バンパイア拾いました(仮)〜体験版〜
「起きなさい、朝よ」
声がした。女の声だ。
....ラノベとかなら幼馴染で、普通なら母親だよな。
あいにくこのつまらない日常はラノベみたいな刺激的な疾走感もないし(そもそも女の子の幼馴染がいない)、僕は世間一般で言うところの普通の高校生ではない。
同じような境遇の者は探せば出てくるんだろうがまず間違いなく、少数派だろう。
僕はいわゆる天涯孤独という奴だ。
.....いや、親戚はいるにはいるよ?
でも、折り合いが悪いって言うか何と言うか....。ともかく僕は両親の残したこの家で1人で暮らしていた。
「.....。」
ペチペチ
彼女は僕が起きないと見ると頬を叩き始めた。
「....人間はぁ、日の光と共に目を覚まぁすんだよ....」
寝ぼけ眼で無茶振りをする。
寝ている人を起こすのに効果的な一番の方法はやはり日光に晒す事だろう。
「....私を馬鹿にしてるの?」
なぜ彼女がそれをしないか?それは.....。
「具合が悪くなるような行動をとってまでアンタに起きてもらう筋合いは無いわ」
彼女が日光を嫌う生き物だからに他ならない。
「.....一応僕は君の大家さんみたいなものなんだけど」
「で?」
「.....もういい」
なんで僕はこんな奴を拾ってしまったんだろう?
バンパイアとは知らなかったとはいえ.....。
いや、女の子を家に連れ込む時点でアウト?
....あの時はテンパってたし、反省....。
・・・
天宮 世良。
それが彼女の名乗った名前。
(見た目の)年は僕とそんなに変わらないように見える。
髪の毛の色(銀色)やら、名前やらいろいろ怪しいが、日本人らしい。
どこかで聞いたような苗字だなと思って調べたら、大正時代の頃に栄えた貴族の一族の名前だった。マジか。
いつ頃から生きているのかを聞いても答えられなかった。
何気無く「流石にペリーが来たのを見てないよな?」と聞くとソファーが飛んできた。殺す気かぁっ!?
セラに料理は出来ない。
ので、僕は普通の高校生より早めに起きている。(セラが居つく前からの習慣だが)
自分で作った物を自分で食べる事ほど味気ない物も無いだろうな.....。
自転車に跨って家を出る。
僕の通う高校は、電車を使った方が良さそうな距離だが....気にしたら負けだ。
駅からの歩く時間で結局5分くらいしか差がないんだから問題ない。
「あ、大河ー!」
ある家の前で呼び止められる。いつも通りだ。(あ、自己紹介してないや。星原 大河っていいます)
少し待つとショートヘアーの可憐な僕の幼馴染ーー小鳥遊 翼が出てきた。
....ちなみに前にも言ったが、僕には女の子の幼馴染はいない。
スカートが似合いそうだが実際に履いているのはズボンだ。
自転車を並べて2人で高校を目指す(翼は体力作りの為の自転車通学らしい)。
・・夕方・・
さて、秋だからもう日も暮れかけている。
....そういえばセラを初めて見た時の空もこんな色だったな。
紫やオレンジ、水色や黒っぽい青なんかが入り混じっていてとても綺麗だ。
「ん、お帰り」
玄関を開けて家に入ると、傲慢ちきなバンパイアが携帯ゲーム機を持ったままで出迎えてくれた。
ちなみにゲーム機は彼女の自前だ。
資金がどこから出たかは考えない事にしている。(天宮財閥の娘であってくれ...。)
ちなみに言うと、彼女はゲームが恐ろしく上手い。僕もそれなりにやっている方だとは思うが対戦ゲームで勝てた事がない。
退屈は人を殺すって何かで読んだけど、彼女みたいに飽きない趣味を持っていれば不老不死でも関係なしに人生を楽しめるんだろうな。