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第23話 旅立ち

「いよいよ、か……」


坂本昇は、手近な岩に腰を下ろし、慣れ親しんだ洞窟の奥を見つめていた。

ライカたちとの数回にわたる定期的な会合を経て、ついに今日、彼らはこの森を後にする。


異世界で目覚めてから、およそ一年の歳月が流れていた。


意味も分からずこの世界で目覚め、得体の知れない恐怖に震えたあの日。

魔物に襲われ、死を覚悟した瞬間もあった。運良くこの拠点にたどり着き、この骸骨と出会えたことが、すべての転換点だった。

そこからは、サバイバルの日々だ。

魔物の牙、不慣れな食事、怪我や病気に怯え、時々、真鍋が引き起こす【局地災害】に命の危険を感じながらも、今日まで生き抜いてきた。

スキルにも恵まれた。

AIアシスタントから得られる知識は、この世界の常識とは違うかも知れないけど、生きるための道標となった。

しかし、坂本にとって何よりも重要だったのは、【真鍋咲希】の存在だった。


隣に誰かがいるということ。

言葉を交わし、絶望を分かち合える【一人ではない】という事実が、どれほど坂本の精神を救ってきたか。

感謝してもしきれない思いが、胸の奥から込み上げてくる。


坂本は、幾度かの交流で得た荷物をまとめると、威厳を保ったまま座し続ける骸骨を見上げた。


「結局、あなたの正体は分からないままでした…。でも、いつかこの世界を旅して、あなたをこの世界から見つけ出してみせます。それまでは、この剣を、お借りしますね」


坂本は腰の剣を軽く叩き、深く一礼した。

主を失っていた無機質な鉄の塊は、今や坂本の体の一部のように馴染んでいる。


「坂本君、行こっか」


背後から、柔らかい声がした。真鍋は空気を読み、彼が別れを告げるのを静かに待っていてくれたのだ。

その眼差しには、これまで共に歩んできた者同士の深い信頼が宿っていた。


「そうだね。行こう」


坂本は力強く答え、立ち上がった。


未練を断ち切るように、洞窟の入り口へと歩みを進める。

最後にもう一度だけ中を振り返り、重い石の扉と木の幹で入り口を完全に封鎖した。

いつか、ここへ戻ってくる日のために。


そして、坂本は真鍋の隣に立つと、彼女の白い右手をそっと取った。

最初は知識共有のための便宜的な手段だったこの行為も、今では二人の心を繋ぐ大切な儀式となっていた。


「準備はいい?」


「うん。……ちょっと緊張するけど、坂本君がいれば大丈夫かな」


真鍋が少しだけ照れくさそうに微笑むだけで、坂本の心は揺らぐ。

白を基調とした薄布のローブに

飾り気のない金刺繍と長い袖が、彼女の、清らかさと女神めいた静謐を静かに語っている。


その指先に力を込め、二人はライカたちが待つ庵へと向かって歩き出した。


森の庵では、侯爵家直属の騎士が、最高の礼装を整えて整列していた。


先頭に立つライカ=カドモンドは、近づいてくる二人の姿を認めると、これまでにないほど厳粛な表情で敬礼を送った。

「女神」とその「騎士」を、

王国の歴史に招き入れるという、世紀の瞬間なのだ。


木々の隙間から差し込む陽光が、二人の行く先を黄金色に照らし出している。


イノベル大陸という広大な舞台での、坂本昇と真鍋咲希の新たな旅立ちが、今ここに幕を開ける。


これで、第一部完了です。

閑話を数話。その後、第二部 を書いて行けたらと思います。

閑話は、会合に来たおじいちゃんと地球編の予定かな。

引き続き宜しくお願い致します。

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