【第82話:再会の翼】
【タイムリミット:残り2日半(60時間)】
獣王との「交渉」は、壮絶なものだった。
エルナの重力魔法とノクスの連携、そしてヴォルグの剛腕のぶつかり合い。
地形が変わるほどの破壊の末、決着は――引き分けだった。
正確には、カイが「ヴォルグの足元の岩盤を溶解液で溶かして落とし穴を作る」という卑怯なアシストをしたおかげで、ヴォルグが盛大にズッコケて終わったのだ。
『いい戦いだった。エルナ。この短期間でよく成長した』
ノクスの声が、エルナの脳内に響く。
エルナが一息つくと、胸元のノクスが滑らかに浮遊し、再びカイの胸元へと戻っていった。
「……ありがとう、ノクス」
「ガハハハハ!!
魔法に、落とし穴か! 気に入った!
卑怯もまた戦術! 勝てば官軍、生き残った奴が強い!」
ヴォルグは豪快に笑い、二人を「客人」として迎え入れた。
その夜。
獣王の屋敷(といっても巨大な洞窟だが)で、盛大な宴が開かれた。
骨付き肉の山、樽ごとの酒。
獣人たちが太鼓を叩き、踊り狂っている。
「食え食え! 人間にしては骨のある奴らだ!」
ヴォルグがカイの背中をバシバシと叩く。
衝撃で肺が飛び出しそうだ。
「い、痛ぇよ獣王様……!
で、話の続きだ。
……俺たちを匿ってくれるのか?」
カイは痛む背中をさすりながら、本題を切り出した。
「ああ。俺は強い奴が好きだ。
それに、あの騎士どものスカしたツラも気に入らん」
ヴォルグは酒を一気に飲み干し、ニヤリと笑った。
「だが、ただ飯を食わせるわけにはいかんな。
お前ら、目的があるんだろ?」
「……ああ。
ザガンに奪われた仲間を取り戻したい。
そのために、この都市にある『重力鉱石』と、鍛冶設備を借りたい。」
「ザガン……あのむかつく武器商人の野郎か」
カイの言葉に、ヴォルグの目が鋭くなった。
「奴は、我が都市の『重力鉱石』を、安く買いたたこうとしてる。
裏で交易路を荒らしてやがるのさ。卑怯な手を使いやがって…」
ヴォルグが険しい表情で骨付き肉を噛み砕く。
「俺は鼻が利くんだ。
あの武器商人からは、腐った悪意の匂いしかしねぇ。
……カイ、お前らが作ろうとしてる『兵器』。
それがザガンの鼻っ柱をへし折れるなら、全面協力してやるぜ!」
「……マジか?」
「その代わり、完成したら一番に俺に見せろ!
もしも、しょぼい《デキ》だったら、晩飯のおかずにするからな!
ガッハハハ!」
豪快すぎる条件。
だが、カイにはそれが一番信頼できる契約に思えた。
書面もハンコもない、力と信頼だけの約束。
「よし!交渉成立だ。
……見せてやるよ、獣王様。
世界をひっくり返す、最高の大博打をな!」
カイは酒杯を掲げた。
隣では、エルナが獣人の子供たちに囲まれて、慣れない手つきで肉を食べている。
その顔には、泥汚れと一緒に、心からの笑顔があった。
(……悪くない夜だ)
だが、カイはまだ知らなかった。
この宴の音が、外からの来訪者にかき消されるまで、そう時間はかからないことを。
宴が終わり、獣人たちがそれぞれの住処へと帰っていく。
カイとエルナは、洞窟の外に出て、星空を見上げた。
「……きれいね」
エルナが呟く。
聖女の都では、こんなに星が近くに見えることはなかった。
「ああ。」
カイは空を見上げながら、少し遠い目をした。
「……あの飛竜、元気にしているかしら」
エルナが突然、そう呟いた。
「野生に戻ったんだから、きっと大丈夫だよ」
カイが答えると、エルナは少し寂しそうに微笑んだ。
その時。
空から、大きな影が近づいてくる。
「……なんだ、あれ?」
カイが警戒して立ち上がる。
エルナも、その影を見上げた。
影はゆっくりと降りてくる。
月光に照らされて、その姿が現れた。
「……まさか」
カイが驚きの声を上げる。
飛竜だ。竜の渓谷で調教した、あの飛竜が。
飛竜の首に、カイが結びつけた「飛竜の卵の殻」が、月明かりに照らされて微かに光っている。
「お前……戻ってきたのか」
カイが近づくと、飛竜はカイの手に頭をすり寄せた。
親しみを示す動作だ。
「覚えていてくれたのね!」
エルナが嬉しそうに叫ぶ。
飛竜は、エルナの方にも首を向け、優しく鳴いた。
エルナが飛竜の首を撫でながら、優しく語りかける。
「あなたは、私たちを空へ連れて行ってくれた。
風のように速く、自由に……」
エルナが少し考えてから、微笑みながら言った。
「……『疾風』。
あなたの名前は『疾風』よ」
飛竜は嬉しそうに鳴き、大きく翼を広げた。
まるで、その名前を気に入ったかのように。
「いい名前だな。……疾風か」
カイが感心したように言う。
「うん。この子は、もう私たちの仲間よ」
エルナが飛竜の首を抱きしめるように撫でた。
「……ありがとう、疾風。よろしく頼むぜ」
カイが飛竜の首を軽く叩いた。
「でも、なんで戻ってきたんだろうな」
カイが首を傾げると、胸元のノクスが明滅した。
『飛竜は、一度信頼した相手を忘れない。
特に、卵の殻を結びつけられた相手には、強い絆を感じる。
そして、エルナの魔力が飛竜の体に残っている。
その魔力を通じて、お前たちが危険にさらされていることを察知したのだろう』
「私の魔力を覚えていてくれたのね」
エルナが嬉しそうに言う。
飛竜は、エルナの手に触れると、さらに嬉しそうに鳴いた。
「きっと、私たちのことが心配だったのよ」
エルナが優しく飛竜の首を撫でる。
疾風は、カイたちの近くに留まり、一緒に夜を過ごした。
その姿は、もう野生の飛竜ではなく、カイたちの仲間として、そこにあった。
エルナはうれしそうに、飛竜の首を撫で続けるのだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
少しでもお楽しみいただけましたら、
広告の下にある 【★★★★★】 を押して応援していただけると、執筆の励みになります!
↓↓↓ 広告下のこちらより ↓↓↓
(※感想もお待ちしております。)




