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三話 彼女の好きな人間

0909修正。

 △△△


 セセギにとって、キトはJKの写真を撮るだけの変態で、アマネに迫ることは絶対にありえないと思っていたのだが、先ほどのアマネの笑顔が、昨日のアマネの言葉を思い出させる。

 ――「同じクラスの人?」「ううん、違う」

 二年生となり、セセギはアマネと同じクラスだったが、キトは別のクラスとなっている。

「ありえないよ……」

 条件としては、別のクラス、という部分だけが当てはまる。たったそれだけで判断するのはあまりに浅はかであったが、現在のセセギは、キトから受けた意味深な言葉が纏わりつき、まともな思考を阻害していた。

 セセギは教室に入り、席に座ると、すっと眼を瞑った。セセギの体内を這うかのように、針金のような怒りとも悪意とも言い難い熱量を持った感情がのた打ち回っている。

 僅かでも、アマネに近づく存在の可能性を感じたことが、セセギにはたまらなく辛かった。

 校内は、いつになく騒がしかったが、セセギは一人でねっとりと思考の海に沈んでいた。既に放課後となり、空は茜色に染まっている。夕焼けが窓から入り込み、セセギを緩く照らした。セセギは、大きく息を吸い込むと、立ち上がった。

「とにかく、これ以上キトをアマネに近づけるのは危険だ」と心の中で呟く。そして、行動に移ることにした。

 物理で、殴る。

 昼休みに、セセギは空き教室を探ると、誰かが忘れたのか、金槌を発見した。ひんやりと重みを醸す金槌を鞄に隠すようにしまった。キトの家には、何度か遊びに行ったことがあるので、道筋を手に取るように把握している。その中で、途中に細い路地があった。そこは、人通りの少ない、絶好の場所である。

 背後から襲うための。セセギは、キト背後から襲う計画を立てた。

 本日のような機会が訪れるのを予想し、ロッカーに予め仕込んでおいた帽子、サングラス、マスク、シャツの上から羽織るパーカーを押し込んだからだ。それと金槌。故に、セセギの鞄はずっしりと重い。

 セセギは校庭を横切るキトを確認すると、教室を飛び出た。尾行し、路地に差し掛かったところで、執行するつもりであった。

 もちろん、セセギはこの行為に対し、吐き気に近い恐怖を抱いている。この国に人を背後から金槌で襲って許される法律は存在しない。それに、相手は親友と呼んでも差支えの無い人物であった。作戦が成功し、キトが一生歩けないような姿を想像するだけで、セセギの胸は痛んだ。そのたびに、セセギは辞めようと思ったが、アマネへの愛情から発せられる匂いが、セセギの理性を壊し、本能すら支配してセセギを突き動かしているのであった。

 駆け抜けるように校庭に辿りつくと、キトは校門を抜ける。セセギは距離を保ちながらその後を追う。キトの自宅がある方向へ差し掛かろうとした。瞬間、「セセギ!」と、突然声をかけられた。ぎょっとして振り返ると、電柱の陰にキトが潜んでいた。ケータイを片手に、こっちへ来い! と言わんばかりに腕を振っていた。セセギは一瞬硬直し、即座に意識を取り戻すと、キトの元へ駆け寄った。

「な、何してんの?」

「早く隠れるんだ」

「……あー、またいつもの?」

「そうだが、今回ばかりは、少し違う!」

 セセギは鞄の重さに戸惑いながらも、キトの背後に立つ。この瞬間に殴ろうかと考えたが、流石に人に見られてしまう可能性が高いので、仕方なく、キトの蛮行を見守ることにした。

 キトはケータイを水平に構えながら、校門を見つめている。研ぎ澄まされた視線と、驚異的な集中力を発揮していた。気品すら漂っている。これは、JKを写真に収めたいという信念から生み出された姿だと知るセセギは、哀しみを感じた。

 カシャ、と小さく音が鳴る。目当てのJKが校門から出現した刹那を捉えたのだ。汗を一粒垂らしながら、達成感を思わせる笑みを放った。

「ふぅ、流石、だな」

「何が?」

「僕が、だ」

「そうですか。で、今回の子も可愛いの?」

 そう問うと、キトは震えた。それは、セセギが一度も目の当たりにしたことの無いキトの姿であった。

「凄いぞ……」

「その、JKが?」

「僕が、今現在に至るまでに確認したJKの中で……おそらく、いや、確実にトップを張るJKが、この子、だ……」

「はぁ」

「見てみろ!」

 極立ぴかリ、通称――リン。

 その名前が記されたファイルには、一人のJKが写っていた。


 セセギは一人で帰宅していた。一枚の写真を掴みながら。

 その写真を眺めながら、撮影を終えたキトに連れられ、コンピュータルームへ連れ戻されたことを思い出す。

 キトは、データをパソコンに取り込むと、鞄から高そうなA6サイズの用紙を取り出すと、それをプリンタに挿入し、印刷を始めた。

「どうぞ」と、一枚の写真をセセギに渡した。

「え、何?」

「アマネさんに頼まれたんだよ。明日渡そうかと思ったんだが、君は彼女の目の前に住んでいる、お友達、だったな。今日中に渡せば、彼女も喜ぶと思ってね」

 やけにハッキリと発言した部分をセセギは聞き流しながら、唾を呑み込み、口を開く。「キト……」

「なんだ、もう帰るぞ。無断でPCを使っているので、先生に気づかれると後が面倒だからな」

「今朝、アマネと話していたのって、それだけ?」

「転校生が可愛いから、写真が欲しいと頼まれたんだ。リンちゃんのね。珍しく話が合ったよ。君は、アマネさんからその話を聞いていないのか?」

 アマネはキトの趣味が写真撮影とは知っていた。もちろん、被写体がJKとまでは教えていない。

「リン、ちゃん……」

「あぁ、この子のポティシャルは凄まじいよ。本当は昨日撮影を終えたのだが、あまりの可愛さに自我を失い、誤ってデータを消去してしまったんだ」

「ごめん、意味がわからない」

「セセギも、実物を見ればわかる。それよりも速く帰ろうぜ! うっひょっひょーい! やっとリンちゃんを愛でられる、愛でられるぞー! うへへへへへ!」キトが狂い始めたので、セセギはそっと部屋を後にした。

 セセギは一つの答えを己に与えた。アマネの惚れた相手は、キトではなかった、と。しかし、依然セセギを覆う黒い霧は晴れない。寧ろ、それは新たな渦を生み出していた。


▲大正儀セセラギ▲


 アマネに好きな人が出来た。俺じゃなくて、別のクラスの男子……別のクラスの人間で、今朝アマネはキトと会話をしていた「あ、セセギ、お帰りー。どうしたの?」それは昨日転入してきたこの可愛いJKについて語り合っていたらしい「これ……」アマネの好きな人は「ど、どうして、セセギが、持っているの?」

 もしも、目の前で頬を赤らめる彼女、ド非導天詩が、

 男性ではなく、

 女性を好む、女性だったら?

「極立ぴかリ、通称――リン。お前は、この子を、好きなの?」

「……悪い?」


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