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第26話 鍛錬の成果

 

 校門の外のテント前に移動し、ピョン子に蛇女を治癒させる。

テントの前に巨大な薄型テレビが設置してある。これで勝負をテレビで観戦するわけだ。

カリーナが今回のような強行策に出る事はその性格から十分に予想がついていた。ランクDとの戦闘はクラスG以下にとってはかなりの危険を伴う。それにいくら回復するといっても一々攻撃を受けていたのでは戦闘観戦に集中できない。

そこでトリスの発明した小型カメラをグラウンド中に配置し、その映像を中央軍に画像処理してもらいこの校門付近に設置された巨大薄型テレビに映し出しているのだ。

おそらく今日の迷宮実習に出席した要人達は別の場所でこの映像を見ている。

もっとも、冒険者機構ラシスト支部の幹部達にまで情報を与える程レンも中央軍も愚かではない。当然兎達に頼んでグラウンドに関するあらゆる情報をシャットアウトしている。

レンは画面の映像を分析始める。

【キマイラ兎】はクラスDとは思えない強さだった。

獅子は動きが素早く、その口腔からの灼熱の吐息(ブレス)はその熱で地面を蒸発し巨大なスプーンで抉り取ったかのような深いクレーターを形成する。兎達が戦場となっているグラウンドにドーム状の強力な結界を張っていなければ今頃ここら一帯更地となっていることだろう。

次がライオンの背に這えている兎の顔の巨人だ。その絶妙な槍さばきと槍からでる蒼電が大地を焼き尽くす。更には御叮嚀に火炎系魔法まで操る。まさに四角なしの敵だ。

最後の尻尾の無数の蛇はとんでもな速度で敵に驀進しその鋭い牙で対象を食い破る。さらに口から毒を吐きグラウンドの地面を溶解する。

これだけでも十分反則に近いわけだが、能力(アビリティ)『増殖』は実にふざけた能力だった。本体が最大4体まで分身体を造成が可能だったのだ。この分身体はクラスE、LV上位の能力値(ステータス)がある。


(しかし……これはどういうこと?)


 本体はカリーナ達とほぼ互角の勝負を繰り広げている。これはいい。予想していたことだ。しかし、他のバリー達やフレイザーが倍に近いクラスE上位を相手に互角というのは想定外もいいところだ。いくらなでも強くなり過ぎだろう。何がこの結果を引き起こしている?

レンはより詳細な戦闘の分析を開始する。



互角だったのは生徒達が様子を見ていた最初だけで、直ぐに戦況は学生チームに傾いた。

戦況を最初に動かしたのはフレイザーのチームだった。

光のドームで2体の【キマイラ兎】が覆われ拘束される。タツの説明によればこれはミャーが発動させた魔法――《永久(エタニティ)(ライト)牢獄(プリズン)》だ。

この《永久(エタニティ)(ライト)牢獄(プリズン)》は第7階梯魔法であり本来クラスE、LV19でで初めて取得可能となる魔法。加えて、最上位属性の光系魔法だ。闇、悪系の属性の魔物にとって天敵に近い魔法。例え一クラス低くても破れはしない。

クラスの壁を越えてミャーが取得し得たのはやはり光系の魔法の才能があったから。

さらに、本来長い演唱が必要な強力な魔法をミャーが杖を上げただけで発動し得たのはミャーがクラスGに到達したとき獲得した【演唱破棄】の能力(アビリティ)による。しかもクラスFに到達したとき【二連続魔法】の能力(アビリティ)まで取得し、この時点でミャーはフレイザーチーム内最強となり手が付けられなくなったらしい。やはり、ミャーはミャーだった。

ちなみに能力(アビリティ)はアジやトリスが持つような特殊な発現能力(アビリティ)がなくとも自然に発現する場合もある。というよりクラスチェンジするごとに発現するのが寧ろ通常らしい。アジやトリスはそれを無理やり起しているに過ぎないそうな。確かにレンやカリーナの能力(アビリティ)は低クラスで発現したにしては強力すぎる。

 

ミャーに続きカラムが地面を蹴り拘束されていない【キマイラ兎】の分身体の獅子の胴体を駆け抜け獅子の背に生えている巨大兎に高速で接近しその首を槍で切断する。

 クラスFとは思えない速さと力だったのはカラムが【闘武槍】の能力(アビリティ)を有していたからだと思われる。天眼によればこの能力(アビリティ)は槍の装備時だけ次のクラスの最高レベルまで能力値(ステータス)のを上げる。ただし、この能力値(ステータス)の上昇は槍を使ったときだけ起き、3分以上連続使用すると10分間の虚脱状態になるようだ。

 カラムは物心ついたときから祖父から槍の鍛練を受け続けた結果今やすっかり槍フェチの変態さんだ。冒険者を目指すのも伝説の槍を一目見るためらしい。その槍フェチが功を奏して【闘武槍】を獲得できたのだと思われる。

【キマイラ兎】の分身体は獅子の背に生えている巨人兎が破壊されるとその再生の1分程度動きが停止する。近づけば尻尾の蛇が攻撃してくるが離れて入れば何ら問題はない。

カラムが離脱し数十秒後に、正四面体の赤い膜が【キマイラ兎】の分身体を包み込む。その正四面体の地面と接する正三角形の3つの頂点にはパット、ダン、エゴンがいた。

突如、獅子の内部が爆発し、爆発はさらに他の爆発を誘発させる。幾多もの鼓膜が破れんばかりの爆発と共にあっという間に塵も残さず【キマイラ兎】の分身体は消滅した。

 周囲で観戦していた魔導士系の職業(ジョブ)を有する兵士、冒険者、近衛騎士達が興奮気味に湧く。どうやら今の魔法は魔道を専門に研究する者にとって特別の意味のある魔法であるようだ。

聞くところによればさっきの魔法は《超大爆発(フレア)》という第8階梯の大魔法であるらしい。

この《超大爆発(フレア)》は本来クラスD、LV15で取得可能な魔法であり、クラスFのパット達には取得できない。そこで特定の魔法を3点で共鳴させ、上位クラスの魔法の発動を可能にする能力(アビリティ)――【三点(デルタ)共鳴(レゾナンス)魔法(マジック)】を用いてこの《超大爆発(フレア)》を実現させた。ちなみに、この【三点(デルタ)共鳴(レゾナンス)魔法(マジック)】はパット、ダン、エゴンがクラスFに到達し獲得した能力(アビリティ)ということだ。



 今の《超大爆発(フレア)》の使うタイミングは絶妙だった。というより、いくらなんでも絶妙すぎる。やはりこれにも種があった。

フレイザーがクラスFに到達し獲得した【未来視】の能力おかげらしい。トリスでさえそれを聞き暫らく呆けていたくらいだ。余程レアな能力(アビリティ)なのだろう。確かに数十秒先まで読んで作戦を立てられれば戦術の意味がなくなる。チート能力だろう。

 【未来視】につき考察していると突如ミャーの《永久(エタニティ)(ライト)牢獄(プリズン)》により拘束されている【キマイラ兎】の分身体に視界を埋め尽くす純白の巨大な柱が空から落ちて来た。光の柱は【キマイラ兎】の分身体を瞬時に蒸発し、地面までも消滅し巨大な円状の穴をあける。

 同時に雷鳴のような檄音と凄まじい衝撃派が生じ、カラムとパットとは数メルも吹き飛ばされていった。タツが右手の掌で顔を覆い、首を左右に振る。

 その後、今の光の柱はミャーの放った第7階梯魔法――《裁きの光柱グランドライトウォール》であるとタツに教えられる。

 おそらく、ミャーがフレイザーの指示を無視したのだろう。皆の近くで極大魔法をブチかました事につきミャーは校門前まで引っ張られフレイザーをはじめとするチーム全員から説教を食らっていた。



 次に動いたのはバリーチームのフェイとコーマックだ。当初、魔物から十分な距離をとっていた2人だが動き始めると一瞬で決まった。

 フェイ達が当初戦闘に積極的に参加しなかったのは別に様子を見ていたわけではなかった。

 コーマックが【魔力・魔力耐性減殺】の能力(アビリティ)で【キマイラ兎】の分身体の魔力耐性を10秒ごとに減殺し、加えてフェイが能力(アビリティ)――【魔力(マジック)増幅(ブースト)】でフェイの魔力を10秒ごとに増幅していたのだ。天眼によれば一度でも能力(アビリティ)所持者が攻撃をしたり受けたりすればキャンセルされもう一度最初からやり直しとなる。だからフェイとコーマックは一定時間魔物との戦闘を避けていたわけだ。

フレイザーチームの勝利直後、たっぷり魔力をチャージしたフェイが発動した《暗黒(ブラック)煉炎(ゲヘナ)》という第7階梯魔法による漆黒の霧で【キマイラ兎】の分身体は骨一つなく蒸発した。

 バリー達がアフロ先生と呼ぶ担当教官兎によればフェイはより強力な魔法も行使可能だったが、ただでさえ魔法そのものの威力が高すぎる上、フェイがまだ魔法に慣れておらず制御が効きにくく下手をすればグラウンド上にいるすべてを蒸発しかねないので今回は禁止したらしい。当然だ。そんな魔法永遠に封印してもらいたい。



 対してバリーとベラのチームはド派手だった。

バリーが凄まじい速さで敵を翻弄している。周囲の兵士達では視認する事すらなかわないだろう。フェイとコーマックがぼんやりと戦場で観戦できたのもバリーが2体の【キマイラ兎】の分身体の動きを封じていたからだ。

【キマイラ兎】の分身体はバリーの速さにまったくついて行く事が出来ず、バリーの剣により身体に無数の傷を負っている。確かに【キマイラ兎】の分身体の再生能力により直ちに傷は癒えるが痛みがなくなるわけではない。いわば無数のミツバチに身体を刺されている状態だ。怒り狂いバリーを払い落とそうとするが捕える事が出来ない。

バリーの速さは【瞬光】の能力(アビリティ)による。これは歩数を重ねるごとに【素早さ】が増幅する能力。この能力(アビリティ)の解除法は能力(アビリティ)所持者が意識的に切るか、攻撃を受けることだけ。一度も攻撃を受けないバリーの【素早さ】はクラスDの中半のLV。クラスEに過ぎない【キマイラ兎】の分身体ではどうやってもバリーには攻撃は当たらない。

怒りで我を忘れている【キマイラ兎】の分身体の傍に忍び寄る人影。ベラだ。

【キマイラ兎】には3方向の目を持つ。1つは獅子の目。2つ目は兎の巨人の目、3つ目が尾の蛇の目。バリーは獅子、兎の巨人、蛇全てに万遍なく攻撃をしかけており、この3つの目が悉く攪乱されている状態にある。だから右側の獅子の胴体に近づくベラに気付けない。

十分接近するとベラが肩に担ぐ巨大な(ウォー)(ハンマー)を振りかぶり振り下ろす。

その瞬間、全ての音が消えた。


「――――」


竜の咆哮のような轟音と全てを蹂躙する衝撃波。巻き上がるグラウンドの土煙。

【キマイラ兎】の分身体その身体の9割を失い魔石化した。

ベラの能力(アビリティ)――【剛力】は最大2分間のチャージで【筋力】をMax2クラス分だけ増幅する能力。加えてあの(ウォー)(ハンマー)――【ウコンバサラ】は一定の確率で【筋力】を2.5倍化する。その相乗効果の凄まじさは想像するに容易い。まさに攻撃力に特化した様な少女だ。

 バリーチームの能力は全てアフロが弱点を見つけた褒美としてバリー達に発現させたものらしい。



 最後はカリーナのチームだが……。悲しいくらいに相手にすらなっていない。これは戦闘とは呼べない。ただの蹂躙劇(ワンサイドゲーム)。教官であるトリスでさえも困り顔だ。

 実際に指導し能力を熟知しているトリスでもそうなのだ。兵士、近衛騎士、冒険者達は勿論、闘いを終えてテントに戻って来たフレイザーチームとバリーチームの面々も唖然としてまじまじと目の前に広がる不思議な現象を眺めていた。

此処での勝者は通常ならクラスがより高い魔物のはずだ。だが、ドロシー一人に弄ばれている。デリアの困惑した表情からもこれはドS少女――ドロシーの趣味だろう。

【キマイラ兎】が獅子の口から轟炎を吐こうとするとその口が爆発する。巨人の兎が魔法の発動のため左手を天に掲げるとその腕ごと爆砕する。槍を振るおうとすると今度は兎の巨人の身体が爆破し弾け飛ぶ。行動不能となったところを尻尾の蛇が次々に破裂し弾け飛ぶ。

これはドロシーの能力――【爆弾化(ボムチェンジ)】。視認した生物、無生物の全部、一部を爆弾に変え爆破する能力。この能力の極悪な所は相手が魔物等の生物にカテゴライズされる場合、その生物の魔力や生命エネルギーを直接利用することだ。この【爆弾化(ボムチェンジ)】は能力(アビリティ)であり所持者のクラスが攻撃のクラスになる。したがって、攻撃がクラスEと一応はカテゴライズされる以上、レンのようなAクラス以下攻撃無効の能力(アビリティ)を持つ者には効果がない。しかしこの手の無効系の能力(アビリティ)がない限りクラスに無関係にダメージを負う。ドロシーを倒したければ彼女が起爆場所の指定と起爆をするほんの僅かな間に倒すしかない。レン、タツ、トリス、ピョン子、ピョン子の配下の幹部兎達ならそれも容易だろうが、クラスDに過ぎない【キマイラ兎】には不可能だ。


「まいったなぁ。まさかここまで力の差があるとは思わなかった。いっそクラスBの兎にした方がよかったかな?」


 レンの呟きにも似た言葉にタツが心の底からウンザリしたような視線を向けてくる。


「坊ちゃん……。クラスBは神話クラスの怪物。上級神クラスの強さはありますよ。ここで神話上の戦いでもおっぱじめるつもりですか?」


「あはは……そうだよねぇ。でももうこれ闘いじゃないよ。トリスさん。終わらせるように伝えて」


 トリスがレンの言葉を伝達魔法で伝えるとドロシーが意気揚々と【キマイラ兎】を粉々に起爆、爆死させる。

その後ドロシーはデリアとカリーナから頭に拳骨をもらい涙目で蹲っていた。かなり本気に殴られたようだ。下手をすれば鍛練の最終試練はこれで終了となるところだった。無理もない。

 ここで止める事はカリーナどころかデリアも納得しまい。最終試験を続行することにつきトリス、タツ、ピョン子に了解を求めるが異論はないようだ。タツとピョン子のいつになく神妙な顔つきからも彼らが絶大な興味を抱いている事がわかる。

次はデリアだったがドロシーのように遊ばず一撃で決めてみせた。デリアの能力はドロシーと同種類の能力ではあったが、その凶悪さは別格だ。

植物(プラント)世界(ワールド)】。この能力(アビリティ)が発現すると獅子の4本の肢と尻尾が木化する。木化は急速に獅子の胴体、顔、背の巨人兎等全体に広がっていく。あっという間に巨大な大木と化した【キマイラ兎】にパチンとデリアが指を鳴らすと木化した【キマイラ兎】は急速に萎び魔石化する。

この【植物(プラント)世界(ワールド)】は認識した物質を多種多様な植物の種子に変化させそれを瞬時に発芽成長させ操作する能力。上位クラスの【キマイラ兎】を木化し得たのも【爆弾化(ボムチェンジ)】と同様その魔力や生命力を利用したからだ。ドロシーと似たような能力なのは双子故だと推測される。

 しかし、あまりにも楽勝し過ぎる。試練は手に汗握るものであるべきだ。方向性を若干誤まったかもしれない。バトルではなく頭脳戦にでもしとくべきだったろうか。


「おいトリス! お前、餓鬼どもにどんな改造しやがった?」


 タツが肉食獣のよな怒りを顔に漲らせながらトリスの胸倉を掴む。


「人聞きが悪いな。魔物を倒す事と能力(アビリティ)の発現しかしちゃおらへんよ」


「ざけんな! そんだけであんな馬鹿げた強さ、得られるわけねぇだろう!」


「そう言われてもなぁ。事実やし。それにあの程度で驚いてんならカリーナちゃんの試合は観ん方がいいで」


「……それはどういう意味だ?」


無表情でトリスの胸倉を持つ手に力を入れるタツ。


「止めるピョン。坊ちゃんの御前だピョン」


 ピョン子が召喚のためグラウンドに向かう。

 レンも教官であったトリスでさえもカリーナという人物を評価しきれていなかった。

それはある大魔導士の9年ぶりの顕現と世界の理さえも捻じ曲げる禁忌の極大魔法の復活。

世界は括目する。魔道の根源を。



 お読みいただきありがとうございます。

今日はあと1話行きます。

 誤字報告してくださった方。マジでありがとうございます。感謝します。

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