三、不健康! 16
「……」
きゅう姫が真っ青な顔で庭に倒れてしまう。
「きゅう姫!」
勝利が真っ先にその身を抱え起こした。
「きゅう姫ちゃん!」
魅優も慌てて膝をつく。
「きゅう姫! ――ッ! くそっ、こんな時に!」
「しまった……滞在期間が……」
祭とマヤの体が突如淡い光に包まれた。
「大将! すまない! 下界の滞在期限切れだ! アタイらは先に天界に戻る!」
「きゅう姫……この……カツトシ! きゅう姫をお願い!」
祭のマヤの体は光にすくいあげられるように、その身が宙に浮いていく。
「へへ……大丈夫……」
「大丈夫な訳ないだろ! 死神の鎌つかんで、思いっきり倒れたんだぞ!」
「だって……」
きゅう姫が勝利を見る。だが死神の鎌を直接掴んでしまったせいか、まだ視点が定まらないようだ。
きゅう姫は勝利のあちこちを見てしまう。目が不自然に泳いだ。
そしてきゅう姫の体が透け始める。
「ヤバい! 死神の鎌にやられて、きゅう姫の神様の力そのものが自然消滅し始めている! 大将! 早くきゅう姫の課題を!」
空高くから、祭の叫び声が聞こえてくる。
「きゅう姫が倒れたことで、幸運の蓮の華を手に入れた幸運は相殺! 私がお母様をそう説得するわ!」
マヤも必死で声を張り上げているようだ。
「マケトシ! どうするの? 時間ないわ! このお屋敷売る相手を探す間なんてないわよ!」
「分かっている! 現金化する時間なんかない!」
勝利がきゅう姫の目を真っ直ぐ見つめる。
きゅう姫が勝利の目を見つめ返した。きゅう姫がやっとまともに勝利を見る。
「勝利……」
「きゅう姫……」
勝利が真っ直ぐきゅう姫を見つめる。
きゅう姫はその勝利の眼差しに射抜かれたかのように、ふらつく意識を立て直し視線を固定した。
「だが手はある!」
「マケトシ! どうする気? 妙案なんてないわよ! 屋敷じゃ物納できないし!」
「俺が責任を取ればいい!」
「――ッ!」
きゅう姫の心臓が、内から叩かれたかのように一つ大きく脈打った。
「何言ってんのよ、マケトシ? こんな時に……」
「勝利……」
――ゴッ……
屋敷とその向こう――海へとつながる庭で、巨大な何かが軋む音がした。
「ちょ、ちょっと、まさか……」
魅優の知性が全てを理解する前に、本能が先に動いた。足の裏に全力で力を入れる。
「魅優――」
「ちょっと、もっと早く――」
地面が揺れた。だがそれは、単なる前触れでしかなかった。
「逃げろ!」
「もっと早く言いなさいよ!」
大地が下から突き上げられた。魅優は立ってもいられない。
屋敷の窓ガラスが、音を立ててひび割れた。
「魅優ちゃん……ありがとう……」
きゅう姫の体が浮き始めた。その透け始めてもいる体が、淡く光り始める。
「きゅう姫ちゃん! またね!」
中庭に大きな地割れができた。つられるように、大小様々な地割れが辺り一面に発生する。
魅優がその一つに転びながら走り出した。
地鳴りが鳴り響く。屋敷の外壁に大きな亀裂ができる。コンクリート片が飛び散り、柱や梁が飴のように曲がった。
「いけ! 魅優! 俺はこの屋敷を――」
「勝利……」
浮き始めたきゅう姫を、勝利が力づくで押しとどめる。
「『ダメに』する!」