僕と彼女の奏でたメロディ
僕は学校の誰もいない音楽室でピアノを弾いていた。
いつもここで練習するのが日課だった。
その日はやっと完成した自分の曲をうれしくて夢中で弾いていた。
ピアノが奏でる澄み切った音を十本の指が軽やかにつないでいく。
楽しかった、うれしかった。
そんなありきたりな言葉でしか表すことができない時間だった。
そんな時間の最後の一音がフェードアウトしていくと同時にパチパチと拍手が鳴り響いた。
「その曲なんていうの?」
僕は振り向いた。
それが彼女との出会いだった。
放課後、教室で必死に楽譜相手ににらめっこしてる僕に友人の一人が話しかけてきた。
「今日も音楽室でやるの?」
僕は顔を上げてそれに答える。
「うん、いつもと同じだよ。」
「よし、じゃあ今日も行くわ、また後で!」
そう言って走り去る友人を見て、ぼそりと呟いた。
「うれしいな、聞いてもらえるって。」
教室を出た僕は足早に音楽室に向かう。
おそらく彼女を待たせてしまっているだろう。
彼女のむくれた顔を思い浮かべ、内心苦笑する。
でも、それでも彼女と会うのは楽しみだ。
音楽室の扉を前にしてから、一歩立ち止まり一呼吸おいてからその扉を開けた。
「遅い!女の子またせたらいけないでしょ!」
予想通り頬を膨らませていた彼女を見て思わずくすりと笑いがこぼれる。
「そこ、笑ってないでさっさと練習はじめるよ!」
彼女はもう準備終えているようだった。
それを見て僕も楽譜を取り出す。
ピアノの譜面台に並べ、ピアノの椅子に腰かける。
すると彼女が僕に目配せしてくる。
それに僕も目配せで答える。
ゆっくりと指を動かして音を奏でていく。
静かに、力強く奏でるイントロにが終わり、
彼女の澄んだ歌声が重なる。
ピアノと歌声が調和してゆく。
そこには音楽で通じ合った、二人だけの世界があった。
「その曲なんていうの?」
ただ僕は驚いて唖然としていた。
いつからそこに立っていたのだろうか。
すらりとしたスタイルにセミロングの髪をした女の子だった。
まっすぐに僕を見つめていた。
なんだか気恥ずかしくて目をそらした。
なんていうか、自分の曲を聴かれたことに対する恥ずかしさなのかもしれないし
そこに立っていた女の子がきれいだったことなのかもしれない。
「・・・あのさ聞いてる?」
ちょっとむくれた顔で彼女は言った。
「あ、うん・・・ええと、まだ名前をつけてないんだ。」
少しあわてながら僕は答えた。
「へえ・・・つまり自分で作った曲ってことなんだ。すごいじゃん。」
彼女は感心したように微笑んだ。
思わず頬を赤らめた。
「あのさ、もう一度さっきの曲弾いてくれない?」
そう彼女は言った。
「あ、うん。いいよ。」
僕は思わずそう答えてしまった。
ゆっくりと指が動いていく。
静かに、でも力強く旋律を奏でる。
そんなイントロを弾き終え、メロディに入ろうとしたところだった。
彼女の大きく息を吸う音が聞こえた。
そして彼女は歌いだした。
その澄んだ歌声がピアノの奏でる旋律と共鳴していく。
僕は息を呑んだ。
そして、この時間が続くことを願って僕は弾き続けた。
「どうだった?」
曲が終わると、彼女はいたずらっ子のような目をして聞いてきた。
「すごかった。」
そんな言葉が口から零れ落ちた。
ありきたりで、シンプルで、嘘偽りのない言葉。
僕の感情が詰まっていた。
「けっこう、口下手なのね。」
彼女はそういってくすりと笑った。
思わず僕は恥ずかしくなって視線をそらす。
少しの時間、僕と彼女の間を沈黙が支配する。
そして僕は口を開く。
「「あのさ」」
僕と彼女は同じ言葉を口にした。
そして二人ともくすりと笑った。
「先どうぞ。」
そう僕は彼女に促す。
彼女は一瞬微笑み
「ありがと。じゃあ先に言わせてもらうね。」
「わたしと一緒に音楽やらない?」
僕が言おうとしていた言葉であり、望んだ言葉だった。
「うん、一緒にやろう。」
それが僕と彼女の出会いだった。
練習を終えた後、
少し緑の匂いがする風を感じながら僕と彼女が出会ったときのことを思い出していた。
まだそんなにも昔のことではないのに懐かしく感じた。
それだけ充実していたということだろうか。
彼女の歌声と歌詞、僕の演奏と曲をあわせて音楽を作った。
そして僕と彼女はその音楽を音楽室で奏ではじめた。
最初は誰も聞く人などいなかった。
だけど一人、二人・・・と次第に聞いてくれる人が増えていった。
気がつけば音楽室はたくさんの人が集まっていた。
僕も彼女もそれがうれしくて楽しかった。
音楽でつながった僕と彼女の大切な思い出だった。
「おーい、もうみんな集まってるよー?」
そう彼女は感傷にふけっていた僕を呼んだ。
「いまいくよー!」
そう僕は答え、僕と彼女が作り上げた音楽を奏でに立ち上がった。
「いぇーいっ。今日もけっこう人集まってくれた。」
僕と彼女がいつもよるファーストフードで暢気に彼女は言う。
「思いっきり音程はずしたのをアレンジしたようにごまかさなければ完璧だったな。」
そういうと彼女は頬をふくらませ、悔しそうにする。
「ちぇっ。今回あんた間違えてないからなおさら悔しいし・・・。」
彼女はポテトをつまみながらそう呟く。
その横顔は夕焼けのオレンジ色の日差しに照らされてなんだか寂しげな表情に見える。
なにより、その瞳は吸い込まれそうなほどに透明で澄んでいて・・・・。
「うん?なにか顔についてた?」
そう、彼女は首をかしげながら聞いてきた。
「あっ、なんでもない・・・・。」
あわてて、僕は目をそらす。
「そういえば、新曲できたー?」
そう無邪気に聞いてきた彼女に安心しながら答えた。
「ちょっとまって、今楽譜出すから。」
僕は鞄から楽譜を取り出し彼女に渡す。
それを真剣に彼女は見つめる。
そして思ったことを素直に話し合う。
そうして音楽を作っていく。
それが僕と彼女の日常だ。
ちょっと前までありえなかったことなのに当たり前になっている。
僕はそんな日々がなによりも楽しかった。
彼女の隣にいられればなんて僕は思った。
「あのさ今度の文化祭でライブやらない?」
そう彼女が提案してきたのは学校祭に向けて学校中が騒がしくなってきたときだ。
僕は少し考えてから疑問をぶつける。
「いいけど、もう舞台の使用申請とかって締め切ったんじゃないの?」
すると彼女はうなずきながら
「生徒会から舞台にだいぶ空きがあってやってほしいって頼まれたのよ。」
なるほど、と僕も納得する。
「じゃあ、時間無いから早く準備したほうがいいよね。」
そういうと、彼女も微笑みながら言った。
「じゃあ、早速会議しよう。」
僕と彼女はまず演奏する曲と曲順を決める。
それにあわせて使う楽器や機材を決めていく。
「思ったんだけど、アコギって音量小さいけど大丈夫なの?」
彼女は率直に疑問に思ったことを聞いてきた。
「マイクでひろってアンプで増幅するから大丈夫。」
僕はそう答え、続けて
「今まで音楽室でやってきたから使わなかったんだよね。
あとそれにマイク使ってヴォーカルも音量上げようと思っているんだけど。」
そう聞くと彼女は唖然とした表情をして
「マイク使うのー!?」
と驚いていた。
いまさらなのに緊張してあわてている彼女の様子をみて、くすりと僕はわらった。
「そこっ。笑うな!」
彼女は恥ずかしそうに頬を膨らませながらそういった。
「まあ、僕もついているから安心してよ。」
僕はそういいながら、彼女をなだめる。
今日はやけに明るいなと思いながら、僕も彼女と笑いながら過ごした。
それから文化祭までの2週間はあっという間だった。
準備と練習に追われながらも過ごした時間は忙しかったけど、充実していた。
彼女が日に日になんだか寂しそうな顔していくのに気づかないくらいに。
とうとう文化祭当日がやってきた。
朝早くの澄んだ空気を感じながら、誰もいない学校の屋上で僕は練習していた。
アコースティックギターの軽やかな音が朝の空気に染みわたっていく。
そこに僕も声を重ねていく。
切ない音色の再会を願う歌。
この曲に彼女が歌詞を書いて、歌ったときに僕は泣きそうになった。
ただの歌というだけでないほどの思いを感じがしたような気がしたからだ。
僕はこの曲を好きになった。
なにより今日はじめてみんなの前で演奏する曲だ。
落ち着かないからこそ、僕は練習していた。
「朝から真面目だね。」
そう彼女に突然後ろから声をかけられた。
誰もいないと思っていた僕は驚いて、少しあわててしまった。
くすりと僕の様子を見て彼女は笑った。
「いつから、聞いてたんだよ。」
僕は少しむくれながら彼女に聞いた。
「歌いだしたところかな。」
彼女の言葉を聴いて僕は顔を赤らめた。
実を言うと一度も彼女の前で僕は歌ったことが一度も無いのだ。
たぶん、下手ではないと思う。たぶん。
そのくらいの自信しか持ってない。
それに彼女の圧倒的な歌声の前ではかすんでしまう、それが理由だった。
「けっこう上手いと思うし、私その声好きだよ。」
そう、彼女に言われると僕はなんだかうれしいような恥ずかしいような気持ちになった。
彼女は僕の隣に腰かけると
「なんだか、落ち着かないな。」
そう呟いた。
「緊張してる?」
僕はそう彼女に聞いた。
「ううん、それもあるけど・・・・・。」
彼女は言葉を濁した。
しばらくすると、彼女がこてんと僕の肩に頭を乗せた。
僕はそれに戸惑い、あわてた。
自分の顔が熱を帯びていくのがわかった。
「ごめん、少しこのままでいさせて・・・・。」
そう彼女が呟くのを聞いて、相変わらず顔が熱かったけど僕は少し落ち着いてうなずいた。
でもずっと僕はそわそわしていた。
しばらくして彼女はわずかに口を動かして何かをいったみたいだった。
でも、その声は朝の澄んだ空気に溶けてしまって聞こえなかった。
そんなことがあった朝から何時間もたち、時刻は昼を過ぎていた。
体育館の舞台裏、ひとつ前の劇の様子を見ながら僕と彼女は出番が来るのを待っていた。
いよいよ始まるのだ。
言うまでも無くかなり緊張していた。
幸いおなかは痛くなっていない。
そんな僕の様子を見て、彼女は僕にそっと近づいて
「大丈夫だって、いままでたくさん練習してきたんだし。」
笑いかけながら彼女は僕に言った。
彼女はまったく緊張してないようだった。
「でも、するものは仕方ないじゃないか。」
僕は不安感が積もっていくのを感じながらそう答えた。
「じゃあ、こうすれば緊張しないでしょ。」
そういうと彼女は、僕の手を握った。
その行動に僕は驚いた。
でも、彼女の手の優しい温もりが伝わってくるのを感じて僕の心は先ほどまでの緊張がうそのように落ち着いた。
そのまま僕と彼女は手をつないでいた。
たがいに確かめ合うように。
そして僕たちの出番がやってきた。
僕たちは目を合わせ
「じゃあ、行こうか。」
その言葉に彼女もうなずき、舞台に上がった。
ピアノの澄んだ旋律を僕は奏でていく。
最初に僕たちが音楽室で出会ったときに僕が弾いていた曲。
僕たちの始まりの曲だ。
静かで、力強く奏でたイントロを僕の指が紡いでいく。
ピアノの軽やかな音に彼女の歌が重なる。
客席が息を呑むのを感じる。
彼女の圧倒的な歌声にそれを引き立てるようなピアノの旋律。
誰もが引き込まれる魅力がそこにあった。
サビに入ったとき、客席のざわめきもそこには無かった。
僕と彼女の音が混じりあい、調和していく。
誰も入ることのできない世界がそこにはできていた。
それからいくつかの曲を演奏した。
誰もが時を忘れるほどの美しさだった。
最後の曲になった。
僕はアコースティックギターに持ち替え、彼女に目配せする。
すると、彼女も僕のほうを向いてうなずいた。
アコースティックギターの軽やかな音が会場に染みわたっていく。
切ない音色の再会を願う歌。
優しくて率直な歌詞を彼女が歌い上げていく。
そして僕もそこに歌を重ねた。
朝の出来事の後に彼女に頼まれたのだ。
ハモリでいいから一緒に歌ってほしいと。
サビに入り一層盛り上がっていく。
別れを悲しむ二人、思い出をたどっていく二人、再会を誓う二人。
そんな歌詞が僕たち二人の溶け合う歌声にのせられて体育館に響いていく。
哀しいようで温かい旋律となって体育館を駆け巡る。
僕たち二人でしか奏でることのできない旋律がそこに満ちていた。
そして、その旋律はまた会おう、と笑顔で笑いあっている二人を見せてくれたような気がした。
ゆっくりとフェードアウトしていく音色が消えたとき、体育館は観客の賞賛と拍手の渦に包まれた。
そして彼女が僕を見つめ、僕も彼女を見つめ、僕たち互いに笑いあった。
大成功だね、と。
後夜祭のキャンプファイアーで僕たちはよりそうように座っていた。
重なり合った影が長くのびている。
僕は彼女の手にそっと自分の手を重ねた。
そうすると彼女もぎゅっと僕の手を握りかえした。
別れを惜しみ、離れたくないと言うかのように。
僕は赤く煌々と燃え上がる炎を見つめながら、こんな時間がいつまでも続けばいいのにと願った。
それから何日かたった日の休日、
自分の部屋でやっと出来上がったあの文化祭ライブのCDを見てほくそ笑んでいた。
このCDを作るのに苦労したのは編集やミックスをしたというのもあるが、サプライズとして彼女に贈るために作ったまだ歌詞の無い新しい曲を入れたからだ。
そんなCDを眺めていると
突然、自分の携帯から着信音が鳴り響いた。
なんだろうと思ってでてみると、彼女の親友からだった。
「悪いけど今から私の話をだまってきいて!!」
相当あわてている様子だ。
「どうしたの?」
そう聞き返すと
「今からすぐに空港に行きなさい!!」
あまりのことに思わず間抜けな声を出してしまった。
「へぇ?」
そんなことお構いなしに続けていく。
「あいつ、アメリカに行っちゃうわよ!!」
その言葉に僕は息を呑む。
そして、僕はその後の言葉を黙って聞いた。
彼女が親の転勤でアメリカに行くこと。
彼女はそのことを少なくとも文化祭よりも前に知っていたこと。
そして、僕に言えだせなかったこと。
僕は彼女の様子を思い出して納得した。
最近彼女が時折見せた寂しげな表情が僕の頭の中を駆け巡る。
「ありがと、今から会いに行く。」
そう、僕は決意して言った。
「がんばりなさい。」
そう短く言葉を交わすと電話を切り、僕はCDを持って家を飛び出した。
タクシーを拾い空港に向かう。
タクシーの中で様々な思いが駆け巡っていく。
あの時見せた笑顔、
はじめてあったときのこと、
音楽室での演奏会、
いつもの帰り道、
文化祭の朝のこと、
そして文化祭のライブ・・・・・。
僕はタクシーが空港に着くと同時にお金を運転手にあわてて払い、全速力で走り出す。
空港の税関のゲートに向かって。
すぐに脚に疲れが溜まっていくのが自覚できた。
僕は運動せずに怠けきった脚を恨んだ。
それでも僕は脚を叱咤し、彼女に会うために走り続ける。
気がつけば税関のすぐそばまで来ていた。
ゲートに並んでいた、彼女を見つけた。
夢中で彼女の名前を僕は呼んだ。
周りの人が何ごとかと振り返ることも僕は気にしなかった。
彼女が振り返る。その顔は驚きやうれしさといった感情が見てとれた。
僕は彼女の前に立った。
「黙って行くなよ・・・。寂しいじゃないか。」
僕はそう彼女に言った。
彼女はうつむきがちに
「ごめん、言えなくて・・・・。」
消えてしまいそうな声でそう言った。
僕は強がって必死に声を出した。
「あやまるなよ・・・。別れのときぐらい笑おうぜ。」
僕の口からこぼれたのは僕たちが文化祭の最後に歌った曲の歌詞だった。
その言葉を聴いて彼女はハッとしたような表情になる。
そして彼女も微笑んだ。
「そうだよね・・・。こういうときぐらい笑っていたいよね。」
その言葉を聞いて僕は安堵した。
そして手に持っていたCDを彼女に差し出した。
「これ、受け取って。こんなものしか渡せないけど・・・。」
もともと渡す予定だったけど、こんなときだからこそ僕たちをつなぐものになると思えた。
「ありがとう・・・・。」
彼女の瞳には涙が溜まっていた。
今にも抑えきれなくなりそうな様子だった。
「渡せるものなんて持ってないから・・・・。」
彼女はそういうと顔を上げ、そっと顔を近づけてきた。
ふわりと、彼女の髪の甘い香りがした。
唇に何かやわらかいものが一瞬触れる感覚がした。
僕は驚いて動くことができなかった。
すると彼女は照れたような顔をして
「じゃあ、そろそろ行くね。」
そう言って税関のゲートに向かっていった。
唖然としていた僕も我にかえり、
「またいつかきっと会おう!約束だぞ!!」
そう僕は彼女に大声で言った。
すると彼女も
「うん、約束だよ!また会おう!!」
そう答えた。
そのとき僕らは笑いあっていた。
僕たちが最後に歌ったあの曲のように、
いつか、また会うときのことを楽しみに思いながら。
それから何年もたった。
彼女とはそれから会っていない。
今でも僕は音楽を作り続けている。
そして僕と彼女が交わした約束もずっと忘れていなかった。
でも、ぽっかりと自分の心に穴が開いたような気がずっとしていた。
空は青いな。
アメリカともつながっているんだな、そう思った。
僕の耳元ではいつも聞いているラジオの音楽番組が流れている。
この番組には視聴者が作ったオリジナル曲を流すという企画がある。
僕も何度かその企画に応募して自分の曲が流れたことがある。
曲を作るときの助けになるので僕は昔からいつも聞いたいた。
『さあ、今日の曲はアメリカ在住の女の子からの投稿だ~!』
『この曲は日本に残してしまった大切な人が作ってくれた曲だそうだよー!
その人に今日この放送の日に帰ってくることを知らせたくて投稿してくれたそうだー!』
『故郷に待たせた恋人に会うのを楽しみに帰ってくる様子を描いたこの歌詞はなんだか、
懐かしい青春してた学生時代を思い出すねー!』
『それでは、お聞きください!』
ラジオのスピーカーからなんだか懐かしいアコースティックギターの旋律がする。
そこにピアノの澄んだ音が重なる。
哀愁を感じさせ、それでもなんだか楽しげなメロディだ。
僕はこのメロディをどこかで聞いたことがあるような気がした。
イントロが終わり、澄んだ力強い歌声がメロディをつむぎだす。
僕はハッとした。
彼女の声だ。
そしてメロディに聞き覚えがあるのも納得がいった。
あの日僕が彼女に渡したCDにいれた歌詞をつけていなかった曲だったのだ。
僕はそのことに目頭が熱くなった。
僕はラジオのスピーカーから流れてくる曲に聞き入った。
あのときよりも彼女の歌はずっとずっと上手くなっていた。
歌声もずっと澄んでいた。
彼女の歌声にピアノとアコギの旋律が混ざり合っていく。。
聞いている人にもっと続いてほしいと思わせるような歌だった。
気がついたら僕の頬に熱いものが流れていった。
最後の一音がフェードアウトして消えていったとき、
僕の両頬は涙でぬれて輝いていた。
そして僕は呟いた。
「帰ってくるならいってくれよ・・・。」
ただうれしかった。
その一言でしか表すことのできない言葉で、
ずっと待ち焦がれていた気持ちがあふれ出しそうなほどこめられていた。
僕は涙をぬぐうと、彼女に会うために家を飛び出した。
でもあのときのようなはりつめた表情ではなく、
再会の約束をしたときのような笑顔で。
きっと彼女も笑っているだろうから。
処女作です。
いろいろと力不足なところがあると思います。
ですが、勉強のために投稿しました。
よろしくお願いします。