第2話 あなたは誰!?
うっすらと瞼をあけた、真鍋の視界を最初に捉えたのは、見上げるほどに高く、太い木々の枝葉が織りなす濃密な緑の天蓋だった。
太陽の光は、その厚い緑のフィルターを通り抜け、弱々しく、森の地面に降り注いでいる。
「う、うぅん…」
全身が鉛のように重い…。
体中の関節がきしみ、石畳の上に寝転がっていたかのように、背中が痛む。
真鍋はゆっくりと身を起こし、周囲を見渡す。
そこは、見渡す限り、深い、深い森の中だった。
東京の、手入れされた公園の森とは違う。
人が踏み入ることを拒絶するかのような原生林。
湿った土の匂い、腐葉土の匂い、そして、名も知らぬ花や草の、甘いような、苦いような匂いが混ざり合って鼻をつく。
「な、なんで…どうして私はここに…?」
彼女が最初に感じたのは、違和感だった。
(…え、何…?声が…?…私の声じゃ無い…!?)
真鍋は慌てて自分を観る。
体を覆っているのは、学校の制服でも、部屋着でもない。
ゴワゴワとした、粗末な麻布のような生地の服。
膝には土がつき、袖口は何度も補修された跡がある。
(何!?、どうなってるの!?)
つい数分前まで、彼女は高校の教室にいた…。
クラスメイトと笑い、午後の退屈な授業の始まりを待っていたはずだ。
それが一瞬で、この、見知らぬ森の中に放り出されている…。
(夢?悪い夢だわ、きっと。すぐに目が覚めて、自分の部屋の天井が見えるはず…。)
真鍋は目を固く瞑り、深呼吸を試みた。しかし、吸い込む空気は、彼女が知る日本の空気ではなかった。全身にまとわりつく湿気と、野性的な匂い。
恐る恐る目を開ける。
景色は変わらない…。
(…な、なぜ!?、あっ…。)
そして気付く、自分の少し前に横たわる、もう一つの人影に。
「…。」
真鍋に恐怖がよぎる…。
(死んでるの…!?、いったい何?…、…獣に襲われたの!?)
身を伏せ改めて周りを観察する。
(ど、どうしよう…。)
再度、人影をよく観る。
倒れているのは、少年…?
彼の着ている服は、真鍋とよく似たゴワゴワとした麻の服。
ボロボロで、汚れている。
短い茶髪で、身長は175cmほどで、細身ではあるが、鍛えられたような筋肉が感じられる体つき。西洋風の整った顔立ちで、映画に出てくる若き旅人のようだ。
「ん…うぅ…」
呻き声とともに、少年がゆっくりと目を開けた。
真鍋はとっさに、木々の隙間に身を隠し観察を続けた。
「……。」
「なぜ…?、さっきまで教室に…。」
(えっ、教室!?。…もしかして…、坂本くん?坂本君なの!?)
真鍋は、恐る恐る、その少年に声をかける。
「あ、あの…。」
暫し、無言で見つめ合う2人。
「………。」
少年は、数秒間、ぼんやりと空を見上げた後、何かに気づいたのか、目を見開き。
「えーと、もしかして真鍋さん?」
そして、頷く目の前の美少女の姿を見て、二度目の驚愕に襲われた。
「ほ、本当に、真鍋さん…なんだ…?」
「でも、なんで…!?」
真鍋咲希。
その姿は、一瞬、誰もが息をのむような美しさだった。
彼女の髪は、腰までの艶やかな黒髪ではなく、肩までのサラサラとした、薄い緑かかった銀髪。その肌は驚くほどに白く、大きな瞳は、どこか慈悲を含んだように優しく、儚げな美しさを醸し出している。妖精を思わせる、清楚な美貌。
しかし、着ている服は、粗末な麻の服で、そのコントラストが異常な現実を物語っていた。
「それは私のセリフよ、坂本君!あなたこそ、何その顔…!?髪も、目の色も、顔立ちも、別人じゃない!!」
そして、真鍋は限界突破してゆくのだった…。




