乙女ユニコーンはチェリーしか召し上がれない。
桃色から水色へ、グラデーションになった前髪の合間から、巻き貝のような凹凸を持つ角が伸びていく。
「ああっ!」
レンシーはゆるくカールの入った髪を振り乱し、天を仰ぐ。
さくらんぼ色の唇を指でたどりながら、彼女は嘆息した。
「……どうしよう」
──純潔の男性が、食べたい。
波立つシーツを一度、掴んで離し、レンシーはベッドから立ち上がった。
ʚ♥ɞ
「ブラックチェリーレアチーズベーグルおひとつ、出来上がりましたー!」
街角のベーグルスタンドで、レンシーは目の周りが隈取られたミーアキャット獣人に商品を手渡した。
次に並んでいた男が、すかさずカウンターに体を滑りこませてくる。
「你好! レンシーちゃん」
朗らかな声にレンシーは営業スマイルではない、はにかんだ笑みで応じる。
「おはようございます。ルカレオさん。ご注文はいつもと同じでいいですか? アボカドモッツァレラと、お飲み物がブラッドオレンジサワー」
「そ、ゆっくりでいいよ。レンシーちゃんが作っている姿を眺めていたいから」
レンシーはベーグルを切りながら「はーーーっ」と長く息を吐いた。
常連の黒狐獣人ルカレオ。
ところどころ異国語混じりで話すカッコいいお兄ちゃん。
彼は愛嬌がよく距離が近いのだ。
彼の異国語を母語とする土地ではそういう文化なのだろうか?
……近すぎる。
まず、ベーグルスタンドで働くレンシーはかわいく見られるはずがない。
ユニコーンの獣人であるが、家出の際に本来の姿を隠したのだ。
今は地味な茶髪に変えて髪型も引っ詰めた三つ編みにしている。虹の輝きを纏う瞳も、偏光メガネをつけることで誤魔化した。
周囲には「馬獣人です」と申告済。
この変装はうまくいっており、こうしてベーグルスタンドで店員をしていても誰もレンシーを気に留めなかった。
──彼以外は。
レンシーはベーグルを二つに割り、ホットプレートで温めチーズを乗せた。
熱々の生地によってチーズは角を失いベーグルの端を垂れる。頃合いだろう、刻みアボカドをパラッと振って、ベーグルの上半分で挟む。油紙で掴み、ドリンクと並べてカウンターに出す。
「はい、ご注文の品です」
この一連の手捌きを、ルカレオはいつも追って見ている。
最初はそれだけお腹が減っていて、できあがりが待ち遠しいのだろうと考えていた。
けれど最近、レンシーはルカレオの目線に違うものを感じる──勝手に、感じると思ってくすぐったくなっている。
「あ」
タイミングが被ってドリンクを取るルカレオの指先がレンシーの手を掠めた。
「すみませんっ」
謝ったレンシーに対して、ルカレオは。
「好」
「え、え……?」
満面の気さくな笑顔。
一緒に出された言葉の意味はわからないが、好意的であると思う。
ひらひら手を振りながら、ルカレオは遠ざかっていった。
(こんなことで嬉しくなっちゃうなんて……)
ダメダメ、と頭を振った。
つい追ってしまった視線の先で、ルカレオは路地界隈の女性から声をかけられたり、絡まれたりしている。
彼は、容姿のせいもあるが親しみある人柄が好まれる人気者なのだ。
そして……女遊びが派手らしい。
いわゆる女たらしだと、路地で店を営む先輩から聞かされた。
(そんな人気者の争奪戦に参加するのは、気がひけるよ……)
「おい、ねーちゃん。注文」
「はっ! はい!!」
次の客だ。ベーグルを準備しながら、まだルカレオへの割り切れない気持ちが居残っている。
ʚ♥ɞ
自立して生活できるようになるまで、実家の門はくぐらない。
決意のもとレンシーは家出して、街人の生活をしている。
ところが、最近ではやたらとルカレオのことを思い出して胸が疼く。
(なんなの、これ。もしかして、成人が近づいているの?)
窓の外を眺めながら、狐のぬいぐるみを抱きしめた。
子どものときから一緒に寝てきた愛用の品に、ルカレオは少し似ている。
(このこに似てるから、親しみがあるのかな?)
彼の前だと、警戒心が抜けてしまう。
(あとは、あれ。初めて会ったときに優しかったから、それで)
雇われたばかり──手つきもおぼつかず、ベーグルを出すまで長くかかっていた時期があった。「遅い」と客に文句をつけられるのも少なくなくて、へこんでいた。
焦るほど作業が遅くなって、よくないループに入りそうになっていたときのこと。
「お客さん、毎日来てくださってるのに、その度お待たせして……申し訳ありません」
「そんなの、なんでもないよ! ちゃんと作ってくれるなら、待つよ。どれだけでも」
「あ、ありがとうございます! もう!今日はお客さんには私からサービス、このブラッドオレンジサワー持って行ってください!」
「哎呀! 悪いね……ありがたく頂いとくよ。丁寧な馬娘さん」
「また、来てくださいね」
「朝飯にちょうどいいから明日も来るよ。……ルカレオ」
「は?」
「俺ルカレオっていうんだ。君がドリンクおまけした男、覚えてくれるとうれしいな」
「は、はいっ。ルカレオさん」
これでレンシーはルカレオを覚えるどころか……彼は訪れると嬉しい特別なお客さんになった。
しかも、ルカレオはほぼ毎日、レンシーの働くスタンドにやってくるのだ。
ただ、店でやり取りするだけ。あとはまったく接点がない。
そんな関係は、儚い。
ただルカレオが食事の店を変えるだけで切れて忘れる間柄。
しばらくはそのくらいで済んでいた。だけど……先週、ルカレオが迷子を保護して優しくしているのを見た。子どもに笑顔を向け、親を見つけたときはニッコニコになって見送っていた。
それから、いよいよレンシーの中のルカレオ像がおかしい。
「これは……だめだよぉ」
ぬいぐるみをギュムギュム押す。口ではだめと言いながら、ルカレオを思い出すだけで浮き立つ心は悪くない。
ʚ♥ɞ
淡くてくすぐったい楽しさは、翌日に粉砕された。
仕事終わりに路地を歩いている最中、ルカレオが『すっごくイイ女』としか形容できないお姉さんと腕を組んでいたのだ。
金の巻き毛に、胸元の切れ込みが過激な赤のドレスで、大人っぽい狐獣人の女性。
ああ、太刀打ちできないな……、と苦いものを噛み潰しながら、彼らが入っていった建物まで見てしまった。
連れ込み宿屋。
(うわっ……、知りたくなかったなぁ)
ルカレオが女遊びの激しいチャラい人だと聞いていた。ただ、それを裏付けたりするものを見るのは大違いだった。
大人っぽい二人が、大人の場所に入っていった後ろ姿が頭から消えない。
せっかくの仕事終わりで、これからご飯を美味しく食べてゆっくりしたかったのに。
あ、今日はもうご飯いいです。と胸の辺りからノーサインを出されている。
レンシーの胸には錐が立って、キリキリと鋭く抉り続けている。
(その程度には、私は期待しちゃってたってことか……)
自分で自分のことがよくわかって、つらい。
食べれそうもないのに、色とりどりのカップケーキをヤケ買いした。可愛いカップケーキを選んで、砂糖菓子の飾りを選べば、一瞬だけキリキリが止まった。
あと炭酸水。シロップか果実酢を割ろう。それならちょっと時間を置いたら喉を通ると思う。
帰り着いて、ぜんぶ冷蔵庫に突っ込んだらレンシーはベッドにダイブした。
お気に入りの桃の香りがブランケットに沁みている。
相棒のぬいぐるみの顔は見れなくて、ごめんと謝って窓を向けた。
そして目覚めたら──とんでもないことになっていたのだ。
額に生えた、角によって。
(私、成獣になっちゃった!?)
はあはあ、と息を吐きながら、壁で身体を支えた。
身体の熱さで涙が滲む。
本能でわかる。
チェリーを食べなければ──純潔の男性に抱かれなければ、これは収まらない。
(そんなそんな、ルカレオさんに失恋したばっかりなのに。そんなのってないよっ)
たとえば、どんなに望んでもルカレオではレンシーを助けることができない。
昨日、彼が入った場所。ああいうところに行く男性が、純潔であるはずもなく。
(ルカレオさん以外の人と、しないと……収まらないの。ひどいよ……っ)
このまま部屋に留まりたい。壁に貼りつこうとした手が滑って、クローゼットから勝手に服を出す。
普段着ていない、肩や脚が出る、虹色の光沢を持ったワンピースに、袖が通る。
(まって……出る気なの、私?)
ドレッサーからミルキーピンクのルージュをとって引いて、グロスまでつける。
鏡に映ったレンシーは、額に角が生えているだけでなく、髪が本来の桃色から水色、グラデーションに戻っていた。偏光眼鏡をつけていない瞳は潤み、虹色の光を纏っている。そして、感情のままに振れる七色の毛束のしっぽ。
これが、女性のユニコーンの成獣。はじめて目にした。
母は他の獣人家からの嫁入りで、レンシーの家ではユニコーンは男性しかいない。
女性ユニコーン──まるで夢を食べて生きているような、甘い容姿だ。
(うう……これで、街に出ていって? どうするのよ……)
お気に入りの赤いエナメルのミュールを履いて、レンシーは街に繰り出していく。
ʚ♥ɞ
「キミ、めっちゃ可愛いね! 暇ならオレと一緒にどう?」
街をゆくレンシーは目立った。
その上、淡く紅潮した頬、潤んだ瞳。色香を漂わせる様子は片っ端からこの手の下心ありそうな男性を引き寄せた。
「あ……だめ、きちゃ……ぅ」
「具合が悪いの? なら肩貸そうか。それに……休憩できる場所知ってるからさ……」
「だめ、だめ……」
派手な柄物のシャツを着た男性の手が、レンシーの身体に回る。
(──この人、純潔じゃない)
ユニコーンの本能は一瞬でそれを察知して、そして──
「けーーーーーーーん!」
見事に後ろ蹴りを決めてしまった。
「ずべっ!!」
「ごめんなさいごめんなさい! ……さよなら!」
レンシーは一目散に男性から逃げ出す。彼で三人目だった。
(最低! 私さいていだよーーーー!)
たぶん良からぬ思惑もあったようだとはいえ、介助してくれようとしたひとを。純潔ではないからといって蹴ってしまうなんて!
しかし、身体がいうことをきかない。
こんな状態なのに、家に帰れない。
本能が、食べるチェリーを探している。
(もういやーーー! たすけて!)
ベーグルスタンドのある路地に来た。しかし風貌がぜんぜん違うレンシーを、誰も彼女だとわかっていない。
そこだけはありがたい。
(どうか、知り合いを蹴飛ばすことになりませんように! って、あーーーー!)
慣れた路地を離れてホッとしながら角を曲がった先、よりによってルカレオがいる。
(声をかけられませんように!)
祈って行き違おうとして、ルカレオがレンシーを見た。
「咦? 君……」
ルカレオも、今のレンシーの姿なら興味を惹かれて声をかけるのか。この容姿が好みなのか。
傷つきながら彼を見れば──
「レンシーちゃんだよね? どうしたの!?」
(……ルカレオさん、わかったんだ)
衝撃だった。普段と似てもにつかぬレンシーを、なぜ彼は見抜けるのだろう。
「今日はおしゃれした……にしてはなんか、苦しそうじゃない?」
「う……ぅ」
言葉がうまく出ない。ただ、熱くて、その最中に、レンシーを見つけてくれた嬉しさや、苦しさで気持ちがあふれて。
「レンシーちゃん、よければ話きくよ? っていうか、なんか休んだほうがいい?」
肩を貸そうとでもするようにルカレオが近づこうとする。
「ダメっ!」
「レンシーちゃん?」
「絶対……ぜったい近づいちゃ、……だめ……うう」
(だって、ルカレオさんは……チェリーじゃない。蹴り飛ばしちゃう……!)
もしも、優しいルカレオに「けーーーーーーん!」をしてしまったら。
しかも、彼は今のレンシーをそれと見抜いている。
(立ち直れなくなっちゃう!)
どの面下げてこれからルカレオにベーグルを渡せるというのだ! 蹴飛ばしたら、ルカレオは店を変えるかもしれないが。
それでも、自分で自分の墓穴を掘って出てきたくなくなる程度には自己嫌悪に陥るだろう。
「レンシーちゃん……」
「お、おねが……いっ、だめ」
一生懸命手を前に伸ばし、来るなと牽制する。
「あうっ!」
突然、心臓が跳ねて膝が折れた。
「具合、悪そうだよ。ほら、つかまって」
「……だめ、今の私には……れ?」
腕をルカレオの肩に通される。しかしレンシーはルカレオを蹴飛ばすようなことはしなかった。
それに。
(──ルカレオさん、チェリーだ。わかっちゃう……すごく、美味しそう)
ふんわりと、瑞々しく甘い匂いが香る。
今のレンシーが本能で求めているもの。それを大好きなルカレオに感じて、頭がくわんくわんと、痺れた。
「どこかで休む?」
「……家……私の、おうちに」
「了解、まだ歩けるなら教えてくれる?」
ルカレオに支えられ歩く。流れてくる彼の香りを嗅ぐと、なにも考えられなくなりそうで、なるべく息を抑えて家へ誘導した。
それでも、ルカレオと接するところが熱を持ったように気にかかる。
今、客と店員ではなくルカレオといるのだ。
(ルカレオさん、吸いたい。……すりすりしたい)
痴女じゃないか、と悲鳴をあげる自分もいるが、どんどん小さくかすかになった。
そして、アパートのドアまでやってきた。
「ここ? じゃあレンシーちゃん立てる?」
「無理……中まで、きてください」
鍵を開けて、玄関扉をくぐる。
すかさず取っ手を引いて締めてすぐ、レンシーはルカレオの匂いを深くまで吸って、理性の声を消し飛ばした。
「ルカレオさん……っ」
ルカレオにかけていなかったほうの腕も彼の首に回す。背伸びをして、不意打ちで唇に自らの唇を押し付けた。
甘酸っぱさに背筋からしっぽまでピンッと伸びる感覚が走る。
(我慢できないよぅ、ごめんなさいルカレオさん……! でも溶けそう)
頭の中で謝罪しても無駄で、さっぱりルカレオから離れられない。
(ファーストキスなのに! 私ー!)
涙が溢れそうだ。
まだルカレオに突き飛ばされていないのは奇跡なほど無遠慮なことをしている。
が、ここでルカレオから反応があった。
足腰から力が抜ける前に腰を支えられ、ジリジリと、部屋の奥に進む。
パッと支える手を離されて倒れ込んだ先はレンシーのベッドだった。
「ユニコーン乙女の発情、だよね? それなら──君には特定条件の男との子づくり行為が必要なわけだけど」
レンシーはコクコク首を縦に振る。
ルカレオはなぜかユニコーンの事情に通じているらしい。
「お誂え向きなことに俺は……レンシーちゃんの求める条件に適っている。俺が──レンシーちゃんを満たしちゃっていい?」
とても真剣に問われた。
もちろん、とか、ルカレオさんがいい、という積極的な意志をすぐに示せない。
心からそう思っているのに、もごもごと唇の動きが鈍い。
さっきルカレオにキスするときはあんなに行動的だったのに。
嫌じゃないどころか、嬉しい。あなただけがいいのだと、なんとか言えないか言葉を取りまとめようとしていたら、ルカレオの手が額の角に触れた。
「ひゃん!」
ものすごく過敏なそこをぎゅっと包むように握られて、優しくなぜられる。
「……ん……あ……」
白い稲妻が走って、震えた声が漏れるのを止められない。
「……俺はめちゃめちゃ嬉しいよ。確実にレンシーちゃんを俺のものにできる機会が巡ってきたんだ……ダメって言われても逃さない」
「ん、んぅぅっ……」
角を撫でられながら、ルカレオからのキスをもらう。
(ルカレオさん、ルカレオさん……! ルカレオさんのことしか、考えられない──!)
ルカレオが好き。
そのルカレオがキスしてくれて、触れてくれている。
チェリーを求める衝動に翻弄されていたはずなのに、今はルカレオだから、ルカレオと近いことの喜びでいっぱいだった。
ワンピースはうなじの下からリボンで編み上げになって締めるデザインだ。角を撫でたまま、レンシーをうつ伏せにしたルカレオは、編み込みに指を差し込み、緩める。
リボンの擦れる音がして、背中が露わになった。空気の冷たさを感じる。
「んっ」
そこへ、熱くて柔らかなものが何度も落とされる。ルカレオの唇だ。
「綺麗な背中だね。レンシーちゃんは、砂糖細工みたい」
指を絡めて手を握り合った。ルカレオは力強くて温かい。心音が重なっていくのを感じながら、レンシーは瞼を閉じた。
ʚ♥ɞ
「レンシーちゃんこれで俺から離れられないよ。……離さないし」
「ぁ……ルカ、レオさん……」
「我愛你」
「なに? ルカレオさん、どういう意味?」
「おっと、つい漏れちゃった。……秘密。そのうちね」
恍惚としつつ、ルカレオは熱を宿した視線でレンシーを焼く。
「ルカレオさん、色っぽい……」
「そう?」
「うん」
「うれしいな、それでレンシーちゃんが俺に夢中になってくれるなら」
「あ……」
「もう少し、抱きしめさせて」
「……うん」
ʚ♥ɞ
すうすう気持ちよさそうに寝息を立てるレンシーの頬を、ルカレオは自らの手で包んだ。
(かわいいな、君は。どこもかしこも)
ユニコーン獣人の伯爵家、セルカーク家の家出娘を探してほしい。
そう頼まれたのは、けっこう前のことになる。
(女王さまの密偵騎士に選択権なんてなかったし)
なんでも七人兄妹の末娘で、唯一の娘であるゆえにセルカーク家では猫可愛がりされてきた娘だったという。
嫉妬した兄の婚約者に「甘やかされて育って、自立して生きていく力はないことでしょう」と揶揄われたとか。
レンシーの家族はそれで彼女が自活しに出ていったのだろうと考えていた。
もうすぐ成獣になる時期が来るから、早く見つけておかないと大変だ。とも。
ユニコーン獣人は成熟時に純潔の異性を渇望するらしい。
しかも、不純を嫌うゆえに二人目はない。最初に交わった者を生涯の伴侶にするという。
(そうだよ。俺は知ってる。わかってて……レンシーちゃんと抱き合った。これで、絶対にレンシーちゃんを俺だけのものにできるって、嬉しくてたまらない)
依頼されていたユニコーン娘と思しき女性を見つけ、ルカレオは証拠を掴もうと足繁くベーグルスタンドに通った。
ところが、そんなルカレオにおぼつかない手つきでベーグルを差し出されるうち……レンシー自身に惹かれてしまった。
(まいったんだよなー。捜索対象に惚れちまう、とかさ)
ドリンクをおまけにつけてくれたときの笑顔は今でも胸に焼き付いている。
あれ以来、同じ味のドリンクを頼んでは、味わっては、レンシーへの気持ちに胸を焦がされていた。
レンシーが、目当ての乙女ユニコーンだと確信してからも、報告できなかった。
不器用に自分の生活を切り開いている彼女を応援したくて。
いや、単にレンシーからベーグルを受け取る日々を手放せなくなっていただけかも。
報告を『進展なし』で、手紙だけで済ませていた。
きっと、ルカレオが掴んでいる情報を伏せていることを悟ったのだろう。
「お前にしては、手こずっているじゃないか」と──女王陛下がお出ましになった。平民の街へ、下々の格好で図々しく。
(いつも通り、大胆な女性だ。同じ狐獣人ってだけで拾った異国の黒狐なんかを懐刀の密偵にした頃からなにも変わっちゃいない)
とにかく人目につかないところへと、連れ込み宿に入った。
そして、余裕綽々でルカレオを観察する彼女を誤魔化した。
(ほぼバレてんだろうね。腕に自信あったんだけどな〜)
決して身体を許さず相手を籠絡して情報を得る、それがルカレオの得意であった。
絶対に、自分は感情に溺れない。他者とは、俯瞰するもの。それが密偵としてのスタンスだった。
(たまたまだけど、君にとっておけた。でなきゃ、受け付けてすらもらえなかったろうからね……レンシーちゃん)
「う……ん、ルカレオさん……おいしい」
「なんの夢みてるんだか」
起こさないように、そっと愛しのユニコーン獣人の髪を梳く。
(報告を入れるか。セルカーク家にご挨拶にいって……レンシーちゃんの家族に怒られるとしても)
「……責任、取るからね。一生」
──こうして、乙女ユニコーンは最高に甘いチェリーを召し上がり、生涯離してくれない伴侶を得たのでした。
女の子のユニコーンがいたらこんなのじゃないかな。
と妄想逞しく書きました。




