三、不健康! 10
「えいえいえいえいえいっ!」
「痛たたたたたたっ! お屋敷に住むようにになっても、まだこれかよ!」
勝利は広く逃げ回ることができるようになった屋敷の部屋で、やはり相変わらずマヤの鎌から逃げ回る。
大理石のフローリングの部屋に、豪華な絨毯を敷き詰めて皆が集まる居間が作られていた。
魅優はその壁際の一角でやはりビンク色のパソコンを一心不乱に操作していた。
「不運にもまだまだ稼いでもらわないいけないからな! 大将、しっかり頼むぜ!」
その様子に床に直に座った祭が、足を持ち上げの足の裏で拍手しながらお腹を押さえて笑っていた。
「何でまだ稼がなくっちゃ、いけないんだよ?」
「きゅう姫の課題は『神級』しても、何処まで行っても、お金を巻き上げること。不運にも大将が長く一緒に居たいと思う程、沢山軍資金がいるわけさ!」
「なっ?」
「長くきゅう姫と一緒に居たいだろ? なら、頑張って幸運の蓮の華があるうちに、しっかり不幸を集めて稼いでおかないとな!」
「別に! 何で、俺がきゅう姫と一緒にいる為に、稼ぐって話になってんだ?」
勝利が思わず立ち止まり、祭に肩を怒らせて振り返る。
「好きなんだろ?」
「なっ?」
「隙あり! もらった!」
「グハッ!」
一際鋭くふるわれた死神の鎌に背中を撫でられ、勝利がのけぞった。
「ぐふ……」
勝利は鎌に襲われた勢いのままに前に押し出され、床にもんどりうって転がって行く。
「大将! 情けないぞ! 踏ん張れ!」
「うるさい! 毎度毎度突かれて、斬り掛かられて、体が保つかっての!」
「売りね……こっちは買いっと……」
魅優は周りが騒いでも、自分の世界に没頭してるようだ。全く身じろぎもせずに取引に熱中していてる。
「大丈夫? 勝利?」
きゅう姫が柔らかげなソファーに、慣れない様子で身を預けていた。
いや、本来ならゆったりと腰を沈めるはずのそのソファー。きゅう姫はちょこんと前目に腰掛け、背中をソファーに預けることなく背筋を伸ばして座っていた。
「お、おう! おっとバイトの時間だ」
「何だ、大将? こんな金持ちになったのに、まだバイトに行ってたのか?」
「急に辞める訳には、いかないんだよ。それに……」
勝利がそこで言い淀んで、きゅう姫の方を見る。
「それに――なんだい大将?」
そんな勝利に祭が思わせぶりな視線を送る。
「別に……」
「ははん? きゅう姫がバイトを辞めちゃダメ――とか、言ったんだろ?」
「なっ?」
「いかにもきゅう姫が言いそうなこった!」
「別にいいじゃない! そうだ! 私お昼作らなくっちゃ!」
きゅう姫が最後まで腰を沈めなかったソファーから立ち上がった。
「何だよ、きゅう姫? さっき朝食の洗い物終わったばかりだろ?」
キッチンへと向かうドアに消えようとするきゅう姫の背中に、勝利が後ろから声をかける。
「当たり前でしょ。三食ちゃんと作るのは大変なのよ」
「だったら――ああ、もう行きやがった……」
「どうした、大将?」
「いや、いつもきゅう姫にご飯作ってもらってるな――と思ってな……」
「何……不服なの……きゅう姫の料理が……」
マヤが背後から鎌を回り込ませ、勝利の喉元にその内刃を突きつけた。
「別にそんなこと言ってないだろ? おし……」
勝利が何か自分の考えに納得するように呟いた。
「何だよ、大将?」
「ふふん。秘密だね」
勝利はそうとだけ言うと、一人上機嫌に部屋の外に向かった。
「バカなこと、考えてなきゃいいけどね……」
実際は聞いていたのか、遠ざかっていくイトコの足音に耳をそばだてながら魅優がポツリと呟いた。