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セカンドライフ――俺の記憶が戻るまで  作者: 力水
目覚め――迷宮攻略編
1/61

プロローグ

 

 俺――相良氷雨(さがらひさめ)は、今日も愛しくも悲痛な記憶の濁流の中でまどろむ。

街路を真っ黒に埋める日曜の人混み。

 交差点にひしめき合う車の群れは、パニックに襲われた野鼠のように甲高い悲鳴を上げながら俺達の前を走り去る。

 魔物にエルフ、獣人、ドワーフにドラゴニュートが跳梁するこのエインズワースなどという冗談のような世界ではない。この場所は俺の懐かしの故郷――地球だ。

 俺は自身の右手を握る小さな手の主に視線を向ける。小学校低学年ほどの小さな女の子。相良琴葉(さらがことは)。俺に残された数少ない幸せの塊。実の妹であり、命より大切な存在。

 そうだ。この日は丁度二人で横断歩道の向こうに聳え立つ遊園地に遊びに来ていていたんだ。

信号が青になり、琴葉は眼前にある遊園地が待ちきれなくなったのか、俺の手を離し駆け出してしまう。慌てて探すが、琴葉の姿は群衆の中に紛れてしまった。

 横断歩道を急いで渡り、辺りを見渡すと琴葉の背中を視界に収める事が出来た。

 ほっと胸を撫で下ろしたその瞬間、天から黒い光が降り注ぎ俺の意識を呆気なく刈り取る。

 意識を取り戻すと俺は異世界にいた。古代神話時代のエインズワースの人間族のヒューマンの愚王が魔族に対抗するために俺達を召喚したらしい。しかも俺は一緒に召喚されたいけ好かないイケメン餓鬼のおまけだった。さらに俺に何の力もない事を知ると愚王は掌を返したように城から追い出した。

 無一文で放り出され途方に暮れた俺は、小説でよくある冒険者ギルドを探す。全世界から情報を収集できるのはこの職業しかないと思ったからだ。

 しかしそんな都合のよい職業は存在せず一番近いのは傭兵だった。この頃の時代の傭兵は世界の魔物の討伐や、どこぞの国の軍隊に雇われる使い捨ての駒。

 傭兵になり、愚王の使い捨ての駒として戦争に出たが、呆気なく死んでしまった。これは比喩ではない。文字通り死んだのだ。

 だが、数時間で生き返っていた。ここで初めて、異世界召喚のせいで自身が不死になった事に気付く。そしてその数年後自身が不老になっている事にも気づいた。

 それから暫らくして愚王は魔王とやらにイケメン餓鬼ともども滅ぼされた。その魔王も伝説の勇者が現れ退治する。

 俺は、そんなくだらんゴタゴタには目もくれずひたすら地球への帰還の方法を探した。(こと)()には身内は俺しかいない。俺がいなくなれば孤児院送りだ。それだけは許容し得ない。この世界の危機はこの世界の者達が解決するのが筋というものだ。他力本願など虫唾が走る。

そして俺は一つの存在に目を付ける。それは魔法。この世界に召喚したのも魔法なら、地球に帰還する魔法もあるはずだから。

 とある大魔導士に土下座をし、弟子入りを果たす。俺が老いない事を不気味がり、その魔導士に追い出されるまで魔道の基本はあらかた身に着けていた。



                  ◇◇◇◇



 それから気が遠くなる時間が経過する。

 色々な事があった。馬鹿馬鹿しいほどの出会いと別れ。掛け替えのない友と部下もできたし、裏切られもした。

 己の利害のために世界の危機とやらも数回救った事がある。巨大国家すら立ち上げた事もあった。

だが一向に元の世界へ戻る方法だけが見つからない。

 琴葉の顔は財布に入っていた写真で覚えてはいるが声はとっくの昔に忘れてしまった。感情もだいぶ摩耗してきている。俺は長く生き過ぎた。もう限界なのかもしれない。

 そんなある日、事件が起こる。より正確にいえば、事件が起こったと思われる。というのもこの事件の委細は覚えていない。

 もっとも、この世界は魔法により記録された俺の記憶の貯蔵庫。原則として全て認識できるはず。つまり封印でもされているのだろう。覚えているのは僅かだ。俺がある存在を死ぬほど憎んでいたこと。周囲には血の匂いと天には星ひとつ見えない真っ暗な夜空が広がっていたこと。血塗れで仰向けに倒れ伏している俺の傍に立つ銀髪の美しい女が悲しそうな顔で俺に右手の掌を向けて来たこと。

 

 ここでいつものように、意識が薄れていく。俺が俺でいられるのはこの夢の世界だけ。これでまたあの英雄や勇者という虚像に憧れるあの糞っ垂れな甘ちゃんに戻る。

 だが俺は思いださなければならないのだ。あの愛しい琴葉の事を! 銀髪の女の事を! 憎むべき存在の事を! 



 お読みいただきありがとうございます。

 とりあえず、1部を近いうちにあげようと思います。

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