第12話 拠点整備
話し合いを終えた二人は、役割を分担して本格的な拠点整備に乗り出した。
午前中のメニューはこうだ。坂本は食料の確保と、生活に不可欠な衛生設備の造営。真鍋は火の管理と飲料水の確保、そして洞窟内の整理整頓。
午後は、2人で薪を拾って、その後は、それぞれのスキルを磨く。暗くなる前に食事を済ませ洞窟へ入る。これを等分のルーチンとする。
「よし、まずは腹を満たす算段だな」
坂本は小川へ向かい、脳内の相棒を呼び出した。
「AIアシスタント、効率のよい罠の作成方法を教えてくれ。今の腕力と道具でできる範囲でお願い。」
『坂本様、かしこまりました。釣るより「追い込む」「置いて待つ」方が消耗が少なく、生存率に寄与します。
今の浅瀬には”石堰”が最適です』
AIの解説は淀みなかった。
石を積み、下流側に開口部を持つV字型の壁を作る。奥を狭く、浅く作るのがコツだという。
歯を食いしばりながら石を積み上げた。
出来上がった石堰の上流から、適当な棒で水面を叩きながら歩く。すると、面白いように魚たちがV字の奥へと逃げ込み、行き止まりで跳ねた。
「……獲れた! 三匹もいる!」
『坂本様、おめでとうございます。簡単な魚のさばき方、保存方法をお教えしましょうか?』
「ああ、頼む」
『では次に、拠点づくりのコツを。さらに簡単でおいしい魚料理三点についてお教えしましょうか? それと、効率的な運搬方法、石の選別方法、……』
「わかった、わかったから! 順番に頼むよ!」
一度学習モードに入ったAIアシスタントは、坂本の「やる気」に呼応するように次々と情報を提示してくる。坂本は苦笑しながらも、知識が形になる万能感に浸っていた。
その頃、真鍋は川岸で作った石の炉の前にいた。
「昨日の坂本君の手順を思い出して……。よし」
彼女が手にしているのは、坂本が作った「弓きり式」の火起こし道具だ。棒を弓の弦に巻き付け、高速で回転させて摩擦熱を生む。
キリキリ、と乾いた音が洞窟に響く。
「うぅ……思ったより力がいる。でも、これが私の仕事だもん。」
額に汗がにじみ、腕の筋肉がぷるぷると震える。それでも彼女は諦めなかった。幾ばくかの挑戦で、ついに木の切り屑から細い煙が立ち上った。
「っ、火種ができた!」
慎重に、壊れ物を扱うように枯れ草の束へ移し、そっと息を吹きかける。赤黒い塊が、パッと明るい炎に変わった瞬間、彼女の顔に今日一番の笑顔が咲いた。薪へと火を移し、拠点の灯を守る「火守り」としての第一歩を刻んだ。
「続いて、水の煮沸と」
バックに入っていた小鍋で川の水をすくい、火にかけてゆく。
作業が進み安堵した真鍋は、そのまま洞窟内の整頓に取り掛かった。
共有区画に平らな石を並べてテーブル代わりにする。
奥の「骸骨の部屋」は坂本の個人区画とし、自分は入り口寄りの少し明るい場所を拠点とした。
しかし、彼女は火起こしと掃除に集中しすぎていた事で、
背後の茂みが不自然に揺れたことに、彼女は気づけなかった…。
一方、坂本は小川の下流、生活圏から十分に離れた場所にいた。
(衛生管理は基本中の基本だ。放置すれば病気になるし、臭いで魔物を寄せることになるからな)
彼はAIの指導のもと、地面に深い穴を二つ掘り、木の枝と大きな葉を組み合わせて目隠しを作っていた。即席の「トイレ」と「ゴミ処理場」だ。重労働だが、真鍋のプライバシーを守るためにも妥協はできない。
「よし、これでひと段落―」
泥を拭い、腰を伸ばしたその時だった。
「――きゃああああああっ!!」
森の静寂を切り裂き、洞窟の方から真鍋の悲鳴が届いた。
「真鍋さん!?」
坂本は心臓が跳ね上がるのを感じた。骸骨から貰った剣を掴み、泥にまみれた足で無我夢中に駆け出す。
(馬鹿か俺は! 一人は危険だとわかっていたはずなのに!)




