な天族が喧嘩を売れば、自身に何が起きたかもわからずポカーンとした顔で滅ぶ事になる。俺達にとっては未来を背負う大切な若者達だ。目を覚まさせてやりてぇ」


「つまり、私が鍛えた人間に負けるか苦戦すれば自身の未熟を悟り修業に打ち込むと?」


「そういう事だ。頼む! 俺とお前の仲じゃねぇか。この通りだ」


 ゼウス様と女神様はレンに頭を深く下げる。

俺とお前の仲と言われてもゼウス様とは今日会ったばかりだ。ゼウス様の言葉は殆どが意味不明。

しかし困った。ここで断ればロイスター王国とアベカシス王国の面子を潰す。レンの父ルーカスにも少なからず非難が向けられるだろう。どうしてこうも次から次と面倒事が舞い込むのだろうか。まるで蟻地獄に捕らわれた蟻だ。こうなれば自棄だ。レンの頼みも聞いてもらう。


「わかりましたよ。やればいいんでしょ! やれば! だからもう頭を上げてください」 


「そうか、そうか。それはマジで助かるぜぇ」


「ですが私にも条件があります。女神様に私の願いを聞いていていただきます」


「いいわよぉ。妾も断れる状況にないしぃ。妾の全てをあ・げ・る」


 レンに近づきその身体をギュッと抱きしめてくる女神様。女神様の女性特有の柔らかな感触と仮面越しにも感じる甘い匂いにレンの顔は林檎の様に紅潮する。


「じょ、冗談は止めてください」


「へ~、今の坊やは可愛い反応するのねぇ。あのやさぐれ男とは大違いだゾ。

今の坊やなら本当に妾をあげてもいいかも――」


 これ以上質の悪い冗談に付き合い切れない。脱線した話を元に戻そう。

 女神様の身体を強引に引き離そうとすると、頭の中に声が聞こえた。


『それで妾にしてほしい事って何かしらぁ? 皆に聞かれたくない事なんでしょ? 妾と接触していれば頭に思い浮かべるだけで会話可能だゾ』


 なるほどだからレンに抱きついたわけか。正直助かる。これだけは誰にも聞かれるわけにはいかないのだ。


『女神様。ご協力感謝いたします。

僕のお願いは迷宮に捕らわれていたアジ・ダハーカの悪竜認定の解除です。

彼奴はもう悪事は働きません。仮に働いたら僕が責任をもって処理します』


『彼女の封印を解いたのはやはり坊やだったのねぇ。構わないゾ。奴への妾の怒りもとっくの昔に治まっているし、今奴は変な趣味に走っていて悪さしそうもないしぃ。

近日中に各国の聖法教会に神託を出しておくことにする。

ついでにあ奴と同化したこの国の王女にも加護を与えたとの神託も出しておくゾ』


『ほ、本当ですか? 有難うございます! 女神様ぁ!』


 感謝で胸がふさがれたようになり、レンも女神を強く抱き締める。


『……坊や代わり過ぎだゾ……』


 嬉しいと我を忘れるレンの悪い癖が出た。女神の頬に微かに紅がさし、若干身体が硬直しているのに気付き慌てて離れる。


「ノルン、お前、いい歳して何マジになってんだよ? さっさと話進めるぞ」


 半眼で女神――ノルンに視線を向ける天神――ゼウス。


「べ、べ、別に妾は――ぐぇ!」


 ノルンが言い終わらないうちにゼウスがその後ろ襟首を掴みソファーに引きずっていく。

 ソファーにドカッと座るゼウスと仕方なさそうに座るノルン。

ゼウスはレンの最大の弱点たるアイザックの同席を求め、アイザックも満面の笑みで答える。さらにこの手の悪巧みが大好きなオリヴァー陛下、ランディも加わり、すっかりゼウスに意気投合し策を練り始める。ここに調子を取り戻したノルンが加わりレン包囲網は完成した。

  こうしてレンの波乱万丈な迷宮実習は終わりを告げる。




 お読みいただきありがとうございます。

 あと1話で2部は終了です。

 主人公最強のタグは嘘ではありません。3部の頭で出て来る予定です。この物語は他者の教育も含まれているのでそうなってしまいました。申し訳ありません。

 少々御時間を頂いて推敲し直します。よりよい物語を書くためと思い御理解いただければ幸です。

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