三、不健康! 19
きゅう姫は背中を見せて座っていた。相変わらずつぎはぎだらけの袴だった。そして黒く長く艶やかな後ろ髪だった。
「勝手に上がっちゃった。ごめ――」
開きかけたきゅう姫の口を、勝利が腕で塞いだ。後ろから抱きついたのだ。
「ごめんね……」
それでもきゅう姫は、腕から顔を出して謝った。
「何で謝るんだよ?」
勝利は更に腕に力を入れる。
「きゅう姫は何も悪くない」
「……」
きゅう姫は答えない。
「どうした? 早かったな? 許可降りたのか?」
「特別に許してもらったの……」
「そうか! どっか遊びにいこうか? 屋敷の跡地、見にいこうか? きれいさっぱり何もないぞ! お金のかかることは、もうできないしな!」
「違うの……勝利……聞いて……」
勝利の腕を掴んだきゅう姫は、その腕にギュッと力を入れる。
「?」
舞い上がりかけた勝利はその言葉で固まってしまう。嫌な予感が背筋をなで上げる。
「私、結局……神級できなくってさ……]
「えっ!」
勝利の頭の中が真っ白になる。
「……あんなに勝利によくしてもらったのに……」
「そんな……だって……足りるって……」
きゅう姫の『神級』失敗。それは――
「黙ってお別れしようかと思ったけど……」
きゅう姫の体がすっと透け始める。
「ウソだろ……」
「やっぱりお別れは……言いにと思って……特別に消滅まで待ってもらったの……」
きゅう姫が言葉に詰まる。
「屋敷……足らなかったのか?」
「ごめんね……」
きゅう姫がうつむく。少しでも沢山接しようとしてか、勝利の腕に顔を埋める。
「きゅう姫が謝ることじゃない!」
勝利は自分の無力さに苛立を覚える。思わず声を荒らげてしまう。
「謝るのは俺だ……俺の方だ……」
勝利がきゅう姫を力一杯抱きしめる。
「俺がつまんない欲をかかずに、手に入れた財産全てきゅう姫に渡していれば……」
「ううん……いいの……」
「でも……」
「勝利は、よくやってくれたよ……」
「ああ……」
何度も何度も掴んだきゅう姫の後ろ髪。勝利は小さく返事をすると、渾身の力で一本たりとも逃すまいと抱きしめた。
「嬉しい……」
その力強い抱擁に、きゅう姫が静かに目をつむった。
そして――
「……」
きゅう姫の唇が、くいっと何かを求めるように上を向いた。
「きゅう姫……」
勝利はその意味を悟り、己の唇を躊躇いもなく重ねようと――