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AIアシスタントと行こう!異世界テンプレ記  作者: tomo
☆第1章 異世界サバイバル
17/27

閑話 マーサと真鍋(地球編)

 お風呂上がりの部屋は、まだ少しだけ湯気の名残があった。

 ドライヤーの温風を止め、ベッドに腰を下ろす。

(……今日の学校)

 何でもない一日のはずなのに、頭の奥に引っかかるものがある。

 思い出そうとすると、指の隙間からこぼれる砂みたいに、形にならない。


午後の教室


 ふわっと、体が浮いたような感覚がして。

(あれ? 私……教室にいる?)

 気づいたら、窓際の席に座っていた。

 カーテンが風に揺れていて、その向こうに少年がいる。


(……誰だっけ)


 ぼーっと見つめて、ようやく思い出す。


(あ、坂本君だ)


 なのに、続きが出てこない。

 名前は分かるのに、何かが抜け落ちている感じ。

 胸の奥が、ぎくっと軋んだ。


「ねえ咲希、昨日のドラマ見た?」


 久美の声で、現実が戻ってくる。


「え、見た見た! あの展開ずるくない?」


「でしょ〜。私もさぁ、彼氏できたらああいうの憧れるんだよねぇ」


「えっ、久美、杉本君はどうしたの!?」


「は? 誰それ」


 教室が笑いに包まれる。


「咲希、久美はいつものだから放っとこ」


 五十鈴が苦笑いする。


「……うん」


 そう返した瞬間だった。

 胸の奥に、懐かしいような、切ないような、いい匂いがした。


(……なに、これ)


 理由もなく、息が浅くなる。

 振り向くと、坂本君が大きな教材を持ち上げていた。


「へぇ、坂本って意外と力あるんだ」


「腕、筋張ってるよね」


 久美たちの声が遠くに聞こえる。


(……大丈夫かな)


 そのとき、別の声が耳に入った。


「あっ……鍵、渡し忘れた」


 宮本君の小さな独り言。


「宮本君、ちょっといい?」


 気づいたら、私、笑顔で声をかけていた。


「え? あ、はい」


「鍵、私が持って行くよ」


 自分でも強引だと思う。

 でも止まらなかった。


「で、でも……」


「大丈夫だから。ね?」


 笑顔のまま、逃げ道を塞ぐ。

 宮本君が少しだけ背筋を伸ばして、鍵を渡してくる。


(……私、何やってるんだろ)


 準備室に向かう廊下で、さっきの“空気感”を思い出す。


(あれ、なんだったんだろ)


 準備室の前で、坂本君が立ち尽くしていた。


「あ、坂本君。教材、ありがとう」


(……ちがう。私、なんでこんな言い方)


 心臓が妙にうるさい。

 鍵を開ける手が、少し震える。


「そこ、置いといてもらっていい?」


 坂本君は黙って頷き、指示通りに動く。

 その距離が、やけに近く感じた。


(……あれ?)


 さっきまで胸を満たしていた“匂い”が、すっと消えている。


(消えた……?)


 準備室を出ていく坂本君の背中を、無意識に目で追っていた。


(何だったの、今の……)


 そして放課後。

 家に帰り、机に向かって予習。 ノートをめくった瞬間、指先にちくっとした痛み。


「……っ」

(なんで紙で指切るのよ)


 小さな赤い線。

 地味に、でも確かに痛い。

 気分転換にお風呂へ。

 湯船に浸かり、切った指をそっと撫でる。


(坂本君の、あの感じ……)


 思い出すと、また胸の奥がざわつく。

 名前も理由も分からないのに、確かに“触れた”感覚。


(正体、なんなんだろ)


 考えているうちに、指の痛みが薄れていく。

 ……というより、消えた。


「……え?」


 湯から手を上げて確認する。

 さっきまであった切り傷が、きれいにない。


「えっ……?」


 思わず声が漏れた。

 浴室に、自分の声が反響する。


(……なに、これ)


 理由は分からない。

 分からないけど、胸の奥に、微かに残るあの時の“匂い”だけが、まだ、私の中で静かに脈打っていた。


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