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第21話 ルドラの巨人 ディアナ

◇◇◇◇


 迷宮実習21日目午前零時24時 王立高等騎士学校校門前

校庭のグラウンドには満月の月明かりが意味を成さぬほど煌々と設置されたライトが照らしている。

ディアナ・イーストンは現在、校門外に設置されている中央軍のテントの傍で戦場となっている校庭を眺めながら小休憩をしている最中だ。

 視線を周囲の兵士達に向ける。兵士達はたった数時間で信じられない速さで上がるLVにみな顔に嬉しさを隠しきれていない。これが命を賭けた戦いならばこうはいかないのだろうが、兵士達もかなり前にこれが実戦ではなく演習の延長だと気付いている。

 そういうディアナも兵士達と同様、我ながらおかしいほどにひどく興奮している。そのもっとも大きな理由が覚醒だ。この校庭には兎の鬼王クラスの魔物がゴロゴロいる。それらを仲間と試行錯誤で倒すうちにディアナもとっくの昔に覚醒を果たしていたのだ。

 中央軍での覚醒者は10人。覚醒者は中央軍で10年に1人でればもうけものと言われている。それがたった1日で10人だ。しかも死者負傷者ともに零。中央軍の幹部達は今頃小躍りして喜んでいる事だろう。

近衛騎士団もやはり10人規模で覚醒者が出ており、中央軍と同様の熱気に包まれている。

 今回の事件の原因の一つでもある冒険者機構もカルヴィン殿下の求めに応じて危険レベルとしては最高レベルの5が発令なされ、『迅雷』のプルートや『白銀腕』シーザーを中心としたSクラス以上の冒険者が参戦しやはり10人規模で覚醒している。

 とは言え、今回の事件の首謀者側についた冒険者達は一人残らずこのグラウンドから御退場願った。

 ちなみにジェラルド校長はこれが演習となったと知ると生徒達全員を学校外から非難させ姿を消してしまった。

 このように各組織で笑いが止まらないような状況は、ディアナやルーカスにとってはあまり喜ばしくない事でもある。今回の一件で中央軍はレンの重要性を再認識した。嘗てない天災級の事件をただの演習へと変えてしまう存在。しかも、養子とは言え祖父がアイザック・ヴァルトエックという軍の大英雄。軍はどんな手段を使ってもレンを獲得しようとするだろう。

 そして問題はもう一つ。この事件の顛末につき事情を知る中央軍に近衛騎士団と他国でいえば国交のある東側の大国アベカシス、同じ西側大陸の同盟国エルフ国――ミューゼルが幾度となく説明を求めてきている。

 他国にすぎないアベカシスやミューゼルはさておき近衛騎士団はカルヴィン殿下お抱えの騎士団であり、王国で一、二を争う実力者である炎王がいる組織だ。いつまでも隠し通せるものでもあるまい。

 そして各組織が説明を求める最も大きな原因が今も戦場で闘っている。

 グラウンド中央の蛇系魔物を淡々と狩るバリー達5班Bチーム。班全員が覚醒者というふざけた能力値(ステータス)。高度な連携、さらに死線を潜ったものだけが身につける事の許される高度な戦闘技術。正直、今の現役中央軍で真面にやり合えるのはロメオとディアナくらいだ。それも連系されたら太刀打ちなど一切できまい。もはやこの戦場の最強の一角と言っても過言ではない。

 

 視線を王宮の方へ向ける。あれ程意気消沈していたのにキャロルは思いの他元気だった。何時もの可愛らしい笑みを皆に振りまき王宮へ戻って行った。

十中八九、レンの配下の精霊達にレンの無事を聞いたからだろう。レンの安否であれだけ動揺するのだ。キャロルがレンに惚れているのは確実だ。

 ディアナにとってレンとキャロルは歳の離れた弟と妹。出来ればその恋を叶えてやりたいが従弟のフレイザーとの関係もあり正面切って応援しにくい。困った。

 そろそろ戦場に戻ろう。椅子から立ち上ると向こうのテントにいるカティが視界に入る。

 カティはレンが迷宮で行方不明になった事を知り魔物が充満する迷宮へ単独で乗り込もうとして取り押さえられた。カティとは任務で数回行動を共にした事があるが本来軍規違反をするような軍人ではない。

 一世代年下の男の子にここまで熱を上げるとは恋は盲目とはよく言ったものだ。あの調子ならカティも軍人には拘りはあるまい。それならそれでレンが一般の職業につきカティが退役して主婦でもやればディアナとしては一番安心する。

それにしても王国一の歌姫にハーフエルフの美女をここまで夢中にさせるとはレンの奴、滔々モテキ到来だろうか。

 戦場の方が何やら騒がしい。どうやら計画の第二段階に移行するようだ。覚醒者以外退避するように命令が飛び交っている。

覚醒を目前にした兵士達から悲鳴と非難の声が上がる。まだまだ魔物は沢山いる。このまま早朝近くまで粘れば覚醒も可能なのだ。気持ちは痛い程わかる。


『グオオオオオォォォォォォォォ!!』


 しかしそんな甘い考えは大気をビリビリと震えさせる咆哮と、迷宮から姿を現す1体の巨人の存在により完膚なきまでに叩きのめされる。

8メルにも及ぶ体長、黒色の太く巨大な首、胴体、手足。クリスタル色の全身鎧と兜、右手にもつ漆黒の闇を陽炎のように纏う巨大なバトルアックス。


(嘘……でしょ? クリスタル色の全身鎧に兜、漆黒の皮膚、巨大な黒色の(アックス)……。あれ……あれって、あのルドラの巨人……?)


 ルドラの巨人。それは凡そ300年前の伝説の勇者を記した物語の主要(メイン)登場人物(キャスト)。子供でも知っている英雄譚であり史実。その物語の舞台となる闘いこそが『世界降魔戦役』。

 それは魔物と人類との生き残りをかけた大激突。人間族、獣人族、エルフ族、ドワーフ族、竜人族、妖精族等様々な種族が手を取り合い魔に挑んだ大戦争。

その戦役の中でのルドラの巨人の役割は人間族四方軍の一つ北の玄武軍をたった 1体で壊滅寸前にまでおいやった伝説の魔物の役。

エルフ族の勇者オズマ・ドリウのパーティーに討伐されたが、彼らを最後まで苦しめた伝説の巨人。300年前は火器が未発達だったとは言え、2000人もの人を虫けらのように殺した事実は今でも人類史に深くトラウマとして刻まれ冒険者機構、各国の育成機関でその脅威は必ず教えられる。


(……ルドラの巨人が中ボス? ということは……まさか! まさかラスボスって――!)


 その最悪ともいえる想像によりディアナは無限に近い井戸へ落ちるような感覚に襲われる。


(英雄譚に出て来る伝説の魔物を子供達の鍛練に使う? 危険とかそんな次元の問題じゃない! 馬鹿げている! 正気の沙汰じゃない! こんなのやめさせなきゃ!)


 そんなディアナの心の叫びもむなしく、兵士、騎士団、冒険者達の悲鳴にも近い歓声が地鳴りのように騎士校グラウンドに響き渡る。

それはバリー達のパーティーとルドラの巨人が衝突した瞬間だった



 お読みいただきありがとうございます。

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