呼び出しと振り出し
黒木 優(くろき ゆう) …受験を頑張りたいと思っている奥手で訳ありな男の子、かりんと付き合っている
※唯々諾々 (いいだくだく)…少しも逆らわずに他人の言いなりになることを意味する
峰平 夏鈴…食いしん坊でゆうくんの彼女。優しくおてんばな一面もある
篠原 真由… ゆうとかりん、りょうたの友達、ものをはっきり言うキッパリした性格
坂上 涼太 (さかがみ りょうた)…ゆうとかりん、まゆの友達、ゆうとはよく連絡を取り合っている
大村 美咲 (おおむら みさき)…ゆうとかりんの通う高校の先生、ゆうの複雑な事情を知っている。口調こそ洗いが、生徒思いな良い先生
なぜ僕はここに呼ばれたのだろうか…「告白なのか?告白なんだろうか」なんていう迂闊なことを考えるわけもなく彼女は僕のほうへと駆け寄ってくる。
「悪い!悪い!待たせたよな、黒木」
「いやいや、大村先生、そんなに待ってないので気にしないでください。ところで話ってなんでしょうか」
要するに僕は先生に呼び出されてしまったのだ…ただ何か手痛いミスをしてしまったり悪いことをしたりした覚えはない。そういう時こそ、相手に何を言われるのか不安になるものである。
「切り込んでしまって悪いが、黒木お前、受験のほうはどうする?教師の私が言える立場ではないのだが、うちの高校だと限界があるとは思うんだ」
本当に教師が言うことではないなと思った反面、僕の通う学校にもこういうことを素直に言う大人もいるんだなとふわっと不思議な気持ちになった。
「…そうですね、僕の気持ちを正直に言うなら頑張って良いところを目指したいと思ってます」
「そうか、分かった…」
少しの沈黙のあと、大村先生は言葉を探るようにして話を続けた。
「私の知り合いが予備校に勤めていてな。もし黒木が良かったらその予備校の体験会に行ってみないか。もちろん親御さんとの相談はしたうえでな。」
「先生、かりんから何か聞きました?」
「私の口からは言いづらいな。だが、あいつはあいつなりにお前のことを真剣に考えている生徒だと思うぞ。大事にしろ。」
むずがゆい気持ちになりながらも僕は頷いた。
「もちろんそうします。パンフレットもらっていきますね」
「ああ…呼び出してすまなかった。また明日」
「はい、また明日。ありがとうございました」
「上手くいくといいんだがな…」と言いたげな先生の表情を横目に僕は職員室を後にした。
僕の通う高校の偏差値は高いとは言えない。そして僕たちの学年は高校2年生であと1週間もすれば冬休みに入ってしまう。周りの人たちは悪い人ではないし良い人も多い。
けれども、受験のことはみんな、さほど意識していないのだと思う。色々な先生たちがいるなか大村先生は他の先生たちとは違うような生徒のことを真に考えた振る舞いをしてくれているような気がする。
今は16時半過ぎ、そして夕方には中学校に通っていたときの同級生である涼太と真由、今も同じ学校に通うかりんとファミレスに行く約束をしている。なので、僕は制服を着たままではあるがそのまま約束した駅前に向かうことにした。
4人が揃ってファミレスに着くととりあえずポテトやミニ唐揚げなど軽い1品を各々頼んでセットドリンクバーを注文した。
ドリンクバーを頼み流れていく静かな空気を断ち切るように、話を切り出したのは涼太だった。
「ちょっと久しぶりだね、ゆうとかりん」
「ああ、久しぶりだね」
「みんな久しぶりー!」
「みんなってぼ、僕は…」
「ゆうくんはいつも一緒だよー!ぎゅーってする?」
ちょっと抜けたところのあるかりんだが、とても可愛く一緒にいて落ち着くしドキドキもする。
「まったくおふたりさんは…」
真由が呆れたいるような微笑ましく思ってるような眼差しで僕たちを見つめてきた。
この3人は僕の数少ない交流のあるなかで大事な人たちで気の置けない仲であり、本音で話せる関係性だった。
験についての相談も3人にしたことがある。だからきっと、かりんが大村先生にそのことを話したのかもしれない。
「なあ、ゆうよ」
「なんだ、涼太よ」
「俺たち学校は違うけど…その力になるからよ。なんかあったら言ってくれ。」
「どうした、改まって恥ずかしいことを…まあありがと。」
不意にテーブルを叩いたドンッ!という音が鳴り響く。真由が何かを言いたげだったので素直に聞いてみる。
「真由どうかしたか?」
「優たちはさ…受験のことどうするの?私は唯々諾々と親に言われたように頑張るつもりだけどさ…」
「唯々諾々って…無理はするなよ。」
別に親に言われたとおりに頑張る必要なんてないなんて言うのはきっと、綺麗事なんだろうと思い踏みとどまった。
かりんはというと…
「つゆだくだく牛丼!?お腹空くよ~」と訳の分からないことを言っている。まあそのおかげもあって場の空気が和んだような気がする。
「予備校の体験会に行ってみようかなって思ってるんだ。」と僕はありのままを伝えた。
僕のほうを見るかりんの目がキラキラと輝いているよはなぜなんだろうか。僕は言葉を呑み込もうか悩みながらも、
「だから…かりんと、みんなと会える時間が減っちゃうかも。」
みんなが僕の話に耳を傾けてくれたうえで
「まあそういう時期だもんなぁ…お互い上手くやっていこうぜ!」と坂上が励ましてくれた。
続けてかりんが頬をちょっとだけぷっくりとさせながら小さく呟いた。
「別に学校で会えるし…寂しく…ないし…いや、寂しいけどさぁ…」
「あらあら、かりんったら…笑」と真由が煽っていたので少し慌てて僕は気持ちを言葉にする。
「かりんと一緒にいる時間は大切だし減らしたくないけど、そのぶんいつも以上に大切な時間にしたい…かな」
つい照れ隠しで「かな」と語尾につけてしまったのは見逃して欲しいところだが、かりんは喜んでくれているので良かった。
しばらく話し込んだ僕たちはファミレスを後にした。
「じゃ、またそのうち!みんな話を聞いてくれてありがとう」
「ああ、また!」
「またねー!」
「またなー」




