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【毎日投稿】全てを奪われた元王子、仮面の軍師となり、暗躍無双して復讐を誓う  作者: 三日月猫@剣聖メイド1〜4巻発売中!


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14歳ーリリエット警護任務編 第31話 首狩りのバルドラッシュ

 ―――森の中に入った俺たちは、目的地である神聖国家へと続く橋を目指すべく、進軍を続けていた。


 周囲を森林で囲まれたビレンヌの森の中は暗く、視界が不鮮明だ。


 なので俺たちは各自アビゲイルの魔法で火を灯した松明を手にし、その灯りを頼りに、森の中を進んでいく。


 隊列はサイラスが抜けたことで先程とは少し変わり、前衛のルキナ、モニカ、ガウェインの3人が先頭を歩き、中列にマリーゴールド、アビゲイル、ルーカス、ギルベルトに肩を貸したジェイク、最後列に殿を務める俺という形になっている。


 サイラスが囮になった光景を見たせいか、皆の空気は重い。


 誰も何も話すことはせず、黙々と目的地に向かって、歩き続けていた。


「……殿下。サイラスのことをお考えですか? 後悔……なされているのですか?」


 その時。ジェイクと共に前を歩くギルベルトが、俺にそう声を掛けてきた。


 俺はそんな彼に、コクリと頷く。


「当然だ。彼は俺の命を守るために……犠牲になってくれたのだからな。後悔がないはずがない」


「差し出がましいようですが、お父上……きっとガイゼリオン様も、ハンナも、サイラスも。殿下のために散るのならば、それは、本望だったのだと思います。勿論、私もです。この命、殿下が生きてくださるのならば、いつだって賭ける覚悟です」


「それは……王国の未来のために、か?」


「勿論、それもあります。このままガストンが騎士王として君臨し、ランベール王国を支配すれば、必ず多くの王国民が苦しむことでしょう。王国は、正当なランベール王家の血を引くグレイス殿下が継ぐべきだと、私は考えております。貴方様のために亡くなっていった人々は、皆、そう考えていたはずです」


「……」


「ですが、もうひとつ、私には理由があります。それは、ただ単純に殿下に生きていて欲しいからです。きっと、陛下もハンナもサイラスも、同じ気持ちだったのだと思います。私にとっても殿下は、実の孫みたいなものでしたから」


「懐かしいな。王宮の中庭で、お前にはよく剣の稽古を付けてもらった」


「はっはっはっ。そうですな。グレイス殿下とアルフォンスが二人で私に挑んできたことは、今でもよく覚えておりますぞ。聡明な殿下が私の隙を探し、涙目のアルフォンスが殿下の命令通りに剣を動かす。時々アリア様が稽古を見に来られ、私に兄への稽古が少し厳しすぎるのではないかと怒り、それをハンナが窘める。実に……平和で、暖かな日々でした」


「そうだったな。あの頃、アルフォンスはよく稽古から逃げて母上の墓がある丘に……いや、何でもない」


 俺は拳をギュッと握る。


 アルフォンスは俺の敵だ。今更、過去を懐かしむのはおかしい。

 

「殿下……」


 ギルベルトは肩越しに、悲しそうな目を向けてくる。


「殿下。貴方様は本来、とても優しく、穏やかな顔をした方だった。ですが今の殿下は、かつての優しい面影が無くなったように別人の様相をしている。私は先程殿下のお顔を拝見した時に、とても悲しくなりました。あの優しく穏やかな顔をした少年が、こんなにも、憎悪のこもった鋭い目付きをしなければなくなるほどの……過酷な人生を歩んでしまったのだと、察してしまったからです」


「……」


「きっと殿下は、私が想像もできないような、過酷な日々を送ってきたのでしょう。……親友だったアルフォンスを恨み、幼馴染であるリリエット様に殺意を向ける少年になるとは……当時の私は、思ってもみませんでした。これは、私がいち早くお助けにいけなかった結果です。本当に、申し訳ございませんでした」


「良い。何回謝るんだ、お前は。これは俺が歩んできた結果だ。お前のせいではない。ガストンが全てを奪い、アルフォンスとリリエットが俺を裏切り、父上とハンナ、サイラスが命を繋いでくれた……その出来事があるからこそ、今の俺がいる」


 そうだ。これはギルベルトのせいではない。俺はこうなるべきしてこうなった。


 誰かの責任などではない。復讐の道を選んだのは、俺自身だ。


「アルフォンスがガストンに与したことには、私は正直、混乱しております。リリエット様もそうです。何故、あんなにも仲の良かった幼馴染の2人が、殿下の敵として立ちはだかっているのか、不思議でなりません」


「予め言っておくぞ、ギルベルト。俺は……いずれアルフォンスを必ず殺す。奴は王国を奪うにおいて最も厄介な存在だ。奴は剣士として、尋常ではない力を持っている。俺やルキナでは歯が立たなかった。奴は我が野望のためにも踏破しなければならない、壁だ」


「マジかよ!? 烏の爪きっての実力者の、大将やルキナでも相手にならなかったのか!?」


 先頭を歩くガウェインが、驚いたようにそう声を発する。


 そんな彼に、モニカは横から腹に目掛け肘打ちした。


「こら、ガウェイン。大将ではなく、殿下でしょう」


「え? あ、そうだった。すまねぇな……じゃなかった。申し訳ございませんでした、殿下」


「別に今まで通りでも良い。敬語は不要だ」


「え? あ、そうか? それなら……」


「ガウェイン! 貴方はそれでも親衛隊騎士の嫡子なのですか! 殿下に失礼があったらどうするのです! サイラス殿に頼まれた通り、私たちは最後の正当な王国騎士なのですよ!」


「いてっ!? お、おい、モニカ! 肘打ちすんじゃねぇよ! 今まで弟分として見てた奴が王子だったとか……まだ色々と心の整理付いてねぇんだよ!」


「ふっ。そういえばお前は、俺にナンパの仕方とやらを教えていたな」


「ガウェイン~?」


「ちょ、殿下、余計なこと言うんじゃねぇよ!?」


 モニカに睨まれ、居心地悪そうな顔をするガウェイン。


 そんな賑やかな二人の横を歩いていたルキナは、真面目な表情で静かに口を開いた。


「安心しろ、レイス。アタシがいつか絶対にアルフォンスを倒してやる。あいつを倒すのは……お前の剣であるアタシがすべきことだ」


「ルキナも、敬語!」


「……アタシがすべきこと、です」


 モニカに突っ込まれ、ボリボリと後頭部を掻くルキナ。


 俺はそんなルキナに、微笑を浮かべ声を掛ける。


「別に、お前がやらなければならないということでもない。これから俺たちは各国に渡る。その時に、戦事に自信のある新たな烏の爪の団員を探せば良い。今の王国に恨みを抱いている者はいるだろうからな。仲間になってくれる者はきっといるはずだ」


「……そうじゃないんだよ……じゃなかった、そうじゃないんです。アタシは、殿下の右腕でいたいから……だから……」


 ふてくされた様子でそっぽを向くルキナ。


 そんな彼女に首を傾げていると、マリーゴールドとアビゲイルが、楽しそうに口を開く。


「新しい仲間かー。どんな人なんだろー。楽しみだね、アビー!」


「わ、私は……怖い人じゃなければ……良いです。あと男の人は苦手なので、できたら女の人の方が良いかも……」


 アビゲイルの言葉に、ガウェインは同調して、興奮した様子を見せる。


「あぁ、同意するぜ、アビー! 俺も新メンバーは、可愛い女の子とかが良いなーむふふふ」


「……ガウェイン。どうやら、貴方には騎士としての教育が足りないみたいですね」


「いでっ!? おい、足踏むんじゃねぇよ、モニカ!!」


 賑やかな様子を見せる烏の爪の団員たち。


 そんな彼らを見つめて微笑を浮かべていると……ギルベルトが俺の顔を見つめながら、口を開いた。


「今の殿下でも、そのようなお顔をなされるのですね。仲間たちを見つめるその表情だけは、昔の貴方様のようです」


「……顔が緩んでいたか? 戦場だというのに、すまない」


「いえ。……先ほど仰った、アルフォンスを殺すという御言葉、了解致しました。我が孫ながらガストンに与すなど、恥ずかしい限りです。裏切り者に、最早希望などありますまい。殿下の望むままになさってください」


「あぁ、そうさせてもらう」


「ただ……」


 一呼吸挟むと、ギルベルトは静かに息を吐き、空に浮かぶ月を見上げた。


「ただ、私個人の願いとしましては……皆が幸せな世界になってくれたらなと、そう想っております。かつてのように、カトレア様が眠られている丘で遊ぶ、グレイス殿下、アルフォンス、リリエット様の3人の姿を……もう一度見たい。申し訳ございません。これは単なる爺の我儘でございますな。気になさらないでください」


「……」


 俺はギルベルトと同じように、空を見上げた。


「それは……最早叶わぬ、見果てぬ世界だな……」


 もし、ガストンが、父上を殺さなかったら。


 まだ俺があの城で暮らしていたら……あり得たのだろうか。


 俺たち3人が一緒になって遊んでいる、そんな、未来が。







      ◇  ◇  ◇  ◇  ◇





 その後、森の中を歩き続けること、数十分。


 俺たちはついに森を抜け、神聖国家へと続く橋へと辿り着いた。


 目の前にあるのは、巨大な渓谷と川、そこに懸かる丸太で作られた頼りない橋。


 王国領土と神聖国家領土の間にある渓谷は、20メートル程の距離がある。


 下を覗き込んでみると、目算では計れないほどの、深い谷底が広がっていた。


「これ……落ちたら、多分、死ぬよね?」


 そう言って底を覗き込むマリーゴールド。


 彼女が蹴り上げた小石は、十秒程して、ポチャンと川に落ちて行った。


 その光景を見て、ひぃぃと顔を青ざめ抱き合うマリーゴールドとアビゲイル。


 そんな二人の姿から視線を外し、俺は、周囲にいる烏の爪の団員たちに向けて声を張り上げた。


「皆、これより橋を渡って、神聖国家へと進軍する! 頭の中に、最寄りの街のギーシャへの道のりは叩き込んでいるな!?」


 自信がある様子で頷くギルベルトとモニカと、不安そうな様子のその他大勢。


 まぁ、万が一迷ったとしても、ギルベルトかモニカついていれば、大丈夫か。


 俺はそんな皆の姿を見て頷くと、橋に向けて手を伸ばした。


「それでは、全員、橋を渡り神聖国家を目指せ! 神聖国家にさえ行けば、王国騎士団も追いかけては――」


「こんばんわ」


 振り返ると、そこには数人の騎士を引き連れ、紫色の鎧を着た、頬のこけた長髪の男が立っていた。


 彼は槍を振り、槍に突き刺さっていた何かを……俺の元へと飛ばして来る。


 反射的に手に取ったそれは―――サイラスの頭部だった。


「……サイ、ラス……」


 俺は震える手で彼の頭を抱き、硬直する。


 すると、そんな俺に目掛けて……紫色の鎧の男が突進してきた。


「フフフ。それが仮面の軍師レイスかと思ったのですが……まさか仮面を被った者が二人いるなんて思いもしませんでした。はぁ、面倒ですから、貴方も串刺しにしてさしあげます」


「え?」


 硬直する俺に向かって、突進して来る騎士。


 俺は反応できず、その槍によって、胸を串刺しに―――。


「ガウェインとやら! 剣を借りるぞ!」


 その時。剣を構えたギルベルトが、颯爽と俺の前に現れ、向かってきた槍を剣で弾き飛ばした。


 ギルベルトは俺の前に立つと剣を中段に構え、声を掛けてくる。


「お怪我は!?」


「だ、大丈夫だ。すまない、ギルベルト!」


 俺の言葉にホッと安堵のため息を吐くと、ギルベルトは、紫色の鎧を着た騎士に鋭い目を向ける。


「バルドラッシュ。貴様は相変わらず、下種な真似をする男のようだな」


「フフフフフフ。これはこれは、元騎士団長、【英雄】のギルベルト様じゃありませんかっ! お久しぶりでございます、我が師よ!」


「……私はかつてお前に、死体で遊ぶなと散々言ってきたはずなのだがな。お前は私から何も学んでいないようだ」


「敵の隙を奪って先制攻撃を仕掛けろと教えたのは貴方でしょう? 私は基本的に、仕事は嫌いなんでねぇ。さっさと帰って家で休みたいのですよ」


「だから、敵の仲間の首を相手に投げつけ、その隙に心臓を貫くという……下種な手法を取るのか? 先の南の関所での戦場で、部下の首をねじ切り、私にも同じ手を使ってきたな、貴様は」


 そう言ってギルベルトは、自分の左胸に手を当てる。


 そんな彼に、バルドラッシュと呼ばれた男は、呆れたようにため息を吐いた。


「私はこれでも、敵となった貴方を尊敬しているのですよ。貴方の剣は王国最強に相応しいものだった。……ですが、貴方の言う情け、他人への愛情というものが、私には理解できなかった。だから20年前、私は弟子として、貴方とは袂を別った」


「お前のような領地で大虐殺を行った殺人鬼を騎士団長に据えるガストンも、どうかしている。頭部を集める、イカレたサディストめが」


「私はこれでも元貴族ですからねぇ。やはり、ガストン様も血は重んじるようで」


 ニヤリと、不気味な笑みを浮かべるバルドラッシュ。


 そんな彼の姿を見て、頬に汗を垂らすと、ギルベルトは大きな声で叫んだ。


「烏の爪よ! ここは私に任せて、神聖国家へと向かえ!」


「で、ですが、ギルベルト様!」


「死した者たちの想いを無にするな! 必ずレイスを神聖国家へ――」


 俺はギルベルトの言葉を遮り、彼の隣に立ち、剣を構えた。


 そんな俺を見て、ギルベルトは驚いた表情を浮かべる。


「な、何を!? 何をなさっているのですか!?」


「烏の爪の団員たちよ! 私とギルベルトは後から合流する! 先に神聖国家へと向かえ!」


 俺の命令に、モニカが困惑の声を上げる。


「で、ですが、レイス殿……!」


「リーダーである私の命令だ! 私を信じろ! 隊のサブリーダーは、モニカ、お前に任せる! 無事に皆を誘導し、目的地へと辿り着け!」


「で、できません……っ!! 貴方が戦うというのなら、私たちも一緒に……!!」


 モニカの肩をポンと叩いたガウェインが、こちらにいつも見せるものとは異なる、真面目な顔付きを見せる。


「大将。残るということは、勝算があるんだよな? 必ず、生きて戻って来るんだよな? あんたを信用しても良いのか?」


「私には必ず叶えねばならぬ野望がある。ここで死ぬのは計算に入ってはいない」


「そうか。じゃあ、俺たちは約束の場所で待っている。ずっとだ。お前が死んだら、俺たちは何のためにここまで来たのか分からない。だから……絶対に死ぬんじゃないぞ、大将」


 そう口にして、ガウェインはモニカを肩に担ぐと、橋を渡って行った。


「ガウェイン!? 何をしているのですか!? 彼を助けないと……!!」


「大将を信じろ、モニカ。男にはやらなきゃならねぇ時があるんだ」


 そう言って、モニカとガウェインは去って行く。


「レイスくん……」「レイス……」「レイスさん……」


 マリーゴールドとジェイク、アビゲイルが、不安そうな顔を見せる。


「行け!! 烏の爪よ!! これは命令だ!!!!」


 俺の咆哮に、ルーカスは「ったく、しゃあねぇな。先行っているぞ」と告げ、マリーゴールド、ジェイク、アビゲイルの3人を連れて、橋を渡って行った。


 だが、ルキナはじっと、橋の前に立ったままだった。


「ル、ルキナ! 早く! レイスくんの命令を聞いて!」


「……必ず……また、アタシたちの前に戻って来るよな……?」


 ルキナのその言葉に、俺は肩越しにコクリと頷きを返す。


「勿論だ。私はギルベルトと共に、戻って来る」


 俺と無言で目を合わせた後。


 ルキナはモニカたちに合流して、その場を去って行くのであった。


「いったい何を……何をなさっているのですか!!」


 隣に立ったギルベルトが、動揺した様子でそう口を開いた。


 俺はそんな彼に、静かに口を開く。


「すまないが……ギルベルト。私も共に戦わせてもらうぞ」


「サイラスの死を無駄にするおつもりですか!」


「サイラスを亡くして、ここでお前も失う? そんなことになったら、私は……私は、必ず後悔をする。言ったはずだ、ギルベルト。私はもう誰も失いたくはない、と。サイラスが馬車に乗るのを止められたなら……私は今のように身を挺して、止めていたさ。私の行動原理は何も変わってはいない。何も失わせない」


「でん……レイス殿……」


 辛そうな様子で俺を見つめてくるギルベルト。


 そんな俺たち二人に、バルドラッシュはパチパチと拍手を鳴らしてきた。


「守るために戦う、と、そういうことですか。素晴らしい。その勇気に免じて、この四聖騎士団長の一人、【ケルベロス】の旗を掲げる、首狩りのバルドラッシュが相手になって差し上げましょう。皆さん、手は出さないように。彼らは私の獲物です」


 その言葉に、バルドラッシュの背後に控えていた騎士たちは敬礼をする。


 そしてバルドラッシュは槍をヒュンと一回転させると、両手を広げ、満月を背景に口を開いた。


「さぁ、我が師と反逆者、仮面の軍師レイスよ。貴方たちがどんな断末魔を上げるのか……私にお聞かせください。フフフフ」


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