三、不健康! 7
「えいえいえいえいえいえいっ!」
燦々と陽光煌めく街中に、死神少女の鎌の光が妖しく舞い踊る。
「いたたたたたたたたたたっ! 何だよ! 何気合い入ってんだよ!」
小さな草刈り鎌程の大きさのそれが、貧乏学生加納勝利のお尻に向かって何度も突きつけられた。
勝利がげっそりと頬をこかしながら、鎌に突かれ人びと行き交う街を逃げ惑う。
「ふん! 人が気を失っているのをいいことに! きゅう姫と二人きりっになるとは、油断も隙もない!」
「何でお前がそのこと根に持ってんだよ! あれはお前が勝手に気絶してたからだろ!」
勝利が鎌に突き上げるように突かれ、傷むお尻を両手で押さえながら飛び回る。
そんな情けない姿の勝利に、通行人達が何事かと覗き込む。そして例外なくかかわり合いになってはいけないとばかりに目をそらした。
「大将! 逃げちゃダメだろ!」
少し離れた位置で見ていた祭が、口の端に両手をあててはやし立てた。
「うるせえ!」
「だが、逃げ惑う情けない姿! それを街中の人達に見られて笑われる不運! いいね! 大将! 分かってきたじゃない!」
祭はわざとらしいウインクをしながら、勝利に向かって親指を立ててみせる。
「るっせえ! きゅう姫の為にやってんだ!」
「いよ! きゅう姫の為ときたもんだ! 焼けるね! 不運にも、一目惚れを認める気になったのかい?」
「アホか!」
「きゅう姫の為ですって! やはり引導を渡してくれるわ!」
不意に元の大きさに死神の鎌を戻したマヤが、大振りの一撃を食らわさんとその鎌を振り上げた。
「だから、生かさず殺さず体調と体力だけ奪えよ! 引導渡しちゃ、ダメだろ!」
「うるさい! 人間の男の分際で!」
ぶんぶんと振り回される死神の鎌。その全ての攻撃がまるで一撃でその首を刈らんと、勝利の首筋目がけて振り下ろされた。
「こ、こら! ホントに危ないだろ!」
勝利は一気に距離をとり、マヤと正面から対峙した。
その横を買物袋を提げた街の人達が、遠巻きにひそひそと話しながら去っていく。
「死神相手に命の危険を感じる……当たり前の話だ……」
「本気で命を取りにきてるな、お前……」
じりじりと互いに距離を測りながら、マヤと勝利はお互いの出方を見んと回りあった。
「人間の男……きゅう姫の課題まで後少し……だがきゅう姫の課題は今回で終わりではない……」
「何だよ……」
「これからもあの娘の力になるつもりなら……今ここで、更なる不幸を呼び込みもっと稼げるところを見せてもらいたい……」
「ふん……2LDKとやらは、もう後少しのはずだぜ? 今焦って稼ごうとする理由がよく分からん」
「それは……」
マヤが死神の鎌を持ち直す。そして無意識にか勝利の視線から逃れるように下を向いてしまった。
「何だよ?」
「……」
「大将、覚悟が足りないぞ! よし、アタイも参戦だ!」
黙ってしまったマヤに代わって、祭が飛びかかるように勝利の腕をとった。
「おい! 逃げられないだろ!」
「不運にも、それが狙い」
「おのれ!」
「まあ、いい! どの道協力してもらう意外にない! 食らいなさい!」
マヤが死神の鎌を振り上げた。
マヤが鎌をまさに勝利の首筋に打ち降ろさんとした瞬間――
「こら、そこの君達! 何をしている!」
警笛を鳴らして警察官が駆け寄ってきた。
「おお! 不運にもついに警察沙汰に!」
「バカ野郎! そんな鎌振り回すからだ!」
「ふん……とにかく、逃げるわよ……」
勝利達三人は、お互いに目配せすると全力で人ごみに向かって逃げ出した。




