第4話 異世界戦闘
真鍋は、半ばパニックになりながらも、坂本の背中を追っていた。
――ピピ…ピピ…
二人が森の中を数歩進んだ時、二人の脳内に、まるで携帯電話の通知音のような、電子音とは違う、しかし確かな「声」が響いた。
『ユグドラシル…相転移…了…。生命…報更…処理…。』
『スキル…インストール…完了。』
坂本と真鍋は、同時にその場に立ち尽くした…。
「今…誰かの声が…、ユグドラシル!?」
「私にも聞こえたよ…。スキル、って言ったわよね…?」
二人の顔に、驚愕の色が浮かぶ。
この、訳の分からない状況で、彼らは、初めて、生き残るための「武器」を与えられ、
そして、ここが地球では無いことが確定したとも言えた…。
「…分からない。ただ、この状況が、俺たちの知ってる世界じゃないことだけは、確実のようだね」
坂本は、革カバンを肩にかけ、手に持つナイフを握りしめた。
「でも、今は出口を見つけよう。」
坂本は、そっと真鍋の手を掴み、歩き出した。
彼女の、震える冷たい手に気づいていた。
「坂本君…、ありがとう…。」
足元は、見慣れない植物の根や、ぬかるんだ土。獣の声のする森に、スキル…。
「大丈夫だ、真鍋さん。道は必ずある」
そう言ったが坂本も実は、この極限状況下では、不安に押しつぶされそうになっていた…。
しかし、隣で震えている真鍋を守らなければならないという気持ちが、彼を奮い立たせてる。
そして、”過去の呪い”が襲い来る…。
(くそっ、この俺が、この美少女を守りそして、異世界をスキルを駆使して冒険する…!?)
彼は、己の不謹慎な思考に内心で恐怖したが、その緊張と興奮が、彼のパニックを打ち消し、冷静さを保つ原動力となっていった…。
森の木々の間隔が、わずかに開けた時、二人は、地面を這うように生えた低い草むらの中に、動く影を認めた。
「あれ…ウサギ?」
真鍋が囁く…。
それは、確かに外観はウサギに似ていた。しかし、その額からは、鋭く尖った一本の角が突き出し、その体毛は鉄錆のような赤黒い色をしていた。目は、血のように赤く、獰猛な光を放っている。
「「キシャアアア!」」
甲高い鳴き声とともに、その”角ウサギ”は、低い体勢から坂本たちに向かって飛びかかってくる。その動きは、驚くほど俊敏で、速い。
「危ない!」
坂本は、反射的に真鍋を後ろに庇い、手に持っていたナイフを突き出した。
ナイフは、偶然にも角ウサギの脇腹に、浅く突き刺さる。
「「グガッ!」」
角ウサギは、苦悶の声を上げ、その場に転がった。
しかし、すぐに立ち上がり、坂本を睨みつける。その傷口からは、黒い血が滲み出ていた。
(な、なんだこれ!?ウサギのレベルじゃない!これじゃ、小型のイノシシだ!)
坂本は、自分が日本の普通の高校生だったことを思い知らされた…。
角ウサギは、低い唸り声を上げ、再び飛びかかる体勢に入った。
坂本は、ナイフを水平に構え、角ウサギの角が当たる瞬間に、身体を横に大きく逸らした。ウサギの体は、慣性の法則に従い、そのまま坂本の横をすり抜け、森の奥へと走り去って行った…。
「ハァ…ハァ…」
坂本は、激しく息を吐きながら、ナイフを持った腕を下げた。全身の力が抜け、膝が笑いそうになる。
「さ、坂本君!大丈夫!?」
真鍋は、恐怖で腰が抜けていたが、坂本の無事を確認し、駆け寄った。
「…ああ、何とか。逃げたようだね。助かったよ…。」
坂本は、森の暗がりに消えた角ウサギの残像を見つめた。
「ウサギに角が生えていて、人を襲う…やっぱり、ここは、異世界なんだね…」
彼は、目の前で起こったことは、彼の知識や常識の全てが通用しない世界だということを。
真鍋もまた、その事実に全身の震えをもって納得した。彼らが立っているこの場所は、
命を奪い合う、弱肉強食の世界なのだ…。




