【第94話:王の間】
【タイムリミット:残り30分】
「ガルドォォォォォォッ!!」
カイは閉ざされた隔壁を叩いた。
大人の肩幅以上はある、分厚い水晶の扉。
ノクスの出力でも、開けるのは難しい。
『警告。結晶化解除リミット 残り30分』
ノクスが告げる。
『カイ! 進め! ガルドの生体反応は……消えた』
ノクスの冷徹な報告。
カイは拳を握りしめ、血が滲むほど食いしばった。
まただ。
リーゼ王女も。ガルドも。
みな俺を守って死んでしまった。
「……くそっ、くそぉッ!!」
だが、ここで止まったら、ガルドの死が無駄になる。
そして、リリアとの約束も…。
「行くぞ、エルナ……!」
「……うん!」
二人は通路を駆け抜けた。
その先にある、本当の最深部。「神の間」の扉へ。
扉が軋みを立てて開かれたとき、そこに広がっていたのは、もはや世界と呼べる場所ではなかった。
天も地も失われ、宇宙そのものが沈黙のまま横たわる、原初の空間。
星屑を踏み固めたかのような漆黒の床の上を、ただ一本――
冷たい青光を放つ水晶の道が、運命の線のごとく伸びている。
その先には、――時を封じ、夜を凝固させたかのような、巨大な青の水晶。
そして、その氷晶の胎内に。
眠りか、あるいは永劫の静止か。
彼女は、そこに在った。
時が止まったままの、美しい姿。
長い髪、広げた両手、そして穏やかな微笑み。
あの日、俺を庇って固まった、そのままの姿で。
「リリアさん……」
カイの足がすくむ。
あまりにも美しく、そしてあまりにも「死」に近い姿。
「美しいだろう?」
水晶の裏から声がした。ザガンの「本体」。
先ほどガルドが戦ったのは、要塞の防衛システムの一部に過ぎなかったのだ。
本物のザガンは、リリアの水晶に寄り添うように立っていた。
その体は、ほぼ完全に水晶化し、人の形を留めていない。
「彼女は完璧だ。私の最高傑作だよ。
……カイ君、君にもわかるだろう? この永遠の美しさが。」
ザガンが手を広げる。
醜悪な狂気が、カイの肌を刺す。
カイは背中の「対結晶化ライフル(リベレーター)」を構えた。
「お断りだ。
俺が好きなのは、冷たい彫像じゃない」
カイはリリアの水晶を見上げた。
「俺をバカだと罵って、怒って、笑って……泥だらけになって一緒に飯を食う。
そんな『生きた』リリアさんが好きなんだよ!!」
「愚かな。生は苦痛だ。なぜそれがわからない?」
ザガンが指を振るう。
空間そのものが歪み、カイたちを圧殺しようとする。
「第七権限解放――『聖域展開』!!」
エルナがバリアを展開するが、ザガンの力の前では薄紙のようだ。
「くっ……重い……!!」
ミシミシと結界にヒビが入る。
『警告。結晶化解除リミット 残り15分』
ノクスが告げる。
『カイ、この重力解除は無理だ。演算が追いつかない!』
絶体絶命。
だが、カイの目は死んでいなかった。
「ザガン! お前、自分のことを『神』だと思ってるんだろ?」
「事実だ。私はこの要塞と融合し、世界を書き換えるシステムそのものとなった」
「なら――そのシステム、バグらせてやるよ!!」
カイは懐から、一枚のボロボロの紙束を取り出した。
それは、商人の都でザラから盗み出した、ザガンの「裏帳簿」だ。
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