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三、不健康! 1

三、不健康!


「不健康になりなさい! えいっ! えいっ! えいっ! ええいっ!」

 翌日のお昼前。タガが外れたような嬉々とした喚声が、勝利のアパートに響き渡った。

 それは死神の歓喜の声だった。死神少女吉祥院マヤが嬌声とともに死神の鎌をふるう。

「痛っ! 痛っ! 痛っ! 痛いって!」

 死神に鎌をふるわれているのは、勿論不幸を一身に引き受ける貧乏学生加納勝利。

「えいえいえいえい!」

「痛たたたたたたた!」

 勝利の背中に次々と小型化された死神の鎌が、マヤの狂気めいた気合いとともに打ちつけられる。

 それは絶妙に勝利を傷つけずに、痛みだけを与えているようだ。勝利は打たれる度に痛みに身を捩るが、その服の表面は一切破れない。

 だが流石に言葉通り痛いのだろう。勝利は背中を打たれる度に逃れようと部屋の中を走り回る。同じところをグルグルと、不吉なローブを着た少女に追いかけられて勝利は部屋中を逃げ惑った。

「人間の男! 逃げるな! 部屋の中で不幸な目に遭う為に、私の鎌に痛めつけられるのは、お前が言い出したことだぞ! えいっ!」

「だってよ!」

「せっかく入金されたお皿代! 最上級にこの資金を生かす為には、お母様の幸運の蓮の華の力が必要! 私の鎌の力で、手に入れるべき幸運の代価を支払ってもらう! 決まったことだ! 逃げるな!」

「だけど、本能には勝てないって! イタッ!」

「そうだよ、大将! 幸不幸はあざなえる縄のごとし! しっかり不幸な目に遭ってくれ! あはは!」

 そんな不幸な勝利を見て、疫病神の少女覇狼院祭はお腹を抱えて笑い転げまわる。

 あまりの笑い過ぎに目の端に涙まで溜めて、祭はそこら中を転げ回った。

 だが元より狭い勝利の部屋。祭の背中や足は周囲の友人達にどかどかと遠慮も配慮も思慮もなくぶつかる。

「ちょっと……集中できないでしょ!」

 金銭にオデコと眼鏡を光らせる勝利のイトコ――香川魅優が思い切り祭に背中をぶつけられて抗議の声を上げる。

 魅優の手元はパソコンのキーとマウスをせわしなく操作していた。

 魅優の眼鏡に刻一刻と変わる数字の羅列が映り込んでいる。

「そりゃ不運にも失礼! 順調かい? 魅優」

「ふふん。私を誰だと思っているの? 絶好調よ!」

 魅優の手元は一瞬の無駄もない洗練された舞踏のように、きびきびとキーの上を跳ね回る。その度に魅優の眼鏡に映った金額が上がっていく。

「俺の不幸のお陰だろ! イタッ!」

「あはは! 大将! 死神に生かさず殺さずされるなんて、滅多にできない経験だよ! あはは! しっかり死ぬような目に遭ってくれ!」

「ちょちょちょ、ちょっと! 勝利! 本当に大丈夫なの?」

 魅優に小言を言われても転げ回る祭に、軽く足蹴りを食らいながら貧乏神の少女九条院きゅう姫が真っ青になっていた。

 止めるべきか、止めざるべきか。

 そんな感じにきゅう姫は膝を床に着き、半立ちの姿勢で逃げ惑う勝利を呆然と見つめる。

「マヤちゃん! いくらなんでも、やりすぎじゃない!」

「きゅう姫……私はあなたの為に、心を鬼にしてやってるのよ! えいっ!」

「その割には楽しそうじゃないか! イテッ!」

 一際勢いよく下からふるわれた鎌の一撃に、勝利がお尻を押さえて飛び上がる。

「ちょっと休憩しよ! 見てらんないよ!」

「ダメよ、きゅう姫! 止めないで! 今――最高にノッてきたところだから! えいえいえい!」

「マヤちゃん!」

「『ノッてきた』とは! 不運にも本音が出てるぞ、マヤ! あはは!」

 どかどかと両足を魅優の背中にぶつけながら、マヤがやはりお腹を押さえて転げ回る。

「うるさい! 人間の男の分際で! きゅう姫と二人きりに――キーッ! 許せないば! うぎぎゃ! うげぐば!」

「イテテテッ! 何だよ! 更に力入ってきたぞ! 何言ってんだよ?」

「マヤちゃん!」

「がはっ! 不運にも更なる本音が! てか、しゃべれてないぞ、マヤ!」

「うっぎゃい! うごががぎご! ぐげぐが! ぐぎぐぎゃ!」

「あはは! 腹イテ! 不運にもハラワタ捩れ死ぬ!」

 死神少女が更なる鎌を奇声とともにふるい、疫病神少女がその様子に転げ回った。

「痛い! 痛い! 痛い!」

「勝利!」

 そして勝利の叫びと、きゅう姫の悲鳴が響き渡り、

「ああ、もう! うるさいわね! あんたらは!」

 魅優がその阿鼻叫喚の様子を背にキーを操作すると、勝利の口座の残額が見る見る増えていった。

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