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第23話 破滅の行進曲

               ◇◇◇◇


 迷宮実習21日目午前零時7時00分 迷宮3階

 ヘカトンケイルとメドゥサは仲が良いのか悪いのか、道中ずっと口喧嘩中だ。そんな彼らを尻目に不死魔王スカルロードは思考の渦にいた。

 数時間前から連絡が途絶えている。もっともこれは別に特段おかしなことではない。配下の者達には迷宮外に出たら連絡などするより人間を1匹でも多く殺せと命じてある。連絡がないのはそれだけ部下達が人間狩りに熱中しているからだろう。

 喉に刺さった魚の骨のような説明し難い不安感を抱いているのはまた別の理由からだ。

 第一になぜこれ程進行が遅れたのだろうか。人間共にクラスFの凡そ千にも及ぶ魔将達を倒すだけの戦力があるとはとても思ない。

 第二に進行が遅れている理由が強くはないが厄介な兎がいるという訳の分からない理由。

 第三にメドゥサがイラついている理由。即ち、部下達が男を一人も運んでこない事だ。勿論それだけ人間狩りに熱中しているという事。スカルロードとしては喜ばしいはずなのだが、兎の話と地上への進行が遅れていることが強い不安を呼びおこしていた。

 

 『少し宜しいかな?』


 突然の声に存在しない心臓が高鳴るような奇妙な気分を味わう。

 迅速に思考の渦から帰還し戦闘態勢を整えつつ声のする前方を見る。

 ヘカトンケイルは勿論、雑魚と女には興味を示さないメドゥサさえも額に冷たい汗を浮かべながら前方の存在に視線を向けている。それもそのはずだ。今スカルロードが視線を向けている相手には存在感がない。確かに、血の様に赤いローブに白色の仮面を付けてスカルロード達の前に立っている。

 しかし、この眼前の存在には気配がない。気配を消しているなどではない。文字通り気配が存在しないのだ。故に、言葉を発しているのに、真横にいるのに部下達は誰も気付きもしない。スカルロード達も目の前の存在に話しかけられなければ認識すらできなかっただろう。


「お前、人間か?」


 メドゥサが魂すらも焼きつくすような射殺すような視線を向ける。いつもの余裕が微塵も感じられない様子からも石化の魔眼でも使っているのだろう。完璧に相手に呑まれている。


『嬉しいねぇ。俺を人間と呼ぶか。そうだ。一応そうカテゴライズされている』


 眼前の存在が人間であると認識しスカルロードの骸骨の中心にマグマのような敵意がグツグツと煮えたぎる。ヘカトンケイルとメドゥサの全身からも赤と青の妖気を溢れ出す。


『焦るな。俺にお前らと敵対する意思はない。寧ろお前らを救ってやりに来たんだ』


「救うだと? 何をたわけたことを!」


 メドゥサが激昂する。その瞬間、赤ローブの存在が右手でメドゥサの顔を鷲掴みにし高く持ち上げていた。


(ば、馬鹿な! まったく見えんかった。動きが速いとかではない。認識すらできんかった。儂らは魔王じゃぞ!! 地上最強の魔の王じゃぞ!!)


 メキメキとメドゥサの顔を持つ右手に力がはいる。メドゥサは徐々に苦悶の声を上げ始める。


『だからそう焦るな。お前らこのまま地上にでれば敗北どころか魔王としての尊厳すらも失うぞ。この先にいる方はお前らが考えているような生易しい存在ではない』


「儂らが魔王の尊厳すらも失う? どういうことじゃ? それに『この先にいる方』とは誰の事じゃ?」


『おお、骸骨、お前は多少冷静だな。なぁに外に出れば全てがわかるさ。外に出ればあの方と会う。そしてその惚れ惚れするくらいの悍ましさに触れる。心底恐ろしい方だよ。絶対に敵にだけはまわしたくはない』


 赤色ローブの存在はいつの間にかメドゥサを離し当初の位置に戻っていた。


「敵に回したくないならなぜ儂らの味方をする? おみゃあの言う事は矛盾だらけじゃ」


『当り前だろう? 人間ってのは矛盾だらけの生物だぜぇ。お前ら魔物と違ってなぁ。

 兎も角だ。俺の目的とお前らの目的は今回見事に一致した。だからよう。これ受けりなぁ』


 赤ローブの存在は真っ赤なペンダントをスカルロードに投げてよこす。赤いペンダントはスカルロードのローブにぶつかり石床に落ち乾いた音を立てた。


「このようなものいらぬ! 儂らは死など恐れん!」


『ふはっ……あっはははは! 腹イテぇ。お前まったくわかってねぇのな。お前らの死などすでに決定事項だ。そのペンダントはお前らの魔王としての誇りを守るためのもの。嫌なら捨てなぁ。じゃあ、俺の目的は達した。まあ精々、地獄をみろよ』


 赤ローブの存在はその言葉を発した途端、幻の様に消えていた。

 足を動かさなければならないのにメドゥサの石化の魔眼でもかかったように動かない。そして、それはヘカトンケイルとメドゥサも同様だった。本能がわかっているのだ。赤ローブの存在の言が真実であると、この迷宮の終わりには正真正銘の怪物がいると。その怪物は父以上に無慈悲で、邪悪で、恐ろしい存在であるのだと――。

 震える手で赤いペンダントを手に取る。ヘカトンケイルとメドゥサもそれに異を唱えない。

 スカルロードは一歩踏み出す。ゆっくりと歩き始める。ヘカトンケイルとメドゥサにもう先ほどまでの余裕などない。ただ人間を殺すという父の意思のため歩を進める。それが破滅への行進曲である事はわかってはいても。

 


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