第15話 魔王軍の進軍
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迷宮実習20日目午後14時 迷宮33階層
レン達が黒い闇に吸い込まれるのと丁度同時刻、31階層の通路を埋め尽くし地上を目指す万にも及ぶ魔物の大軍勢がいた。この軍勢は3種類の魔物から構成される。
一つ目は数メルにも達する巨人の集団。体貌は銀の鎧に身を包む者、赤のローブを着る者、右手に鉄製のメイスをもつものなど様々だがいずれにも共通しているのは筋骨隆々の体躯と威風堂々とした佇まいである。
二つ目はアンデットの集団。兵士、騎士、魔法使いの恰好の骸骨、幽鬼、食屍鬼、リッチの軍勢。個として強さはもとより隊列を組み一挙手一投足につき乱れぬ動きをみせる様は群としての強さを容易に想起させる。
三つ目は蛇系魔物の集団。この大蛇、蛇人、多頭蛇などの魔物達は各々がドロドロに溶解する毒の息を吐き、炎、氷、風等を操る特殊能力を持つ。3軍の中で最強の魔物達。
その大軍勢の最後尾に魔物の王達は居た。
「いい男がいたらペットにする。逃げられんように手足の腱を切ってオレに献上するがよい!」
露出度がやたら高い黒色の三角ビキニを着た美しい女性――蛇魔王メドゥサが長い白色の蛇の髪をかき上げながら巨人と骸骨に傲岸不遜な態度で言葉を投げかける。
「おみゃあ、なぜにそう偉そうなんじゃ? 儂らに序列などあるまいに」
不死魔王スカルロードが眼窩の奥を真紅に光らせつつ蛇魔王メドゥサを嗜める。
「愚かな質問だ。オレらにも序列はある。オレは偉大なる御方の次に美しく、偉大なる御方の次に強く、偉大なる御方の次に強大な軍を持つ。即ちぃぃ! オレが世界NO2ぅぅぅ!」
天を仰ぎ自己陶酔に浸る蛇魔王メドゥサ。スカルロードは頭蓋骨を人差し指骨でカリカリと掻きつつウンザリ気味に問う。
「世界NO2は一先ず置いといて、人間の男などペットにしてどうするつもりじゃ?」
「無論存分に楽しんだ後、足からゆっくりと喰らうのよ。一時愛した男が俺にジワジワと喰らわれていく際の絶望の顔、想像しただけでたまらんのぉ~」
頬を赤く染め悶えるメドゥサ。その手の嗜好をまったく理解できないスカルロードは大きな溜息を吐く。
同時に迷宮31階層全体を軋ませるがごとき大声が轟き渡る。
「黙れぇ! 痴れ者めぇぇぇ!!
戦士としての矜持も知らんアバズレ女が戦場を汚すとは何たることか! 何と嘆かわしいことか! 闘争、それは男の生き様であり美学であり哲学でもある。その崇高な戦士たちの精神は死しても――」
大音量を早口で捲くし立てて喋り続ける巨魔王ヘカトンケイル。
ただでさえ怒鳴り声のような大音量であり、その声が五十の頭から発生されるのだ。もうその行為は実質攻撃に等しかった。現に巨大な音に耐性の無い魔物はバタバタと倒れ伏す。他の二柱の魔王達も嫌悪感のたっぷり籠った視線を向ける。
「あ~、うるせぇ! うるせぇ! うるせぇぇ~~え!!」
蛇魔王メドゥサの絶叫に巨魔王ヘカトンケイルはさらに散弾銃のように言葉を絶え間なく紡ぎ続ける。
「まったく、濃い奴らじゃ。だがおみゃあら、偉大なる御方の命、忘れていみゃあなぁ?」
今まで言い争っていたメドゥサとヘカトンケイルは突如争いを止め静かに言葉を絞り出す。
「「無論!」」
人間をペットにしようが戦士として扱おうが構わない。人間共に真の絶望を味あわしさえすれば! 人間共を一匹残らず駆逐しさえすれば! それこそが偉大なる父の望み!
「「「人間共に死と恐怖と絶望を!!」」」
彼らは父たる偉大なる御方のために迷宮の魔物達を蹴散らしながらも地上を目指す。
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