恐怖
彼女は美しかった。
細く、しなやかな肢体は、ウェディングドレスのような純白のドレスに包まれ、この暗い赤色の空間に光りを放っている。
その髪は、腰まである薄い青色のロングヘアで、この世の存在とは思えない。
女神…。
そう、女神という言葉を連想させるような容姿であった。
俺は彼女の美しさに惹かれるように、彼女に近づいて行った。
彼女は駅前のロータリーの中央、オブジェの上に立っていた。
「あの…。」
俺はためらいもなく声をかけた。
彼女がこちらを振り向いた。
彼女の髪が揺れると、光りの粒子が周囲に舞った。
それは一種の神々しささえ感じさせ、彼女の美しさを一層際立てた。
俺は話しを続けた。
「あの、どうしてそんな所にいるんですか。」
「フフフ…。」
彼女は笑っていた。
「あの、何が起きたかわかりますか。他に人が居なくて。」
「フフフ…。」
彼女は笑っていた。
「あの、聞こえてますか。」
「フフフ…。」
彼女は笑っていた。
「あの…。」
彼女はただ笑っているだけだった。
話しが通じないのか。
確かに日本人には見えないし、外国の人なのかもしれない。
「Can you speak English?」
俺はなんとなく英語で話してみた。
すると、彼女がこちらに手を伸ばしてきた。
彼女の腕は白く、指は細くて長かった。
俺は返事をするかのように、彼女に左手を伸ばした。
俺の指が彼女の指と触れた。
ーその瞬間。
俺の左腕が弾けた。
「へ?」
間抜けな声が口から出た。
目線を自分の左側に移すと、左肩から下がなくなっていた。
「う、がぁぁ⁈」
直後、猛烈な痛みが俺を襲った。
「あ、あぁぁ⁈」
左肩が熱い。
痛みで意識が飛びそうだ。
俺は地面を転げ回った。
「フフフ…。」
彼女は笑っていた。
ここでようやく気付いた。
彼女の異様さに。
彼女がおそらくこの事件の犯人だろう。
俺は直感した。
「フフフ…。」
彼女はオブジェから降り立った。
しかし、その足は地面に触れることはなく、地面から数センチのところで宙に浮いていた。
殺される。
彼女に再び触れられたら、今度は死ぬ。
俺は地面を這って逃げた。
「フフフ…。」
彼女は笑って、俺の前に来た。
そして、手を伸ばし。
視界を赤色が覆った。