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14歳ーリリエット警護任務編 第29話 迫りくるスケルトン、闇夜の中の逃走劇


 馬車の背後から迫って来るのは、スケルトンホースに跨った、剣と盾を持つスケルトンの軍勢。


 数は、目算、30~50体程度。


 基本的にフラフラと彷徨うことしかできない、知能の低いアンデッドが軍勢を成し、隊列を組んで俺たち目掛け駆けて来る。


 はっきりいって、異様な光景だ。


 何かに命じられて俺たちを追いかけている。そう判断せざるを得ない。


「レ、レイスくん! 火矢の準備ができたよ!」


 マッチで矢の先端に火を点けたマリーゴールドが、俺に声を掛けてくる。


 俺はコクリと頷き、マリーゴールドに命令を出した。


「では、手前にいるスケルトンホースに目掛けて、矢を放て! スケルトン自体は速度は大したことがない! 馬上から落ちれば、奴らに馬車を追う機動力はないはずだ!」


「で、でも、残りの矢、12本しかないよ!? これじゃあ、あの数十体以上いるスケルトン全部を仕留めきることは……!」


「全てを仕留める必要はない。手前のスケルトンを馬上から落とせば、後は後列の奴らが馬上から落ちたスケルトンに躓き転倒し、ドミノ倒しになって列が崩壊するはずだろう。そうなれば、大半を始末することができる。だから、狙うのは手前の奴だけで良い。弱点である炎も、有効に働くはずだ」


「な、なるほど。分かった、やってみるよ!」


 マリーゴールドは弓矢を構え、ゴクリと唾を飲み込むと……荷台の上から、数十メートル先にいるスケルトンへと矢を放った。


 しかし矢はあらぬ方向へと飛び、狙ったスケルトンの横を通過し、地面へと突き刺さった。


 その光景を見て、マリーゴールドは顔を青ざめる。


「ミ、ミスしちゃった……! 矢はあと11本しかないのにぃ……っ!」


「……」


 俺はマリーゴールドの隣に座り、彼女の肩にポンと手を当てた。


「動揺することはない。まずは深呼吸をしろ」


「で、でも……! あのスケルトンたち、ものすごい勢いでこっちに来ているよ!? このままじゃ、追いつかれ――」


「大丈夫だ。まずは目を閉じて、落ち着いて深呼吸をするんだ」


 俺の言葉に、マリーゴールドは頷くと、目を閉じ、胸に手を当てて深呼吸をする。


「気負う必要は何もない。今度は俺もサポートする。だから、大丈夫だ」


「うん……!」


 目を開けると、マリーゴールドは再び弓を構えた。


 俺はそんな彼女に、冷静に声を掛ける。


「目標は先程お前が狙ったのと同じ、最前列、右手前にいるスケルトンだ。右斜めに照準を合わせろ。顎を引け。呼吸を整えろ」


「……」


「まだだ。照準が身体の震えで、先ほどから左にずれている。照準を常に目標に合わせつつ、落ち着いて目標だけに視線を向けていろ」


「……」


「そうだ。ぶれが大分少なくなってきた。その調子だ。そのままスケルトンホースに狙いを定めて――――――今だ、放て!」


 俺の声と同時に、矢を射出するマリーゴールド。


 その矢はまっすぐと飛んで行き、狙っていた手前のスケルトンホースの頭へと、突き刺さった。


 するとスケルトンホースは甲高い不気味な嘶きを上げながら、一瞬にして炎に包まれていく。


 その後、馬上から振り落とされたスケルトンは、地面へと落下し―――そのまま背後から迫ってきた仲間によって粉々に踏みつぶされた。


地面に落ちたスケルトンの残骸により、後列のスケルトンホースは足を躓き、何体か馬上から落下して行った。


だが……馬上から落下したのは3体程度。


すぐに落下したスケルトンを避けるような隊列となり、スケルトンたちはそのまま馬車に向かって駆け抜けて来る。


(やはり、知能の低いアンデッドとは思えない動きだ。何者かに予めどういう行動をするか最初から指示されている……あの動きには、そのような意図を感じざるを得ない)


「ど、どうしよう、レイスくん! 当たっても全然隊列を乱していないよ、あいつら!」


「マリーゴールドはそのまま火矢を撃ち続けて、時間稼ぎをしろ! 俺は何か使えるものがないか、馬車の中を確認してみる!」


「わ、分かった!」


 マリーゴールドから離れて、俺は一旦屋根が付いている馬車の乗車席へと戻る。


 すると、怯えた様子のアビゲイルが、俺に声を掛けてきた。


「あ、あの、レイスさん。アンデッドは火が苦手なんですよね? だったら、私の火炎属性魔法……何かのお役に立ちませんか?」


「いや……君の魔法は……」


 アビゲイルの魔法は、手の平に小さな火球を発現する程度の低級魔法だ。


 いくらアンデッドが火が苦手だといっても、彼女の魔法では役に立つことはない。


「アビゲイル。その火炎属性魔法、何度使用することができる?」


「えっと……3回、くらいです……」


「だったら、魔力は温存しておけ。いざという時には君の力を借りる」


「は、はい!」


 キラキラとした目でこちらを見るアビゲイルから視線を外した後。


 俺は、改めて馬車の中に使えるものがないか探ってみる。


 この馬車はどうやら、騎士団の物資の運搬用に使われていたもののようだ。


 いくつかの樽と木箱があるが、中身は空。


 だが……相手の足止めに使用するなら、これらでも問題はない、か。


「ジェイク、ルーカス! 乗車席に載っている物資を全て荷台に移動させろ!」


「わ、分かった!」「あぁ、了解だぜ」


 二人は俺の命令に異を挟まず、そのまま樽や木箱をかついで荷台に持っていった。


 その光景を見て、ギルベルトが咳き込みながら俺に声を掛けてくる。


「ゲホッ、ゴホッ……殿下。いったい何をなさるおつもりで?」


「スケルトンどもに一撃を与えてやる。ただ……一時の足止め程度にしかならないと思うがな」


「殿下。いざとなったら私の命をお使いください。この命、囮にでも何でもご活用を」


「よせ。俺はもう、自分の命を守るために誰かを失うのは懲り懲りなんだ。もう……誰も失うつもりはない」


「レイス、準備できたぜ」


「あぁ、今行く」


 ルーカスの呼び声に、俺は荷台へと進み、並べられ積まれた樽と木箱、合計10個ほどに視線を向ける。


 その時。マリーゴールドが、俺に声を掛けてきた。


「レイスくん! もう矢があと2本しかないよ! これじゃあ全然スケルトンを止めることができない!」


「いや、十分に時間稼ぎをしてくれた。マリーゴールド、マッチ箱を貸してもらえるか?」


「え? あ、うん、分かった」


 マリーゴールドからマッチを受け取り、火を点ける。


 矢であれば火を簡単に灯すことができるが、こんな小さな火力では、すぐに木箱と樽に火が燃え移ることはない、か。


「や、やばいよ、レイスくん! もう、スケルトンたちが迫ってきている!」


 マリーゴールドの声に顔を上げると、そこには、馬車から5メートル程の距離まで迫ってきているスケルトンたちの姿があった。


 彼らは「カカカカ」と歓喜の声を上げ、剣を振り回しながら、迫って来る。


「ちっ!」


 舌打ちを放ったルーカスは、懐からナイフを取り出すと、スケルトンへ向けて投擲した。


 投げナイフはスケルトンの頭蓋に突き刺さるが、彼らの動きを止めることはできない。


「くそ、全然効いちゃいねぇ。おい、どうするんだ、レイス! このままじゃ……!」


「ルキナ! 馬車の中にあるランプをこちらによこせ!」


「は、はぁ!? そんなことしたら、真っ暗になって、周囲の様子が分からなくなるぞ!?」


「良いから、早くよこせ!」


 俺のその言葉に、ルキナはあわてて馬車の乗車台に吊るされてあったランプを手に取り、俺に渡してくる。


 俺はそれを受け取ると、蓋を開け、中に入っていたオイルランプを全て、積まれた樽と木箱へとかけていった。


 そして、すぐに、傍に立っていたアビゲイルに声を掛ける。


「アビゲイル! 魔法で火球を発動させろ!」


「は、はい! ―――火の精よ、我に力を……【ファイアーボール】!」


 アビゲイルが詠唱を唱え終わると、彼女の手のひらの上に火球が現れ、周囲を明るく照らした。


 それを確認した後。俺はランプオイルをぶちまけた木箱と樽を、スケルトンたちに目掛け蹴り上げた。


 そして即座に手に持っていたマッチに点いた火を、それらの木箱と樽に向け、放り投げる。


「これで、終わりだ」


 その瞬間。樽と木箱に火が点火し、轟々と、巨大な火柱を巻き起こした。


 突如目の前に現れた火の柱に、スケルトンたちは減速することも叶わず、そのまま燃え盛る火に飲まれていった。


「カカカ……カカカカカカカ!」


 耳障りな声を上げながら、スケルトンの軍勢たちは火の柱に飲まれ、段々と小さくなっていく。


 ……何とか無事に、奴らの追従から逃れることができた。


 だが、今の攻撃だけで、数を減らせたとは到底思えない。


 必ず体制を整え、もう一度追ってくることだろう。


「大将! 神聖国家へと続く森が見えてきたぞ!」


 御者台に座るガウェインが、そう俺たちに報告をしてくる。


 相手がハデスなのだとしたら、第一の目的は、間違いなくリリエットだろう。

 

 俺たちの始末が第二の目的なのだとしたら、森の手前でリリエットを放置しておけば、追従の手は少し緩和されるだろうか。


(いや……ハデスはそんなに甘い男ではない。油断は禁物だ)


 アグランテ家……そもそもガストン程度が、父上を殺し、王位を簒奪できるわけがない。


 その背景に立ち、ガストンに権力を握らせたのは、間違いなくハデスの手腕だろう。


 いったいハデスは、何が目的でガストンに王位を継がせようとしているのだろう?


 父上は奴に対して、何か、正体に勘付いているような節を見せていたが……今のところ俺には、ハデスが何のためにガストンと組んでいるのかが分からない。


 正直、ハデスが一番、得体の知れない相手といえる。


「……リリエットから情報を探るか? いや、あの女の言葉は信じるには値しない、か。モニカは俺が勘違いをしていると言っていたが、そんなことはあり得ない。俺はこの目で見たのだ。奴が俺を裏切った瞬間を」


 俺の仲間は、亡くなったハンナと、烏の爪の団員たちと、ギルベルトとサイラスだけ。


 裏切者の言葉など、信用するに値しない。






      ◇  ◇  ◇  ◇  ◇






「……? 王宮が騒がしいようですが……何かあったのですか?」


 王宮の廊下。


 王女アリアは窓から下を見下ろし、そこで慌ただしく編成を行っている騎士団に首を傾げる。


 そんな彼女に、隣に立っていたメイドの少女は静かに声を掛けた。


「今日行われた処刑で、囚人が逃げ出すという騒動が起きたそうです」


「あら、そうなんですの? 囚人というのは、いったい誰のことですの?」


「元騎士団長ギルベルトと、元ガイゼリオン親衛隊騎士の嫡子たちが所属していた傭兵団……確か、烏の爪、とか言っていましたね」


「え? ギルベルト様が……!?」


 アリアは顔を青ざめさせると、メイドの傍へと近寄り、彼女の肩を掴んだ。


「何故、アリアに教えてくださらなかったのですか! わたくしは、ギルベルト様の処刑なんて認めませんわ! 彼は悪い人ではありませんもの!」


「……申し訳ございません。アルフォンス様に、処刑が終わるまではこのことを話さぬようにと仰せつかっておりましたゆえ」


「アルフォンスさんが……!? 何故、わたくしに口止めを!?」


「恐らく、アリア様に心配を掛けないようにするためかと。私もそのご意見には賛同致しました。アリア様はここの所、お兄様……いえ、グレイス元王子の死亡を聞いてから、落ち込んでおられましたから。きっと、アルフォンス様はさらなる苦悩を貴方様に与えたくなかったのでしょう」


「何故、いつもわたくしだけが蚊帳の外なんですの!! アルフォンスさんもリリエットさんも、勝手なことばかりして……! ……まぁ、良いですわ。囚人が逃げたということは、ギルベルト様は無事なんですわよね?」 


「はい。ギルベルト様は、烏の爪という傭兵団と共に、王都の外へと逃げたという話です。今、アルフォンス様が指揮を取られて、親衛隊を率いて彼らを追っているそうです。王宮内の警備の騎士たちが騒がしいのは、そのせいかと」


「烏の爪……? 聞いたこともない人たちですわね?」


「アンバーランドで活躍していた傭兵団だとか。メンバーは全員孤児だけで編成されているという話です。……彼らはあろうことか、ガストン様に宣戦布告をなさったそうですよ」


「え……? その話は本当なんですの? アンナ?」


 アリアのその言葉に、アンナと呼ばれたメイドは、コクリと頷きを返した。





      ◇  ◇  ◇  ◇  ◇





「くふふふふふふ。 仮面の軍師レイスは、スケルトンの軍勢を退けた、か」


 丘の上に立ったハデスは不気味な笑い声を上げ、杖をカンと鳴らす。


「夜の支配者たる私からよく逃げられたものだ。しかし、レイスという少年には少し、興味がある。相対したことは一度もない者のはずだが……話を聞く限り、私と似た臭いを感じる。不思議なものだ。くふふふふふふ」






      ◇  ◇  ◇  ◇  ◇






「……着いたか。一同、馬車から降りて、周辺警戒をせよ!」


「「「「はい!!」」」」


 俺のその言葉に、烏の爪の団員たちは馬車から飛び降り、周囲に目を配らせる。


 俺も続いて馬車から降りると、目の前に広がる深い森を睨み付けた。


「ここが……神聖国家へと続く、最後の関門……【ビレンヌの森】か」


 眼前に広がるのは、深い闇が広がる、樹海。


 俺たちは今からここを突破し、神聖国家へと向かわなければならない。


 あともう少しだ。もう少しで……敵の手から振り切ることができる……!


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