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第20話 森の悪魔

 坂本は、一度目を閉じ、状況整理のため、脳内で『AIアシスタント』を起動させる。

視覚と聴覚をAIと同期し、認識速度を極限まで加速させた。


(うっ……やっぱり気持ち悪い)


『坂本様、交渉をサポートさせて頂きます。真鍋様の存在については肯定も否定もせず、まずは先方の状況と世界観をトレースする方針で参りましょう』


 坂本が沈黙を守る間、ライカは警戒を解かぬまま、威厳に満ちた声で語りかけた。


「女神の騎士よ。私はこの森の異変を調査しに参った、アルサーク王国ハーバス領所属の騎士、ライカ=カドモンドと申す。後ろの二人は、騎士サラとエリスだ」


 坂本はゆっくりと目を開ける。


「……僕は坂本。貴方が仰る『森の異変』とは、具体的に何のことですか?」


 ライカは、包み隠さず打ち明けた。


「先日より領都において、この北の森から発せられる『異常な魔力のうごき』が観測されている。さらにマルスの町では、女神の怒りに触れ、激しい光と共に一瞬にして森が消失したとの噂も届いているのだ。……実際、この辺りは魔物の気配が極端に少ない。これも女神の加護か?」


(…確定。真鍋さんのプラズマ爆発と、僕たちが食料確保のために魔物を乱獲しすぎたせい!?)


 坂本は内心の冷や汗を隠し、言葉を選んだ。


「その件については、確かに彼女と関わりがあるようですね。」


(真鍋さんの魔法は、この世界の『通常』とは原理が違うのか? 一体、この世界の魔法とはどんなものなんだろう?)


 坂本の疑念を遮るように、エリスが身を乗り出した。


「女神の騎士様! わたくしはエリス=カドモンドと申しますわ。是非、その女神様にお会いしたいのですけれど、お取次ぎを願えませんでしょうか?」


 エリスが食い気味に割り込んできた、その時だった。


(ねえ、坂本君。……『クマもどき』がこっちに来てるみたい。どうする?)


 真鍋が小声で囁いた。


(……出てくるタイミングで、動きだけ止めてくれればいいよ)


(りょーかい)


 真鍋の返事はあまりに軽かった。この一ヶ月で彼女は驚くほど肝が据わり、もはや魔物を「食料」程度にしか考えていない節がある。


「そうですね…。少しおまちくざさい」


 坂本がそう口にした瞬間だった。


「 サラ右からだ!!エリスを!」


 サラが猛然とエリスを抱え上げ、左方へ跳躍した。

同時にライカが剣を抜き放ち、右側の茂みを見据える。


直後、藪を裂いて現れたのは、森の生態系の頂点に君臨する巨大な魔物だった。


「ブラッドグリズ……!」


 サラが戦慄を含んだ声で呟く。

 ぬらりと光る赤黒い体毛、血走った真っ赤な眼。裂けたような唇の隙間から、粘つく唾液が糸を引いている。

熟練の狩人ですら遭遇すれば生還は絶望的と言われる「森の悪魔」が、そこにいた。


(真鍋さん、お願い)


(おーけー!)


 次の瞬間、ブラッドグリスを中心とした空間が、まるで硝子の中に閉じ込められたように「静止」した。

分子レベルでの強制的な干渉。


 ライカたちが剣を構え、覚悟を決めたその静寂の中。


「よいしょ」


場違いなほど軽い坂本の声。

目にも止まらぬ速さで坂本が踏み込んだ。

次の瞬間には、ブラッドグリスの背中から坂本の剣が突き抜けていた。

魔石も破壊されたのか、光の粒子が坂本の体内へと流れ込む。


「……よし、血抜きをして、吊るしてよしっと」


 無造作に、扱われる森の悪魔。


 坂本は、何事もなかったかのように振り返った。


「お待たせしました。お話の続きをどうぞ」


「「「…………。」」」


 ライカ、エリス、サラの三人は、抜いた剣を構えたまま石像のように固まっていた。


 「森の悪魔」を瞬殺し、息も乱さず会話に戻る少年…。


 現状を理解できない、現場の空気は、ブラッドグリスの死体よりも冷たく静まり返っていた…。

女神」と「騎士」の実力を見せつけられたライカ一行。

絶句する一同を前に、坂本の無自覚な異世界無双は加速すかも。


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