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第5話 拠点

二人は、再び歩き始めた。

角ウサギとの戦闘で、坂本は、周囲の気配に対して、以前よりも鋭敏になっていた…。

そして、夜の帳が降りた頃、大きな岩の斜面に開いた、小さな洞穴を見つけた。


「坂本君…、そこの洞穴って…」


「そうだね…。中の様子次第だけど、休めそうなら、今日はここで休もう。」


洞穴の入口には、太い木の幹が置かれ、巧妙にはめ込めれるようにしてあった。


(加工の跡…、明らかに人の手が入っている…。外の魔物や獣から、内部を隔離するための物か…。)


洞穴の中は、思った以上に広かった。奥行きは十畳ほど。

そして、天井と壁には、青白い光を放つ苔が一面に生えて、その光は微かだったが、中に何があるかを認識するには十分だった。

(光る苔…ファンタジーだ)

真鍋は、その神秘的な光景に一瞬息を呑んだが、それ以上に、安堵感が勝った。


(魔物も入ってこれなそうだし、日が落ちた森を歩くのは以ての外。選択肢は他にないな。)


「真鍋さん、今夜はここで休んで、また明るくなってから活用しよう。入口を封鎖してくるよ


坂本は、重い木の幹を再び入口にはめ込み、洞穴の入り口を完全に塞いだ。

森の音が遮断され、洞窟内は、光る苔の光に照らされた、静謐な空間となった。


「坂本君、ありがとう…。これで少しは休めそう…」


咲希も、緊張が解け、その場にへたり込んだ。

坂本も、ナイフを置き、大きく息を吐いた。極度の疲労と緊張から解放され、安堵の波が押し寄せてきた。


洞窟の夜。

二人は、洞窟の奥の、比較的乾燥した場所に座り込み、

革カバンから、硬いパンを取り出し、咲希に差し出した。


「真鍋さん、これを食べて、少し休もう」


咲希は、遠慮なくパンを受け取った。硬くて味気ないが、疲労困憊の身体には、何よりのご馳走だ。

静かにパンを噛みしめながら、二人は、この後のことを話し合った。


「私たち、どうするの?このまま、森で暮らすなんて無理よ」


咲希の言葉に、坂本は頷く。


「ああ。まずは、人の住む場所、文明を探す必要がある。この森の装備だけでは、いずれ限界が来る」


「でも、どこに…?東?西?」


「分からない。ここを拠点と考えて、暫く周辺を調べようと思う。あてずっぽうに進むのは良くない気がするし」


二人の会話は、この世界での「サバイバル」という、重いテーマを孕んでいた。


「…日本に帰りたいな…。お父さんやお母さんは…」


咲希の瞳が潤む。彼女の知る全ての安全な世界が、一瞬で消え去ってしまったのだ。

坂本は、そんな彼女の気持ちを理解できた。彼は、そっと、咲希の肩に手を置いた。


「帰る方法があるなら、必ず見つける。でも、今は生き残ることを考えよう。俺たちは、たまたま、この世界に来てしまったけど、こうして二人一緒だ」


彼の言葉は、彼自身に言い聞かせているようでもあったが、咲希の心に、わずかな灯をともした。


「…ありがとう、坂本君」


咲希は、安心感から、坂本にそっと身を寄せた。

極度の疲労と、この洞窟の温かさ、そして隣にいる互いの存在。

異世界転移の混乱と、魔物との遭遇による緊張が解けた二人は、このゴツゴツとした洞窟の床の上で、互いにそっと身体を寄せ合うようにして、深い眠りに落ちていった。

光る苔の青白い光が、異世界に放り込まれた二人の少年と少女を、静かに照らしていた。



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