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第12話 実習試験(1)

◇◇◇◇


 迷宮実習二十日目午前7時  

 昨日は午前中冒険者育成学校の一般試験の参考書を買って一日中読んでいた。

何時ものようにエーフィに起され学校へ行く。

王立中等騎士学校校門前の掲示板には『諸事情から5班のAチームとBチームによる試合は中止。両者の学生は実習においてすでに十分な成果を収めたと評価し実習評価点の8割を与える』と記載された紙が貼りつけられていた。

レンが零点になった旨の記載がないのはレンが精霊を召還できる事実が公になる危険性を減らしたいからだろう。

精霊の存在が公に証明されれば世界が混乱する事くらい政治に疎いレンでもわかる。魔法解放主義者達は増長するだろうし、精霊を信仰するエルフたちも何等かのリアクションを起すかも知れない。面倒事が起きるのは目に見えている。

レン個人としてもパット達に鬱蒼しい因縁を付けられないで済み非常に助かる。案の定、パット達はレンを見ても舌打ちするだけで絡んでは来ない。

更衣室で今日の迷宮探索試験の準備をしてから集合場所である王立高等騎士学校運動場前に向かう。

運動場は巣箱に群がる蜂のように大勢の人間がうごめいていた。

マスコミ各社にロイスター王国政府の高官、中央軍の高官、各国の外交官、ロイスター王国の高位貴族、冒険者機構ラシスト支部の幹部達など何でもござれだ。

勿論これほどの面子がたかが王立騎士学校中等部の迷宮実習の最終日試験に勢揃いするのには理由がある。

今年は3年に一度の世界学生武道大会の開催年であり、このロイスター王国が開催国である。そして今日の実習試験の結果により世界学生武道大会団体部門の選手が決定されるのがこの人混みの理由だ。

この世界学生武道大会は13歳から18歳までの学生達が鎬を削る個人部門と各国から選抜された中等部の学生5人のチームによる団体部門から成る。

個人部門が学生の世界一を決める試合だとすれば、団体部門は世界一の国を決める試合だ。当然盛り上がるのは世界一の国を決める団体部門であり各国の名誉にかけて最強のメンバーを揃えて来る。

ちなみに、団体戦が高等部ではなく中等部なのは冒険者育成学校の存在による。

冒険者育成学校には各国の中等部生のエリートが入学する。つまり高等部で試合をすれば冒険者育成学校の一人勝ちになるのは目に見えている。そして冒険者育成学校は国の概念が皆無だ。要は世界一の国を決める闘いにはそぐわないのである。だから団体部門は冒険者育成学校が存在しない中等部のみとなっている。

 ロイスター王国では団体部門のメンバーは伝統的に王立中等騎士学校の3学年の迷宮実習で高成績を収めた5人となっている。

この伝統には批判の声もあるが迷宮を使えない他の学校ではそもそも王立中等騎士学校の生徒の相手にはならない。結局批判は大会の開催が近づくにつれ立ち消えとなるが通常だ。

 代表選手にはカリーナ、フレイザーが選ばれるのはほぼ確定だ。

カラムは前半実習がレンと同じチームのせいで普通に毛が生えた程度の成績だ。

しかし、後半実習はレンという足手纏いがいないせいか上位5名内に入っているらしい。

もしかするかもしれないという噂が8組で風聞している。

 教官陣を見渡すとカティ少尉と視線が合うがあからさまに目を逸らされる。別れ際カティ少尉を抱きしめてしまったせいだろう。

今から思い返しても顔から火が出そうだ。自分の気持ちに気付けたのが嬉しくてつい舞い上がってしまった。今日の実習後の慰労会のときにでも平謝りしよう。

ハミルトンの姿が見当たらない。校長達の発言からハミルトンはレン以上の罰を受けているのは間違いない。

本音をぶちまけるとハミルトンの処罰には全く納得いっていない。

父ルーカスの一連の行為に加えレンがバリー達を危険に晒した行為を鑑みればレンには確かに罰を受けるだけの十分な理由がある。

一方ハミルトンは寧ろ被害者だ。これは父ルーカス自身が認めていた。近日中ルーカスが冒険者機構に便宜を図るよう嘆願書を提出する。これで少しでも罰が軽減すればよいのだが。


「レン!」 


 背後から声がするので振り返るとバリー達5班Bチームの4人の面々だった。


「やあ実習評価の8割獲得おめでとう。後半実習の君達の成績上位30以内に入ったんじゃない?」


「あんがとよ。ていうかそれはレンも同じだろう? そんな事よりなぜ昨日の試合が中止になったかレンは知らないか?」


「い、いや僕は知らないよ。でも君達、別にもうパット達に怒ってないでしょう?」


「まあな、パット達の自分勝手で傲慢な態度に憤りもしたが、思い返して見れば自分勝手という点では俺達も似たり寄ったりだったしよ」


「同感です。本来連携しなければならない迷宮内で取っ組み合いの喧嘩ですからね。救いようがありませよ。

 それに僕個人としては最終日の試合など途中からどうでもよくなってしましたし。それくらい、実習が面白かった!」


「そう! そう! 実習、面白かったし充実感半端じゃなかったよね~、フェイ~?」


「うん……」


「はは、いずれにせよ。君達が冒険者育成学校の推薦試験受験資格獲得できて嬉しいよ」


「レン……許してくれるとは思っていないが、その件ではホント悪かった」 


バリーの言葉を合図にベラ達も頭を深く下げる。


「へ? 何が?」


「俺達のせいで勝手に実習内容を変えてしまったことさ。

レンの評価は5班ではカリーナと並んでトップだったんだろう? なのに俺達がパット達と迷宮内で取っ組み合いの喧嘩をしたから結局その評価が俺達と同じになっちまった。

この間ハミルトン先生がこの後半実習の裏事情を俺達にも説明してくれたんだ」


「別に気にしてないよ。

それに今回実習内容が変わってくれたおかげで僕には僕で得るものがあったしね」


 これは真実だ。仮に実習があのまま進んでいたらレンはルーカス達と本音で語り会えなかっただろう。きっとヴァルトエック家を出るという最悪の選択をしていたはずだ。その自分の過ちに気付けただけで今回の後半実習は何よりも勝る意義があった。

 それに両親を説得なければならないという点で推薦入試よりも一般入試での入学の方が今のレンにとって最適だ。


「もしかしてレンも個別に『鮮血(ブラディ)黒騎士(ブラックナイト)』先生に習ってたのか?」

「ま、まあそんなところかな……」


「え? 本当? どんなこと習ったの?」


 コーマックとベラが少年、少女特有の好奇心の塊のような表情でこの話題に食い付いて来た。フェイも興味津々の様子だ。


「大規模戦闘についてちょっとね」


「大規模戦闘かぁ。先生そんな事もできんだな。

ホントスゲ~よな。先生の立てるスケジュール通りに淡々と鍛練を積んでただけで、『最弱(ウィーケスト)の5(ファイブ)』の俺達が伝説の魔物を倒せるくらい強くなるんだもんな」


「バリー! それは口止めされていたはずですよ!」


コーマックのいつになく厳しい口調にビクッと身を竦ませるバリー。

ベラとフェイの強張った表情からも校長達がかなり強く念を押した事が窺われる。

ハミルトンの事をレンに聞いて来ない所を見ると美味い具合に丸め込まれたようだ。


「そ、そうだった。すまん! じゃ、じゃあ今日の実習試験頑張ろうな!」


「うん。頑張ろうね」


 禁句に触れたのを誤魔化すようにバリー達は強制的に話を打ちきり去って行く。

昨日の時点で全班が解散されおり、今日の試験の班は改めて再結成される。

くじで決めるはずの班につきバリー達4人が同じ班なのにはどうしても校長達の作為を感じてしまう。

色々ありレンが疑心暗鬼になっている面もあるのだろうが『臭い物には蓋をする』理論が見え隠れしてしまう。

 視線をもう一度校庭の中心へ向ける。

世界学生武道大会団体戦の必勝祈願も兼ねて今回の後半実習試験の開始宣言は王族がやる事になった旨をテレビで繰り替えし報道していた。

今日出席の王族は2人だった。

一人は女性のような白く華奢な体躯の金髪の美青年――カルヴィン・ダイアス・ロイスター。第一王子であり次期国王だ。

もっとも華奢なのは見かけだけで王国でも有数の怪力と打たれ強さの持主らしい。車に轢かれそうなった子供を助けるために高速で走る車の前に飛び込み素手で車を大破させたのはロイスター王国でも有名な逸話だ。

人間を止めなければそんな非常識なことはできない。所謂生まれながらの覚醒者というやつだろう。

 そして視線は今日の主役に向かってしまう。

自明のことだが式典の主役たる開始宣言を行うのは迷宮で女神の恩恵を受けた王族。即ち、キャロル殿下だ。

キャロルの麗しい姿が視界に入る。キャロルの毅然とした態度が視界にはいる。キャロルの相変わらず優しそうな笑顔が視界に入る。

一度キャロルの姿を目にすればもう駄目だ。この数日忘れていた狂おしいほどの愛しさと痛みが再び溢れて来る。

とはいえ失恋当時はキャロルの姿をテレビで見るのも辛かったのだ。こうして視線を向けていられるという時点で着実にキャロルの事を忘れているのだろう。憧れの存在になっているのだろう。その事実がたまらなくなり視線を外そうとしたとき、頬を抓られる。


「いつまで鼻の下伸ばしてるニャ」


 視線を右下へ移すと猫娘がレンの頬を、背伸びをしながら抓っていた。その後ろにはカラムもいる。


「いひゃいよ~、みゃぁ~」


「レンはホント懲りないニャ~。追い込まれている事の自覚あるニャ?」


 大きなため息を吐き半眼を向けて来るミャー。


「でも5班全員8割の評価を獲得したんだろう? 冒険者育成学校の推薦の受験資格は楽勝で獲得じゃねぇのか?」


「僕、冒険者育成学校の推薦試験を受けるの止めにしたんだ」


「「は(ニャ)!? それはどういう事だ(ニャ)!?」」


案の定、悪鬼のごとき形相で二人に詰め寄られるレン。共に冒険者育成学校に入学するのを誓い合った仲だ。レンがカラム達の立場でも同様の反応をしたことだろう。


「推薦枠での入学は確かに色んな点で魅力的だよ。

だけど推薦試験は二学期が始まってすぐじゃん? これだと父さん達の了解を取らずに合否が決定しそうなんだよね。今までは父さん達の了解などいらないと思ってたけど、僕父さん達大好きだし了解を取ってから入学することにしたんだ。だから父さん達の説得が絶対条件となる一般入試を受ける事にするよ」


「で、でも一般入試は難関ニャ。合格できる自信あるニャ?」


「今はまだない。だけど血反吐くくらい頑張るよ。どの道一般入試で入学できる力がなければ冒険者のライセンスなど到底取れはしないだろうしね」


カラム達はレンの姿を見て暫らく目を見張っていたが普段の暖かい笑みに戻る。


「レン。今のお前スゲェいいと思うぞ。頑張れよ! 応援してる!」


「私も納得は出来ないけど納得するニャ」


「ありがとう。ミャー、カラム。僕頑張るよ!」


 カラムはレンとミャーから離れて行く。

今回の実習試験は何とミャーと同じ6班だ。2人で班の集合場所へ行く。


 お読みいただきありがとうございます。

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