ハイブリッド・ブラン・ブルー/九
「もぉ、ユウリってば駄目だよぉ、あんな風に爆発しちゃあ」
「爆発?」
ヒステリック・ゴー・ゴーというのは伊達リサコのTシャツに書いてあった理解不能意味不明な謎の文句だけど、コナツはユウリのヒステリック・ゴー・ゴーを爆発って表現しがち。「爆発なんてした覚えないけど、木っ端みじんになった気はさらさらないけど、っていうか、爆発って何?」
ユウリは振り返ってコナツのことを睨んだ。ユキコは用事があって迎えに来れないから炎天のアスファルトの帰り道、ユウリはコナツに車椅子を押してもらっていた。北に向かって伸びる一本の道路の左右には鮮やかな緑が広がっていた。錦景市は田舎ではないけれど都会でもないので長閑な田園風景を至るところで見ることが出来る。春日中学校は四方を田圃に囲まれている。
「あらあら、」コナツはユウリが睨むのを笑顔で受け止める。「学校に来た途端コレだもん、普通のユウリはいい子なのに教室だとどうしてあんな風に敵を作るような真似ばかりするの?」
「ちょっと何言ってるか分からないな」
「先生、怒ってたよぉ」
「あの若造にどう思われようが関係ないね」
「内藤君女子に人気あるんだから、ユウリ目の敵にされるよぉ」
「へぇ、そうなんだ、だから何?」
「明日から大変だねぇ、」コナツは大きく吐き、もうどうしようもないんだからという風に諦めた顔をする。「困ったもんだ」
ユウリはそんな顔をするコナツにむっとムカついて力一杯車椅子の車輪を回し始めた。慣れてきて腕の筋肉も少しついたのか、結構スピードが出せるようになった。
「ああ、こらこら、もぉ、ユウリってばぁ」コナツはでも、なかなか車椅子から手を離さなかった。それどころか力を入れてユウリの減速を試みている。
ユウリも意地になったさらに強く車輪を回す。
コナツもそれに負けまいと力を入れてくる。
ユウリはムキになる。
きっとコナツもムキになる。
ふわっとコナツの手が離れた瞬間があった。
「あははっ、」ユウリはなんだか楽しくて笑って少し行った先でコナツの方を振り返って見た。「私の勝ちぃ、ってどうしたの?」
コナツはスマートフォンを片手に立ち尽くしていた。視線は画面にあってユウリにない。
「どうしたの?」返事がないので再度、ユウリはコナツを呼んだ。
「アオちゃんが昨日ユウリの家に忘れ物したかもしれないって」
「え、忘れ物?」
昨日の華火大会の後、アオとコナツはユウリの家に来た。ユキコが迎えに来てくれて、びしょ濡れの二人にユウリの家でお風呂に入るように勧めて二人はそれに従ったのだった。お風呂は別々で入った。ユウリは一緒に入りたかったけれど、アオとは初対面だし一緒に入るというのはなんだか気まずいし、コナツとはなんだか別なことで気まずくなったので、結局右足が不自由なユウリはユキコに体を洗ってもらうことになった。ユキコの体は白くて綺麗だったけど欲情は全然しなかったけどね。・・・・・・いえ、すいません。少しだけドキドキしました。退院してから毎日ユキコには体を洗ってもらっているんだけどいつもドキドキしている。いやらしい気分になる。自分の体と少しだけ違う色合いと形に少しだけ興奮したりしていた。それはユキコには絶対言っちゃいけない沢山の秘密のうちの一つです。言ったら足下を掬われてしまうでしょうから。いや、そんなユキコとの入浴の思い出はどうでもよくって。
「忘れ物なんてなかったと思うけどな、」ユウリは心当たりがなかった。「何を忘れたって?」
「ユウリの家に行っていいかって?」コナツの視線はスマートフォンの画面。
「いいけど、」ユウリはコナツに近づきながら聞く。「何を忘れたの?」
「なんだろうね?」コナツの指は素早く動いている。返信はすぐに来たようだ。「マンションの前で待ってるって」
「それで、何を忘れたの?」




