第25話 予想外の展開
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迷宮実習21日目午前零時7時10分 王立高等騎士学校グラウンド中央
現在レンは王立高等騎士学校グラウンド中央にいる。
約1日トリス、ピョン子、タツと共に迷宮下層で教官の真似事をした。
最初は、カリーナ達をマルツ達冒険者機構ラシスト支部の刺客から守れればいいと考えていた。だがここでレンの誤算がいつくか生じる。
まずはピョン子とハミルトンが迷宮内に魔物が大量発生したことをレンに伝えに来のだ。直ぐにトリスに姿を消す魔道具を借りて全ての魔物の能力値と弱点を記憶する。
英雄譚で記載されている伝説の魔物と瓜二つの魔物がおり当初心が躍ったが、全てクラスFのみ。しかも碌な能力も持たず数も多い。
一応最高がクラスE、平均LV5の3体の魔物がいた。確かに強力な能力をもっていたが所詮クラスE。いま修業している迷宮の雑魚魔物の方が強い。正直がっかりだ。
カリーナ達の丁度良い卒業試験となるかもしれない。それをピョン子、タツ、トリスに話すと大爆笑されてしまう。笑われる意味がサッパリ分からない。首をかしげるも、やたらやる気になった3柱に色々提案されたので全て了承する。
ピョン子に引き続き情報収集とカリーナ達を鍛え上げるまで迷宮から湧き出た魔物により負傷者を出さないことと適当に魔物達を足止めする事を命じる。その際に魔物に襲われて殿下が精神的に参ってないか無性に知りたくなり、ピョン子にその調査も指示する。
鍛練を開始するが、30分ほどでピョン子が冒険者機構ラシスト支部の陰謀についての情報を持って返って来た。催眠の能力を有する兎にラシスト支部の幹部を催眠にかけて聞き出したらしい。この兎達はマジで何でもありだ。
バリー達もラシスト支部に狙われていた事が判明する。理由はハミルトンの教え子であり、将来強力なプルートの先兵となる事を恐れたためらしい。あとは平民で強さを得たことへの妬み等もあったようだ。それでほぼレン達と同様の罠で殺そうと企むがバリー達の強さを目の辺りにした雇われ冒険者が躊躇した。
あの転移罠では覚醒したバリー達でも死んでいた。憤怒を通りこして狂気めいた殺気がこもるのがわかる。もう一切の躊躇するのは止める。バリー達はレンの大切な教え子であり仲間だ。絶対に手出しできない存在にしてやる。
ピョン子、タツ、トリスにハミルトンを交えて相談するが、ハミルトンがバリー達を鍛える件で良い考えがあるから任せろと主張する。そのためにはピョン子の協力が不可欠らしいのでその件はハミルトンとピョン子に丸投した。
ただ今回は鍛練の時間もあまりない。魔物の弱点をついて効率的に処理してもらうことにする。ピョン子に全魔物の能力値と弱点を教えつつ、【絶刀】を渡す。魔物の能力値と弱点を教えるとなぜかピョン子が頬をヒクつかせていた。
また父ルーカスに迷惑だけはかけたくない。だからルーカスの意向を最優先とし、ルーカスがこの魔物の騒動に否定的な意見をとれば直ちに中止する事にする。
キャロル殿下に星型の小さな粘土細工を手渡すようにタツに頼む。これは子供の頃、キャロル殿下に貰ったものであり、レンの宝物だ。殿下ならレンが生存しているとわかるはずだ。
レンの生存をキャロル殿下に伝えようと思ったのにも訳がある。ピョン子が姿を消しつつキャロル殿下の様子を窺っていると突如アジに声をかけられたらしい。その際にキャロル殿下にレンの生存を知らせるようにと伝言を頼まれたらしいのだ。
その後、ハミルトンから鍛えて欲しいと頼まれる。ハミルトンには今回世話になる。断れるはずもない。
ハミルトンがスパルタにしてくれというので言葉に甘える事にした。ピョン子とハミルトンを連れて150階層へ移動する。すでにマッピングは完了していたので1時間ほどで150階層に到達する。
その後、ハミルトンが泣こうが喚こうがトリスから連絡があるまでひたすら鍛練に勤しんだ。150層での戦闘になれているレンと戦闘のプロ――ピョン子のおかげでハミルトンのクラスとレベルは恐ろしいほどの成長を遂げクラスCまで上げることが出来た。
150階層は真の地獄だ。故にハミルトンの中のかなり大切なものを犠牲にしたっぽいがスパルタで良いと言っていたし別に構わないだろう。
トリスからタツとトリスの生徒の鍛練が完了したとの連絡が入ったのでピョン子の転移でトリスの所まで戻る。
トリスの所に戻るとタツはすでにカリーナチームとミャーチームを連れて一足先に地上へ戻ったようだ。タツは意外にも面倒見がいい性格をしているらしい。
トリスにカリーナチームの修練の状況を聞く。
トリスには特殊な改造はするなと何度も念を押していた。確かに解剖や薬による改造はされなかった。だがトリスの性格を完璧に見誤っていた。カリーナ達は強くなり過ぎていた。
全員がクラスEのLV20。しかもトリスにはアジと同様の能力発現の能力があり特殊な能力まで発現していた。これではクラスE、平均LV5の魔物など等相手にもならない。若干趣旨とずれて来た。
ピョン子の配下の兎からグラウンドの魔物を粗方倒し終えたと連絡が入ったので、トリスから鮮血の黒騎士の衣装を受け取り速攻で着替え、グラウンドにピョン子の力で転位する。
現在、ピョン子と配下の兎の精霊達、タツ、トリスに跪かれているところである。
皆に労いの言葉をかけ、ピョン子とタツから現状報告を受ける。
特にタツの報告はぶったまげた。タツはフレイザー、ダン、エゴン、カラムまで強化していたらしい。
想定外ではあるが、パットが狙われている以上、普段一緒にいるダンとエゴンの強化も必要だろう。カラムもレンとミャーが生きていたことがばれた場合冒険者機構から人質等にとられる危険性はある。今回鍛えてもらって良かったと言えよう。
フレイザーは殿下の許嫁。殿下の生涯の騎士の役目を負う者。強くなってもらわねば困る。
バリーチームからの興奮気味の報告とフレイザー、エゴン、ダン、カラムからの堅苦しい挨拶を受ける。ミャーからは神妙な顔でレンはどうしたのかと聞かれるがかなり厳しい修行をしたので、先に家に帰し休ませたと答えるとほっとした様子でそれ以上尋ねては来なかった。
レンは周囲をウンザリ顔で見渡す。
無数の中央軍の兵士、近衛騎士団、冒険者達の視線がレン達に集まっている。
レンとハミルトンがこの魔物の討伐戦に介入してから暫らくして報道陣はこのグラウンドから一斉排除されたとの報告をピョン子から受けた。おそらく混乱防止の観点から現場の指揮権がある近衛騎士団当たりが制限したのだろう。
皆徹夜で疲れている。そろそろ始めるとしよう。
「では、皆、今回の最終試練だ」
パチンッと指を鳴らすと迷宮入口にかけてあった結界が解ける。この手の演出も必要なのだ。
ズシンッズシンと地響きを上げながらまず入り口から五十の頭が現れギョロリとレン達に射殺す様な視線を向けてくる。次いで百の腕が迷宮の入口を掴み破壊しながらその巨体を現す。
次が数多の白色の蛇を頭から生やした三角ビキニ姿の美女。目のやり場に困るし、傷つける事に生徒達が罪悪感を覚えてしまう。魔物があまり人間の姿を模すのは止めて欲しいものだ。
兎達やタツが額に青筋を張らせている事からレンに何かしてきたのかもしれないが、レンには《Aクラス無限の盾》によりクラスA以下の状態異常は一切効かない。それにトリスに闘いが始まるまではこの手の能力の効果を無効とするように頼んである。
最後が絢爛な紺のローブを着た骸骨だ。この骸骨がこの魔物達の中で最も厄介だ。純粋な強さでは蛇女の方が強いが、冷静で戦場を見渡せる奴が実際は一番怖い。骸骨は周囲を一望しレンに視線を固定した。レンを見る骸骨の目の中には強い恐怖が浮かんでいた。
レンやカリーナ達迷宮下層攻略組にとってはこの手の魔物は見飽きた一般雑魚魔物に過ぎないが、他の者はそうではなかった。歴戦の兵であるはずの中央軍兵士、近衛騎士団、冒険者達は例外なく物怖じする小鹿のような表情をしていた。
もっとも生徒達というと全員が『心底期待はずれだよ。このやろう!』的な表情をしていた。
カリーナなどレンである鮮血の黒騎士に氷のような冷たい視線を向けて来る。
(いや、いや。そんなに睨まれてもマジで困るんだけどさぁ。てかカリーナさん、闘いに関する事になると絶対人格変わってるよね)
「形式的にはなるが許せ。
お前達では我等には勝てない。降伏し人類に一切の危害を加えない事を誓えば命は保障する。勿論監視はつけさせてもらうがね」
「断る」
骸骨は静かに言葉を紡ぐ。この骸骨は芯がある。滅ぼすには惜しいが意思は固かろう。レンは生徒達に向きを変える。
「では今回の鍛練の最終試練を始める。バリー達のチームはあの骸骨の魔物と、フレイザー達のチームは巨人の魔物と、カリーナチームは蛇系の魔物と闘ってもらう」
「鮮血の黒騎士先生。一つ宜しいですか?」
予想通り不満タラタラなカリーナが意見をしてきた。
「なんだ?」
「先生は尊敬していますわ。それはもう本当に! ですがこんな雑魚魔物を今回の鍛練の最終試練に据えるのだけは納得いきません! これなら迷宮で修業していた方が幾分ましです!」
トリスから報告があった通りだ。
トリスの言では元々、カリーナは自身の強さに関する事になると自己の制御が著しく利かなくなる傾向にあったらしい。だが今までは強い理性の力でそれを抑え付けていた。現に迷宮実習では班の中でのトップレベルに協調性があり皆が決めたルールには従っていた。
しかし、迷宮下層での命を賭けた修業はカリーナのこの理性の箍を完膚無きまでに破壊してしまったらしい。結果空気を全く読もうとすらしない少女が完成する。
「カリーナ。数的にもそれで丁度いいんだよ。一応彼らにも面子があってだな――」
レンは諭すように優しく語り掛けるが……。
「面子など糞くらえですわ! あの雑魚を倒してもわたくしはクラスDには至れない」
(クラスD? トリスさん……クラスの概念を教えたんだね。ピョン子さん達もきっと教えているし別にそれはいいさ。でもクラスDに至る方法まで教える必要まであったの?)
非難をたっぷり含んだ視線を向けると、トリスはそっぽを向いて口笛を吹き始めた。
(こ、この柱は――)
「貴様ぁ、さっきから俺を雑魚、雑魚とほざきやがってぇぇ!」
蛇を頭から生やした魔物が怒りで白い顔を火のように真っ赤にほてらせ激昂するが……。
「五月蠅い!」
無感情な顔で蛇女に視線さえ向けずに左の掌を蛇女に向け魔法名を紡ぐカリーナ。
「《電龍電子砲》ぉ!」
カリーナの掌から出現した巨大な真白な電龍はその細長い身体をくねらせ、蛇女を一飲みにせんと光速で疾駆する。電龍は一筋の電光となりて蛇女にピクリとの反応する事も許さず、その大く開けた咢で引き裂き焼き尽くす。一瞬で蛇女を黒焦げにした電龍は後方の迷宮の入口に着弾し、大爆発を起こす。そして、暫しの静寂。
レンはがっくりと肩を落とし、トリスは『あ~あ、やっ~ちゃった。やっちゃった~。わいし~らへん』と無責任にも教官の責任を完全放棄する。
兵士、近衛騎士、冒険者は血の気の引いた顔で頬を引き攣らせている。骸骨と巨人は眼前に起こった事が理解できないのか呆然と立ち尽くしていた。
「先生、これで私達と戦う魔物がいなくなりましたわ。私達にも試練をください!」
我侭娘に大きなため息を吐きピョン子に眼球だけを向ける。
「ピョン子さん。カリーナ達にクラスDの兎を出して。かなり強い兎でもこの子達普通に勝つから」
「了解しました。坊ちゃん」
ピョン子は胸に右手を当て軽く会釈をする。
「いでませ。いでませ。ピョピョンのピョン!」
凶悪な儀式によりレン達の右脇のグラウンド一杯に巨大な魔法陣が浮かびあがる。背筋に電流が走る。
(ヤバイ! あれ絶対ヤバイ! どうして今日に限ってこうも皆空気を読めないの?)
ピョン子さんに問いただそうとしたときそこから20メルにも及ぶ怪物兎が地面の魔法陣からゆっくりと這い出してきた。その身体が這い出る度に周囲から悲鳴と絶叫が湧く。
『ギャオオオオオオオオオオォォォォォォォォォ!!』
兎とは思えない奇怪な咆哮は周囲の建物や木々を震わせ、鳥たちがバサバサと逃げ惑う。
巨大な獅子の背中に醜悪な兎の顔をした巨人の上半身が生え右手には魔法武器らしき蒼色の槍を持っている。尻尾からは幾多の蛇が生え、その獅子の巨大な口からは轟炎が噴き出す。
天眼で即座に調べる。【キマイラ兎】。クラスD、レベル18。能力の『増殖』というのが意味不明だが、まさかあの巨体が増えるわけはあるまい。所詮クラスD大したものではないだろう。カリーナ達の反則的な能力なら丁度良い相手かもしれない。
「では今から今回鍛練の最終試練を始める。カリーナチーム」
「「「「はい!」」」」
興奮して酔ったように赤くなるカリーナ、舌で唇を舐めるドロシー。危険な薄ら笑みを浮かべるデリア。あの兎を見てこの反応は正直引く。ドン引きだ。
「先生! 待ってください! 俺達の試練もこの魔物の討伐にしてください!」
バリーが頭を深く下げて来た。フェイ、ベラ、コーマックも同様に頭を下げている。
「いや、しかしだな。あの兎はクラスD、お前達はF。クラスが2も違う。危険とかそういう問題じゃない。嬲られるだけだぞ?」
「坊ちゃん。ミーからもお願いしマ~ス。ミーの教えたボーイズ、ガールズなら大丈夫デ~ス」
「坊ちゃん。私からもお願いしますピョン。きっと面白いものが見れますピョン」
「担当教官とピョン子さんが了承するなら私は構わないが……」
「私達もこの戦い参加させてください!」
フレイザー、カラム、ミャー、パット、ダン、エゴンが頭を下げていた。タツに視線を向けるとタツまで頭を下げている。とても拒否できる雰囲気ではない。
「わかったよ。わかったって。了解すりゃあいいんだろ? どうなっても私は知らんぞ!」
皆が鮮血の黒騎士であるレンに視線を向ける。ええいままよ! いつものように両腕を一杯に広げ天を掲げるオーバーリアクション。
「試練に挑みし勇者達よ。武の限りを尽くせ! 叡智の限りを尽くせ! されば勝利は与えられん!」
やけくそ気味に早口で英雄譚の一節を棒読みするレン。同時にカリーナ達は戦闘を開始した。
「さあ、お前達も直ぐ退避だ! 近くにいると巻き添えになるぞ!
まあ痛いだけで直ぐに治るんだが……」
そのレンの言葉を合図に蜘蛛のを散らしたように校門付近まで退避する群衆。一流の兵士や冒険者、近衛騎士達が転がりつまずきながらも一目散に敗走するシーンは中々シュールだ。
レンは骸骨と巨人に視線を送る。どう見ても戦意を喪失している。真面な戦いは出来そうもない。蛇女だったものを担ぎ、2体の魔物に言葉を投げかける。
「何やら事情があるようだ。話はこの勝負の後にでも聞こう。テントの傍まできてくれ! 茶でも出す。ってお前達お茶飲めないか」
一人つっこみをしてみたが反応は皆無。
「……ゴホンッ! 兎も角、話は聞くからついて来い!」
骸骨と巨人はフラフラとレンの後をついて来る。
魔王との戦闘を期待していた方すいません。
お読みいただきありがとうございます。




