第31話 国王
王都カラロードの空は、白く染まっていた。
まるで天に蓋があり、それが静かに…だが決定的に開かれたかのような光。
アルフレッド=フォン=アルサーク国王は、バルコニーに立ち、その異変を無言で見上げていた。
胸の奥を撫でるような、不快な予感。
(神か……それとも、災厄か)
背後に控える側近たちは、王の沈黙を破れず、ただ息を潜めていた。
翌朝、王宮の会議室には最低限の重鎮のみが集められていた。
宰相ベスター=ルベルク、筆頭宮廷魔導師、そして軍務を統括する老将。
「昨日の発光について、報告せよ」
王の声は低く、冷えていた。
筆頭宮廷魔導師は一歩前に出て、額の汗を拭う。
「はっ……王立観測所の魔導具はすべて反応限界を超え、計測不能となりました。
魔力反応は王都のみならず、大陸全土へと拡散。人為的な術式では説明がつきませぬ」
「要するに?」
「……神性領域の可能性が高いかと」
一瞬、室内の空気が張り詰めた。
アルフレッド王は目を伏せ、机の上を指で軽く叩いた。
「ならば、正体不明のまま、放置はできんな」
軍務大臣が頷く。
「すでに民の間では“天啓” “終末”など、噂が飛び交っております」
「噂は管理せよ。恐怖は制御を失えば刃だ」
王の言葉に、誰も異を唱えなかった。
同刻、王都の大聖堂地下。
枢機卿の一人が、届けられた報告書に目を通し、祈るように指先を組みながら、眼光だけを鋭く光らせた。
「……発光の中心は、西方ハーバス領」
以前から噂はあった…。
だが、王家が動いたとなれば話は別だ。
「王に先を越されるわけにはいかぬ。
信仰とは、導く者の手にあってこそ意味を持つ」
その夜、教会の密使が静かに王都を発った。
発光現象の翌日。
王の私室には、すでに追加の報告が届いていた。
「……ハーバス侯が、【使徒】と見られる者を保護中、か」
アルフレッド王は、報告書を閉じ、微かに笑った…。
拾われたのは、神か。
それとも、神を名乗る何かか。
(いずれにせよ……)
王は筆を執り、格式ある招待状をしたためる。
『ハーバス侯爵へ。使徒の保護に感謝を。
王として、直接礼を述べたい――』
書き終えた瞬間、窓から吹き込んだ風がカーテンを揺らし影が不自然に揺れた。
次の瞬間には、机の上の手紙は影も形もなく消えていた…。
そこへ宰相ベスターが入室する。
「陛下。すでに手配を?【使徒】とされる二名……王宮へ招かれるのですね」
「真偽を確かめねばならん。
それに――真であれば、王家の傘下に置く。それだけだ」
王は静かに立ち上がった。
「アレン=ハーバスを呼べ。
侯爵家と橋渡し役としてな」
◇◇◇
若き官僚アレンは、王の前で一礼した。
「父の領に関わる件と伺いました」
「察しがいい。
“贈り物”を迎えに行ってほしい。それを、王国の利益に変える方法も含めてな」
アレンは一瞬だけ思案し、即座に答えた。
「……承知しました。最善を尽くします」
その瞳の奥に、野心と計算が静かに灯る。
神の使徒を巡り、
王家は囲い込みを企み、
教会は奪取を画策し、
貴族たちは様子見の仮面を被る。
王都カラロード。
華やかな社交の裏で、誰もが同じ獲物を狙っていた。
そしてまだ誰も知らない。
その【使徒】こそが、
この王国の均衡を根こそぎ揺るがす存在であることを。
迎えに行く息子。旅立つ坂本一行は巡り会えるのか!?
本当は良い王様なのかも?




