14歳ーリリエット警護任務編 第24話 決別の刻
「さて、取引といこうか、ガストン。俺の要求はひとつ。馬車を用意し、俺とルキナ、ギルベルト、そして『烏の爪』の団員を王都の外まで逃走することを見逃すこと。その取引が上手く済めば、リリエットは開放してやる。どうだ? 悪くない取引だろう?」
「レイスゥゥゥゥッッッ……!!」
ガストンは眉間に皺を寄せ、俺を鋭く睨み付ける。
俺は処刑台の上で、ガストンに剣を向けたまま、思考する。
これは……はっきり言って賭けだ。
王宮勤めの騎士であるサイラスを利用してリリエットを攫ったまでは良い。
問題はここから。
現状、最も警戒すべきアルフォンスはルキナが相手をしている。
だが、ルキナの実力ではアルフォンスを止められないことは必至。
時間が稼げても、良くて数分程度だろう。
リリエットとガストンを人質に取った以上、騎士たちは無暗に動けない。
あとは、ガストンがリリエットの命と反逆者の命、どちらを取るか。
それに懸かっている。
俺は「ククク」と笑い声を溢した後、ガストンに声を掛ける。
「さて、どうする? 婚約者であるリリエットの命を取るか。それとも、ここで我ら『烏の爪』を処刑するか。貴様に選ばせてやろう、ガストン。もっとも、後者を選べば私も容赦はしない。貴様を殺し、リリエットも殺し、共に地獄へと落ちてやろう」
「貴様ぁぁぁぁぁ!!」
「おっと、考えている余裕はないぞ?」
俺は指をパチンと鳴らす。
すると、背後にいる建物の屋上にいる、レイスに扮したサイラスが、リリエットの首元に剣をあてがった。
その光景を見て、息を飲むガストン。
良いぞ。予想通り、ガストンはリリエットを余程大事にしていると見える。
本来であれば、ガストンもリリエットもアルフォンスも、ここで殺してやりたいところだが……仲間の命には……代えられない。
俺はもう、ハンナの時のように、奪われたくはない。
それに、俺の目的はガストンを殺すことではない。
この国を再び我が手に取り戻し、俺を裏切った者どもに地獄を見せてやることだ。
殺す程度では、復讐とはいえない。
今はまだ、その時じゃない――――。
「……分かった。貴様の要求を飲もう、仮面の軍師レイス」
眉間に皺を寄せ、苦悶の表情を浮かべながらそう口にするガストン。
俺はニヤリと笑みを浮かべ、開口する。
「良き選択だ。では、先ほど言った通り、馬車を用意し、俺とルキナ、ギルベルト、そして『烏の爪』の団員を王都の外まで逃走することを見逃せ。リリエットは無事に逃げることができたら、王都の街道にて開放してやろう」
「嘘ではあるまいな?」
「勿論だ。私は貴様とは違って、嘘は吐かない」
「その口ぶり……貴様は、余のことを知っている者か?」
「さて、ね。私は貴様のことを誰よりも知っているが、果たして貴様はどうかな」
そう言葉を返すと、ガストンはフンと鼻を鳴らす。
そして奴は、騎士たちに向かって、声を張り上げた。
「騎士たちよ! 馬車を用意しろ! 今すぐだ!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その後、俺はナイフを手に、烏の爪の団員たちの拘束が解いていった。
拘束が解かれた烏の爪の団員たちは、それぞれ違った反応を見せる。
マリーゴールドとジェイクは、俺に飛びついて来た。
「レイスくん~!! 私は、助けに来てくれるって、信じてたよ~!!」
「オイラも!! 流石はオイラたちのリーダーだぁ~!!」
泣きじゃくるマリーゴールドとジェイク。
俺はそんな二人に、穏やかな笑みを浮かべる。
「助けに来るのが遅れて、すまなかったな」
「ううん~!! ぐすっ、そんなことはもう良いんだよぉ~!!」
マリーゴールドの様子を見てガウェインは呆れたため息を吐き、こちらに近付いて来る。
「ったく。マリーゴールドは途中で捕まったのは全部レイスのせいだって病んでた癖によぉ。現金な奴だぜ」
「う、うるさい、ガウェイン!! 反省してるんだからそのことはいちいち掘り返さないでよっ!!」
ガウェインは頬を膨らませるマリーゴールドに肩を竦めると、俺の前に立ち、肩をポンと叩いて来る。
「よう、大将。前々から頭が回る奴だとは思ってたが、今回ばかりは驚いたぜ。まさか、ここまでのことをしでかすとは思いもしなかった」
「ガウェイン。身体は何ともないか?」
「おうよ! ピンピンしてるぜ? まぁ、長いこと女の子をナンパできなかったから、ちょいと落ち込んではいたがな!」
そう口にして、ウィンクをするガウェイン。
そんな彼の横に立ち、脳天にチョップを叩き込むモニカ。
「だったら貴方は一生檻の中に居た方が良いかもしれませんね、ガウェイン」
「ぐふぉあっ!?」
頭を押さえるガウェイン。そんな彼を一瞥した後、モニカは俺に微笑を向けてきた。
「お久しぶりです、レイス殿」
「あぁ、久しぶりだな、モニカ」
「助けに来ていただいて、恐縮です。ですが……恐らくここから先が1番大変でしょうね。馬車で逃げたとしても、ガストンは追っ手を送って来ると思いますから」
そう言って、モニカは遠くでこちらを悔しそうに見つめるガストンに視線を向ける。
そんな彼女に、遅れてやってきたルーカスが、声を掛けた。
「まっ、なるようになるだろ。レイスがここまでやってくれたんだ。だったら、俺たちも全力で逃げなきゃならねぇ。今度はレイスの駒である、俺たちが頑張る番だ」
最後にやってきたアビゲイルは、ルーカスのその言葉にこくりと頷く。
「……レイスさんがいれば……大丈夫です。レイスさんのやることに、間違いは……ありませんから……」
「アビー、何だか、レイスくんのこと神様みたいに思ってない?」
「そう、でしょうか、マリーさん? でも実際、レイスさんのおかげで私たちは助かったわけですし……」
「まぁ、そうだけど。私もレイスくんの言うことには従うよ! 弓なら任せて!」
烏の爪の団員たち六人は俺の前に立ち、笑みを浮かべる。
そんな中、モニカが背後を振り返り、俺に声を掛けてきた。
「レイス殿。あの方も……助けていただいてよろしいでしょうか?」
そこにいたのは、両腕を拘束されて地面に正座をしている老騎士……ギルベルトの姿。
俺はモニカに頷き、ギルベルトの前に立つと、声を掛けた。
「随分と……やつれたな。見たところ筋肉も落ちたようだ。私が知っているお前ではないようだぞ、ギルベルト」
「……? いったい何を言っているのだ、貴様……?」
「モニカ、ナイフを貸す。彼の拘束を解いてやってくれ」
「……畏まりました」
モニカは一瞬、何故か俺をジッと見つめる。
そしてその後、彼女はナイフを受け取ると、ギルベルトの拘束を解いていった。
俺はモニカのその様子に、思わず首を傾げた。
(なんだ? 以前と彼女の態度が違うような気がするが……?)
何処か、こちらを気にするような素振りを見せたモニカ。
何か俺に思うことが……いや、今はそんなことを考えている場合ではないな。
現状において、まだやるべきことは残っている。
俺はモニカから視線を外すと、そのまま処刑台の端へと向かい、民衆の前に立つ。
そして、広場に集まった民衆たちへと向かって、声を張り上げた。
「我が名は『烏の爪』の団長、レイス! 我は王国の民である貴様らに問う! 貴様らはこのまま権力に従い、家畜の如く生を受ける生活を良しと思っているのか!」
俺のその言葉に、ザワザワと、騒ぎ始める民衆たち。
ガストンは俺の元へと近付くと、声を荒げた。
「貴様! 何を言う気だ!」
「ルーカス、押さえていろ」
「了解、軍師殿」
「!? 貴様、何をする!?」
ルーカスに羽交い絞めにされるガストン。
俺はそんな彼を無視して、続けて口を開いた。
「良いか! この大陸にある三つ大国は、いつ戦争が起きるか分からない緊迫状態にある! だが、あろうことか王国はその火蓋を切って、大陸全土を支配しようとしている! これから多くの血が流れることであろう! 男どもは兵として駆り出され、村は焼かれ、親の無い孤児が増え、人々は殺し合う! 権力者どもは屍の上でワインを飲み、弱者たちは涙を呑む! この先に待つのは、弱者にとって、地獄だ!」
大きく息を吸い、再度、開口する。
「誰かがこの悲しみの連鎖を止めなければならない! 私は弱者の味方として、この国を……いや、世界を変えようと考えている! ガストンに従えぬ者は、我が烏の旗の元へ集え!! 私がもう一度この国へ戻ってきたその時、私は軍を率い、武力によってこの王国を奪取する!! 私は……この国の……新たな夜明けの王となる!!」
俺のその発言に、言葉を失い、唖然と立ち尽くす民衆たち。
そんな静寂の中、アルフォンスが大きく声を張り上げた。
「ふざけるな!! それはただの宣戦布告だろう!! 結局お前も戦争を起こす気じゃないか!! そうだ……お前がこの国に戻って侵略戦争を仕掛けた時、お前の旗に集わなかった民衆たちは、どうなるというんだ!! 答えろ、レイス!!」
「無論、私に従わぬ者は斬って捨てる。これは戦争だ。王国への宣戦布告だ。犠牲のない革命などありはしない。だが、私は誓おう。我が旗の元に集いし者には、安寧を約束すると。私は今の王国を滅ぼし、平和をもたらす王となる」
「戦争で平和など作れはしない!! 僕はお前を絶対に認めない!! お前に正義はない!!」
「だったら、ガストンの言いなりになり、子供を殺そうとしたお前に正義があるというのか、アルフォンス!! 貴様はただ甘いことを言っているだけの権力に負けた理想主義者だ!! 友を捨てたお前に正義など、ありはしないッ!!!!」
「友? グレイスくんのことを言っているのか? はは……あはははははははは!! お前が……お前のような世界を混乱させる存在が……彼のことを語るな!! 殺すぞ、レイス!!!!」
俺とアルフォンスは互いに睨み合う。
民衆たちはそんな俺たちのやり取りを見て、動揺していた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「……レイス……アルフォンス……」
リリエットはレイスに扮したサイラスに腕を押さえられたまま、建物の崖下で睨み合う二人を見つめる。
そして彼女は、背後に立つサイラスに、静かに声を掛けた。
「貴方……王宮騎士のサイラスさんでしょう? 何となく雰囲気で分かるわ」
リリエットの言葉に、ビクリと肩を震わせるサイラス。
そんな彼を一瞥すると、リリエットは再び広場を見下ろし、静かに口を開いた。
「ガイゼリオン派の騎士である貴方がこんなことに手を貸しているなんて……やっぱりあの方は、私の予想通り……彼、なんでしょうね」
「……」
「どうして……どうして、こうなっちゃったんだろう。何であの人は、あんなにも……アルフォンスのことを憎んでいるの? どうして、あの二人が……敵対しあっているの……?」
「リリエット、様……」
「こんなの、あんまりよ……」
リリエットの声は誰にも届くことはなく。虚空へと消えていった。




