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【第81話:激突、獣王ヴォルグ】視点:エルナ

国境の谷間を抜け、辿り着いた第六の都市『獣王の都ファングレア』。

そこは、私の知る「都市」とはまるで違う場所だった。


赤茶けた岩山をくり抜いて作られた、巨大な蟻塚のような構造。

整然とした道路も、美しい建物もない。

あるのは、むき出しの岩肌と、獣の皮で作られたテント。


遠くの山腹には、無数の坑道の入り口が口を開けている。

あれは、炭鉱だ。そして――


「グルルル……人間か? 美味そうな匂いだ」


巨大な狼の頭を持つ男が、錆びた斧を担いで立ち塞がった。

一人ではない。虎、熊、猪。

様々な獣の特徴を持つ亜人たちが、私たちを取り囲んでいる。


「……野蛮ね」


エルナは思わず呟いた。

無菌室のような聖女の都とは対極の、血と汗と土の匂い。

恐怖で足がすくみそうになる。

けれど、隣にいるカイが、震える手で私の前に立とうとするのを見て唇を噛んだ。


(守られるだけじゃ、ダメ)


ここまで連れてきてくれたのは彼だ。

なら、ここからは私が彼を守る番。


「カイ、下がってて」


「え? おい、エルナ――」


制止を振り切り、エルナは一歩前へ出た。

獣人たちが嘲笑う。


「なんだぁ? そのほっそい腕で俺たちとやる気か?」

「俺の爪楊枝にもなりゃしねぇな! ガッハハ!」


下品な笑い声。

エルナは深呼吸をし、ノクスに意識を集中させた。

同調シンクロ

私の血に眠る、第七王家の権能。


「……ひざまずきなさい」


その言葉は、懇願ではなく「命令」だった。


ズンッ!!!!


見えない重圧が、空間そのものを押し潰す。

王家の威光オーソリティ

生物としての格の違いを、魂に直接叩き込む強制命令。


「ガ、ア……ッ!?」

「な、なんだコリャ……体が、動かねぇ……!」


屈強な獣人たちが、次々と地面にひれ伏していく。

泡を吹いて気絶する者、恐怖で失禁する者。

嘲笑は一瞬で悲鳴に変わった。


「……やりすぎたかしら」


エルナがふらつくと、岩山の上から雷のような声が響いた。


「――面白い!!」


ドォォォォン!!


遥か高みから、何かが隕石のように降ってきた。

土煙が晴れると、そこには一人の巨漢が立っていた。

黄金のたてがみ。岩のような筋肉。

全身から放たれる圧倒的な魔力と、王者の覇気。


獣王ヴォルグ。

この弱肉強食の都市の頂点に立つ男。


彼はひれ伏す部下たちを一瞥もせず、私を見下ろして笑った。

その牙が、凶暴に輝いている。


「聖女と聞いていたが、いい殺気だ。

気に入ったぞ、人間!!

俺に勝てたら、この都市での滞在を許してやろう!!」


問答無用。

交渉の余地などない、力こそが全ての論理。


エルナは震える足で踏ん張った。

怖い。この男は、今まで会った誰よりも「死」に近い。

でも。


(私はもう、人形じゃない。

……だってカイの仲間だもの)


「……受けて立つわ、獣の王よ!」


エルナが叫ぶと同時に、カイの胸元でノクスが激しく明滅した。

『エルナ、我を呼んでいるのか?』

ノクスの声が、エルナの脳内に直接響く。


「……うん。お願い、力を貸してノクス」


エルナがそう言った瞬間、カイの胸元からノクスが滑らかに浮遊し始めた。

黒い球体が、まるで生き物のように空中を舞い、エルナの胸元へと移動する。

その動きはあまりにも自然で、見ている者には魔法のペンダントが風に揺れているようにしか見えない。


ノクスがエルナの胸元に収まった瞬間、彼女の全身が眩い光に包まれた。

銀髪が逆立ち、重力の力が周囲の空間を歪ませる。


「――来なさい!!」


ヴォルグが笑いながら、地面を蹴った。


ドォォン!!


岩盤が砕け、獣王の巨体が弾丸のように飛来する。

その速度は、人間の目では追えない。


だが、エルナは動かない。

ノクスが彼女の視界に、予測軌道を黄金の線で描き出す。


『左に0.3秒、重力場を展開せよ』


「――わかった!」


エルナが左手を突き出す。

瞬間、ヴォルグの進路に無形の重力の壁が出現する。


ガガガガガッ!!


獣王の拳が、見えない壁に激突する。

衝撃波が周囲の岩を吹き飛ばし、土煙が舞い上がる。


「――ッ!?」


ヴォルグが驚きの表情を浮かべる。

だが、その驚きは一瞬で笑いに変わる。


「面白い!! 重力魔法か!?」


獣王が空中で体勢を変え、第二撃を繰り出す。

今度は右から、そして上から。

三方向からの連続攻撃。


『エルナ、三点同時防御。重力場を三層に展開せよ』

ノクスが冷静に指示する。


「――できるわ!」


エルナが両手を広げる。

彼女の周囲に、三重の重力の輪が展開される。

ヴォルグの拳が、第一層を破り、第二層を破り――第三層で止まる。


「――ッ!?」


今度こそ、獣王の目に本気の驚きが浮かんだ。


「重力を三層に……!? その細腕で……!?」


「……私は、もう人形じゃないのよ」


エルナが、ノクスと共に前に進み出す。

彼女の足元に、重力の魔法陣が展開される。

地面が浮き上がり、エルナが空中に舞い上がる。


「――反撃よ!!」


エルナが右手を振り下ろす。

瞬間、ヴォルグの頭上に、見えない巨大な重力の塊が落下する。


ドォォォォン!!


獣王が地面に叩きつけられる。

だが、ヴォルグは笑いながら立ち上がる。


「――ッハハハハ!! いいぞ、人間!!」


彼の体から、圧倒的な魔力が噴き出す。


「だが、これくらいじゃ終わらんぞ!!」


ヴォルグが地面を蹴る。

今度は、エルナの重力場を無視して、真っ直ぐに突進してくる。

その速度は、重力の影響を受けているとは思えないほど速い。


『エルナ、緊急回避! 重力場を前方に展開し、加速を利用して後方へ!』


ノクスが緊急指示を出す。


「――わかった!」


エルナが重力場を前方に展開し、その反動で後方へと飛び退く。

ヴォルグの拳が、エルナの残像を貫く。


ガガガガガッ!!


衝撃が、エルナの後ろの岩壁を粉砕する。


「――ッ!?」


エルナが振り返る。

もしノクスの指示がなければ、確実に致命傷を受けていた。


「……ありがとう、ノクス」


『今が反撃のチャンスだ』


エルナが頷く。

彼女とノクスが、完全に同調する。

重力の力が、空間そのものを歪ませる。


「――これで、決着をつけるわ!!」


エルナが両手を合わせる。

ノクスが最大出力で重力場を展開する。

瞬間、ヴォルグの周囲の空間が、重力の渦に飲み込まれる。


「――ッ!?」


獣王が、重力の渦に引きずられていく。

だが、彼は笑いながら、その重力を力でねじ伏せようとする。


「――ッハハハハ!! いい重力だ!! だが、これくらいじゃ――ッ!?」


その瞬間、カイが動いた。

彼は地面に手を触れ、ポケットから取り出した溶解液を、ヴォルグの足元の岩盤に流し込んだ。


「――ッ!?」


ヴォルグの足元が崩れ、獣王が落とし穴に落ちる。

重力の渦と、落とし穴の二重攻撃。


「――ッハハハハハハハ!!」


落とし穴の中から、ヴォルグの笑い声が響く。


「卑怯もまた戦術!! 気に入ったぞ、人間ども!!」


最後までお読みいただき、ありがとうございます!


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