第19話 接触
異世界での生活の中で、真鍋咲希の「感覚」は進化を遂げていた。
かつては耳障りな雑音でしかなかった”ノイズ”は、今ではその最適化が進み、低解像度の情報の塊であれば、その規則性から正体を判別できるようになっていた。
しかし、さらにその奥、物質や魔力の根源的な動きを理解しようと解像度を深めれば、そこはまだ「複雑でややっこしい」深淵のままだ。
完全理解への道は、まだ始まったばかりと言えた。
真鍋は川下の森の奥から来る、異質な反応を捉えていた。
「坂本君、川下から来るわ。でも、変なの。一つの反応の中から、複数の反応も感じるの…。あの骸骨の剣みたいに、遺物が動いてる感じなのかな?」
「遺物の反応? それと、動きに統率感があるのだよね。…人か、あるいは魔族の部隊か。ノイズの規模はどうだい?」
「うーん……一つは『ごちゃごちゃ』しててよく分からないけど、残りは、大きさ的には『ビィるる』って感じで、ちょっと面倒な魔物とそんなに変わらないかな」
「……」
坂本昇は、真鍋独特の擬音による報告を瞬時に脳内で精査した。
「……わかった。とりあえず、生活拠点を知られる前に、少し離れた有利な場所で待ち伏せしよう」
坂本は思考を切り替える。
「AIアシスタント、現状の最適解を」
『坂本様、お二人の現状を確認。周辺マッピングデータのトレース完了。迎撃および交渉に最適なポイントを脳内に反映させます』
「うっ…」
視界の隅に光る地図が重なる。
(脳へ直接干渉される感覚には、まだ慣れないな)
「真鍋さん、行こう。ノイズの継続確認をお願い」
「わかった。あっちの方から、川を登ってきてるよ」
—--
その頃、川下の沢を登る三つの影があった。
ライカ、エリス、サラの偵察隊である。
「父上閣下! 昨晩の野営以降、めっきり魔物に遭遇しなくなりましたわ。そろそろ『女神様』のテリトリーへ入ったと見て良いのではなくて?」
「……」
エリスの教育はまだ終わっていない。
「そうだな。…サラ、何か感じるか?」
「まだ何とも…。ですが、森の入り口付近の印象に比べ、今のこの静寂は異常です。エリス様の考えは間違いないかと」
「警戒しろ。魔力的な異変が起これば、この腕輪が反応するはずだが 」
ライカが手首の魔導具を見やった、その時だった。
「閣下!?あそこに!」
サラが視線だけで合図する。
沢が大きく折れ曲がる先の巨岩の上に、一人の青年が立っていた。
「xxx……xxxxxx……」
ライカは、青年の反応を見る。
「貴方が女神の騎士か? 我々はこの森の異変の調査に参った、アルサーク王国の騎士である」
「!?xx……x」「xx…xxx?」
『xxxxxx……』
真鍋がも岩陰から、状況を盗み見ている。
「女神の騎士様。女神様とお会いしたいの。お取次ぎをお願いできないかしら?」
「エリス! 無礼を失礼した。我々に敵意は無い。」
お互いに言葉は通じない。
しかし、その場の空気感から、致命的な敵意がないことだけは理解できた。
だが、双方が剣の柄に手をかけたまま、緊張の糸は張り詰めている。
『xxxx.x.x..』
その時、坂本が突如として頭を抱え、膝を折った。
「xxx…」
「女神の騎士さま!?」
ライカは反射的に身構え、自身の腕輪を確認する。
(魔力的な変化はない。我々には攻撃を受けてはいない)
サラが即座にエリスの前に出、大剣を抜く寸前で静止する。
坂本の脳内では、AIアシスタントが無機質な警告を発していた。
『言語野への書き込み完了。現言語系と強制同期を完了。基本言語体系の抽出率56%、反映率 72%、坂本様、そのままお話しくを続けて下さい。都度、文脈補正·更新を継続致します』
耳の奥で激しい耳鳴りが止み、脳をかき回されるような不快感が収まっていく。
数秒後、坂本はゆっくりと立ち上がり、ライカの目を真っ直ぐに見据えた。
「……失礼しました。少し、頭痛がしただけです。こちらの言葉がわかりますか?」
その口から発せられたのは、紛れもないライカたちの母国語であった。
ライカはわずかに眉を動かす。先ほどまでの「異質な音」が、一瞬にして流暢な言葉へと変わったことに、言葉以上の「底知れぬ力」を感じ取ったのだ。
「改めてお伺いします。あなた達は、この森で何を求めていますか?」
坂本の問いに、ライカは剣の柄から手を離した。この青年は、単なる番人ではない。
自分たちと「対等」に渡り合うための手段を、今この瞬間に構築してみせたのだ。
「交渉の余地はあるようだな。……女神の騎士殿」
(女神の騎士!?)
自分へ向けられているだろうその言葉に、想像の斜め上の状況が進行しているのを実感する坂本だった。
インストールされた言語で、対峙する両者。
坂本は、自分たちの事、エリスの純粋な好奇心が、
起こした現状の説明するのかな。
坂本Sideの会話状況
坂本 「そこの人達、止まって下さい」
ライカ「xxxx...xxx.x」
坂本 「えっ!言葉通じない!?」
「AIアシスタントあの言葉翻訳出来る?」
AIアシ 「坂本様、かしこまりました。」
「このままお話を続けて下さい」
真鍋 (言葉が通じないんだ。どうしよう!?)
エリス 「xxxx...xxx..xxxxx」
ライカ 「xxx..xx.xx」
AIアシ 『最低獲得トークンを学習致しました。』
『これより反映致します』
坂本 「うっ…」
エリス 「xxxxxx..xx」
こんな感じに聞こえてました。




