第14話 実習試験(3)
遂に15階の後半実習試験の終着点、祭壇の間の扉の前に到着する。
マルツはまず、マルツが入り安全を確認し、その後でBチーム、次いでAチームが入るよう指示をする。
通常迷宮では全員で部屋に入る事はまずない。なぜなら、全員で部屋に入りトラップに巻き込まれれば救助する者がいなくなるからだ。よって通常数人のチームが入り危険がないとわかった時点で残りが入る。
ハミルトンも決して全員で入る事を許容しなかった。だからマルツのこの指示は間違ってはいない。
しかしなぜB班なのだろうか。人数の少ないA班から行くのがセオリーだろう。とは言えこの迷宮実習の規則から試験官であるマルツの指示に異を唱える事はレン達には許されていない。
マルツが部屋に入り、10分ほど待たされる。皆が遅いと騒ぎ始めたときマルツは部屋から出て来た。
部屋に入るよう指示され、その指示に従い部屋に足を踏み入れるB班。
祭壇へ近づくが指輪が置かれていない。変わりに祭壇には張り紙が張ってあった。
『試験内容の変更:祭壇から指輪をとる事 → 部屋の隅にある黒箱の中から指輪をとる事。
※黒箱の中には簡易なトラップが設置されている。そのトラップを解除し宝箱の中から指輪を取得せよ!
※トラップの解除をする者以外の者も安全地帯であるとは考えず警戒を怠らない事。それも含めて評価の対象とする』
(試験内容の変更など僕達は聞かされていない。学校長の印が押してあるし考えすぎかもしれない。でもこの小骨が喉に刺さったような違和感は……)
B班のメンバーの顔を見るが皆得心のいかないような顔をしていた。
セオリーを無視した試験官の指示に、抜き打ちの試験内容の改変。加えて、試験官が胡散臭いとくればそのような表情をするのも無理もない。
しかし誰も異を唱えないのは、実習試験の成績が零になる危険性があるからだ。
レンにとってはもはや実習試験の成績など心底どうでもよいが他の人達はそうではない。
冒険者育成学校の入学を目指すカリーナ、デリア、ドロシー、ミャーは勿論の事、すでに王立高等騎士学校の入学が決定しているパットでさえもこの迷宮実習の成績が悪ければ入学後に少なからずデメリットを受ける。
ここでレンがマルツに逆らって連帯責任などと言い出し、Bチーム全体の成績が零にでもされれば洒落にならない。大人しく従うしか手はないのだ。
それに不正があったとしても成績に関してだろう。何せ今年は3年に一度の世界学生武道大会の開催年であり、このロイスター王国が開催国だ。息子を代表選手にしたい親たちが不正を働いてもおかしくはない。
大方レン達にトラップを解除させ、ドーン達の番でその箱の中の指輪を祭壇に置いておく。十中八九、トラップ解除の時間も成績に含まれている。一石二鳥というわけだ。
だが万が一がある。レンがトラップを解除することにしよう。
「じゃあ、僕が黒箱のトラップ解除するね」
戦闘技術がなかったレンはその口惜しさもありトラップ等の迷宮探索技術をひたすら学んだ。図書館で本を関連書を読み漁り、実際に家でトラップを作ってみる。不明な点は次の日学校で教官に聞いた。
その甲斐もあり今やレンのトラップ技術はかなりのものになっている。何せあのハミルトンが絶句していたくらいだ。
そしてそれは迷宮前半実習が同じだったミャー、迷宮後半実習が同じだったパット、カリーナは知っている。デリアとドロシーもカリーナが許可すれば否定はしない。
だから異論はないと思っていた。しかし――。
「いや、俺がやる」
パットが恐ろしく真剣な顔つきで、黒箱の前に座り込んでいたレンの右肩を掴む。
「パット、君トラップの解除不得意でしょ? 僕がやるよ」
「い~や。俺がやる。雑魚は引っ込んでな!」
(トラップの解除に雑魚もへったくれもないだろ)
カリーナ達は皆、困惑気味に顔を見合わせている。
「パット、ここはレンに任せましょう。レンがトラップの解除が得意なのは貴方も知っているでしょう?」
パットはカリーナの言葉に答えず、レンを押しのけ黒箱の前に座り込み、トラップを解除し始める。
確かに見たところこのトラップは中等部3年生なら誰でも解除できる簡単なトラップだ。誰が試みても解除はできる。差があるのは時間くらいか。
カリーナはそれ以上口を出さない。パットに任せることにしたようだ。不可解な事にこの手の勝手な行為を嫌う短気なミャーでさえも無言で今の状況を受け入れている。状況に取り残されているのはレンだけ。それがレンを奇妙な焦燥に駆り立てる。
「ぼ、僕がやるって言ってるだろ!」
「…………」
レンに視線さえ向けづに手を動かすパット。
「っ! 聞いてるの? ……何故いつも君はそう勝手なんだ?」
「…………」
レンを無視して黙々と作業を継続するパット。それがレンをより苛立たせる。
「いつもそうだ。いつも。いつも。君はそうやって僕の意思を悉く無視する」
言葉として一度発してしまえばもう抑えなど効かない。この数年間、溜まるにまたっていた不満が身体中から吹き出してくる。
だが、パットは答えず、だた手を動かすだけ。レンは口から自身の中にある幾つもの感情を吐き出していく。
「僕は家で本を読んでいたかったのに無理矢理外に連れ出す!
僕は貴族の社交場なんて行きたくないのに無理矢理連れて行く!
僕は止めようと言ったのに、魔物の巣窟の山に無理矢理引き連れる!
僕は隣の区の奴らと喧嘩なんてしたくなかったのに無理矢理参加させる!
そのくせ今度はいきなり冷たくなって僕を馬鹿にする!
僕は君の後ろで震えていた昔の僕じゃない。もう全部一人でできるんだ!!」
なぜこんな子供染みた事を大声で叫んでいるのだろう。紡いだ言葉をレン自身が理解できない。言葉を発した本人がこれだ。他の人達は尚更だろう。
パットは眼球だけ動かしレンを一瞥するが再び視線を黒箱に戻し無言で作業を続行する。
再度パットに言葉をぶつけようとするがカリーナに肩を掴まれる。カリーナは首を左右に振り、一言『パットに任せろ』とだけ告げる。
体内で複雑な幾つもの感情が衝突し絡みあう。レンは奥歯を強く噛みしめつつ両手を痛いくらい強く握り締める。
――数分後。
「トラップは解除した。開けるぞ!」
ミャーの生唾を呑む音がレンに耳に入って来る。
パットが黒箱開けると同時に黒箱から半径10メル程の闇の球体が突如として出現し、レン達はその闇に飲み込まれる。
お読みいただきありがとうございます。
予定を変更して今から3話更新します。(もしできなければ御免なさい)




