三、不健康! 5
「ウソーッ!」
「信じられない!」
宣伝文句に踊らされるがままに、魅優と祭が我が身を弾ませて喚声を上げる。
夕暮れ時のテーマパークに少女二人の喚声が一際響き渡る。
「はしゃぎ過ぎだ」
「祭ちゃん……」
勢いに乗り損ねたのか、勝利ときゅう姫が後から恥ずかし着いてくる。
「いや……私は……ち、違う……」
その更に後ろでは死神の少女がうろたえていた。
「何してんの、マヤの奴?」
「死神のアクターだと勘違いされてるみたいだな? 見知らぬ子供達に握手を求められてる。ちょっとした保母さんだな。あんな格好してるからだ」
魅優と祭がそんなマヤの様子に振り返った。
「いやいや。おかしな格好してんのは、お前ら全員だろ?」
祭の言葉に勝利が全員をあらためて見回す。
「むっ。何よ勝利。私まで、それ入ってんの?」
きゅう姫が呆れ顔の勝利に向かって頬を膨らませた。
「だってよ。『つぎ』だらけの巫女さん袴に――」
「いいじゃない」
きゅう姫が腕を組み、巫女さん袴の胸を張る。
「全身フリルお化け」
「むっ! お化けとは何よ!」
全身のフリルを波立たせて、魅優が怒りに両の拳を腰にあてた。
「それに、お祭りの法被に、死神のローブだろ?」
「アタイは不運にも――一番ここの雰囲気に合ってる自信があるね!」
祭が勢いよく後ろを向くや、背中の『祭』の文字を皆に見せつけた。
「まあ、ここでは少しだけ普通に見えるのがせめてもの救いだな」
勝利は諦め顔であらためて子供につかまったままのマヤに振り返る。
「違う……どいて……人間の子供……」
マヤは数歩歩く度に子供達に取り囲まれてしまっている。
「それにしてもマヤだけは、どうにもここの雰囲気にはまり過ぎだな」
「不運にも、あいつが一番きたがらなかったのにな」
「キーッ! どきなさいよ!」
ついに堪忍袋の緒が切れたのか、マヤが唐突に元の大きさに戻した死神の鎌を振り回す。
「あ、マヤちゃんが切れた」
「あはは! でも、お子様達も負けていない! 不運にもアクターの芸の一つだと思ってる!」
そう、唐突に出現した死神の鎌に、子供達は更にはしゃいでマヤにまとわりつき始める。
あまつさえ鎌に触れようと皆が手を伸ばしてきた。
「こら……あぶないでしょ……これは死神の鎌なのよ……」
自分で出したはずの死神の鎌に子供達が触れないようにと、マヤは必死でそれを己の頭上に持ち上げた。
「ほら、マケトシ! マヤなんか放っといて。ぼやぼやしてると、時間がもったいないわよ!」
「後、いくつもまわれるかよ……」
「何言ってんだ大将! このスペシャルプラチナチケットの威力を信じろ! 不運にも並ぶ楽しみなし!」
祭はそう叫ぶと、嬉しそうに懐から出したチケットを振り回す。
『アンビリーバブル・エキサイティング・パス』。
そのチケットにはそう印刷されていた。その端には小さく『株主優待券』とも表記されている。
「しかし、いつの間にUSOの株なんかを取得したんだ、魅優?」
「ふふん。イトコ様の先見の明に感謝しなさいよね、マケトシ。今日の売買の時に、ついでにここの株も手に入れておいたのよ!」
「おお! 窓口でいきなりこいつを手に入れていたのを見た時は、流石にちょっと尊敬したな!」
「さあ、大口の株主様の特権よ! これがあれば何処でも最優先! 次にいくわよ!」
「魅優! もちろん次は絶叫系だよな!」
「当たり前よ! 泣こうが叫ぼうが――不運にも誰も助けにきてくれないわ!」
「言ってくれる!」
はしゃぎながらコースターに突進する魅優と祭。
「あはは」
「もう」
困った顔でついていく勝利ときゅう姫。
「どいて……ホント、どいて……」
子供をむげに振り切ることもできず、引き連れながら後を追うマヤ。
五人はスペシャルプラチナチケットの力で、並ばずにコースターに誘導される。
「さあ、心の底から堪能するわよ!」
魅優が飛び乗るようにコースターの席に座った。
「ビビって、悲鳴上げんなよ! 魅優!」
「誰様に言ってくれてんのよ!」
「じゃあ! 特別サービス!」
コースターに乗ると、祭が五人の安全装置に手を伸ばして触り出した。
「祭……まさか……」
ガクンという衝撃とともに、コースターが動き出す。ゆっくりと坂を上り始めた。
「あたいは天才不運少女! 疫病神の祭! 動き出してしまったコースター――」
「はい?」
勝利と魅優が顔を見合わせた。
「マヤちゃん……」
「きゅう姫……耐えるのよ……」
コースターが坂を上り切った。
「その安全装置が、ちょっと緩い気がする……」
「――ッ!」
「その程度の不運――楽勝です!」
祭が嬉しそうに手を挙げる。その祭の手に当たった安全装置が、まるで固定されていないかのように大きく揺れた。
コースターがグンと下り始める。
「うわーっ!」
「キャーッ!」
「イヤーッ!」
「ウッヒャーッ!」
「キーッ! ころ、されぶぅう、びぶば、ぐぎぐが、ぶべば――ムギャッ!」
五人はコースターのスリルを、心の底から堪能する悲鳴を上げた。




