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【第86話:俺たちの切り札】

【タイムリミット:残り2日(45時間)】


地下鍛冶場での生活は、時間との戦いだった。

外は完全に結晶化し、死の静寂に包まれている。

生き残ったのは、カイたちと、ヴォルグ率いる数百の獣人、そしてガルドと少数の部下だけ。


「……これしかない」


カイは設計図を机に広げた。

ノクスの演算能力と、獣王の都の鍛冶設備、そしてカイのアイデアを詰め込んだ、最終兵器の設計図。


『対結晶化ライフル・コードネーム「リベレーター(解放者)」』。


原理はシンプルだ。

エルナの血液から抽出した「逆位相コード」を、ノクスの第七権限で極限まで増幅し、重力鉱石を通したレーザーに変換して撃ち込む。

理論上、これでザガンの結晶化術式を強制解除できる。


「だが、問題は出力だ。

ノクス単体では、要塞のバリアを貫通できない」


カイが頭を抱える。

材料はある。技術もある。だが、レーザーに変換する魔力が足りない。


「……カイ、待て」


ヴォルグが鍛冶場の奥から、古びた木箱を持ってきた。

蓋を開けると、中には精巧な機械部品と、羊皮紙の設計図が入っている。


「これは、錬金の都メルデンから、俺の父の代に贈られた『魔力増幅装置』だ。

鉱夫の魔力を集約して巨大な掘削機が使えるように、技術協力してもらっていたそうだ……」


ヴォルグはその設計図を広げた。


「錬金の都では、古き時代から、俺たちが掘り出した鉱石を、錬金加工してきた。

……これを応用すれば、お前のライフルに組み込めるかもしれん」


カイは設計図を貪るように見た。

錬金の都の技術は、魔法の都の理論と獣王の都の鉱石を融合させた、実に巧妙なものだった。


「……これだ! これがあれば、ノクスの出力を10倍に増幅できる!

しかも、獣人たちの魔力を集約する仕組みも、そのまま使える!」


「……なら、俺たちの魔力を使え」


声を上げたのは、ヴォルグだった。

彼は自身の結晶化しかけた腕を見せながら、ニヤリと笑った。


「獣人の魔力は『生命力』そのものだ。

俺たち全員の気をノクスに注ぎ込めば、一発くらいデカいのが撃てるだろ?」


「……それ、あんたらの命に関わるかもしれないぞ」


「構わん。

仲間を石にされて、黙って隠れている方が死ぬより辛ぇ。

だが、この魔力増幅装置を使うには、もう1つ足りないものがある。」


「え?」


「オリハルコン合金だ。

オリハルコン鉱石だけで砲身を作っても、魔力伝導率が上がらねぇ」


話の途中で、ガルドが進み出た。


「……私も、協力する」


彼は自分の大剣をカイに差し出した。


「この大剣は、剣の都の国宝『竜殺し』。

かつて錬金の都メルデンから贈られた、オリハルコン合金で作られた。

これを砲身に使え」


かつて王女を殺した剣。

それを、今度は世界を救うための武器に変える。


「……分かった。やろう。」


開発が始まった。

昼夜を問わず、炉の火が燃え盛る。

カイは寝る間も惜しんでノクスの調整を続けた。

エルナは自分の血を提供し続け、顔色が透き通るほど白くなっても弱音を吐かなかった。


「……カイ、この部品の接続がうまくいかないわ」


エルナが苦戦しているのは、錬金の都の増幅回路とノクスの接続部分だった。

異なる技術体系の融合は、想像以上に困難を極める。


「ノクス、解析してくれ。

錬金の都の回路の魔力波長を、この出力に合わせたい」


『了解。……ふむ、錬金の都の技術者は優秀だな。

この回路設計、我の記憶にある古代文明の技術に近い。

……調整完了。これで同調できるはずだ』


ノクスが明滅し、増幅回路が黄金色に輝き始めた。

魔力が流れ、装置全体が低く唸る。


「……動いた!」


「……できた」


カイの手には、無骨で巨大なライフルが握られていた。

黒いボディに、黄金の装飾。

砲身にはガルドの大剣が埋め込まれ、機関部にはノクスが脈打っている。

そして、その間に組み込まれた錬金の都の増幅回路が、青白い光を放っている。

弾倉には、エルナの血液から精製した真紅の液体が輝いている。


「魔法の都の理論、獣王の都の鉱物資源、錬金の都で精製されたオリハルコン合金と魔法増幅技術。

……この世界の高度な技術を結集した、唯一の対結晶化兵器」


「これが、俺たちの切り札だ」


カイは立ち上がった。

目は充血し、体はボロボロだが、その表情は晴れやかだった。


「行くぞ。

ザガンに、特大のしっぺ返しをしてやる」


最後までお読みいただき、ありがとうございます!


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