【第80話:荒野の乱戦】
【タイムリミット:残り3日】
飛竜で竜の渓谷を抜け、獣王の都の西の岩山で野宿した翌日。
二人の眼下に広がっていたのは、絶望的な光景だった。
「……マジかよ」
獣王の都との国境付近。
荒野を埋め尽くすように、三つの軍旗が翻っていた。
白地に金の十字架――聖女の都 セレスティアの聖騎士団。
黒地に銀の剣――剣の都 レガルスの騎士団。
そして、黄金の天秤――商人の都 ヴァランザの傭兵団。
三国連合軍。総勢五万。
たった二人の逃亡者を捕まえるために、ありえない数の兵士たちが集結していた。
「あそこを通らないと、獣王の都には入れない……」
エルナが青ざめる。
苦労して渓谷を抜けたのに、地上には兵士の壁が築かれていた。
「……戦争でも始める気かよ」
カイは拳を握りしめた。
『カイ。この人数では、戦闘は無謀だ。
だが……軍の足並みは揃っていない』
ノクスが視界を拡大する。
セレスティアの聖騎士団と、レガルスの騎士団が、何か揉めている。
指揮権争いか、あるいは宗教的な対立か。
ヴァランザの傭兵たちは、やる気なさそうに後方で賭け事をしている。
「……なるほど。
『船頭多くして船山に登る』ってやつか」
カイはニヤリと笑った。
巨大な組織ほど、連携は脆い。
そこに、つけ入る隙がある。
「エルナ。
あいつら、俺たちを探してピリピリしてる。
なら……『偽物』で混乱させてやろう」
「偽物?」
「ノクスの幻影魔法と、エルナの魔力増幅があれば、俺たちの幻を戦場中にばら撒けるはずだ」
カイは懐から、「飛竜の卵の殻」をたくさん取り出した。
「これは光を反射し、幻影の触媒になるんだ。合図と同時に、二人の幻影を一斉展開する。
敵が混乱してる隙に……俺たちは、ど真ん中を突っ切る!」
「ど、ど真ん中!?」
「一番警戒が厳重な場所こそ、混乱した時には一番の死角になる。
灯台下暗し作戦だ!」
カイはエルナの手を握った。
「信じろ。
俺の逃げ足は、10億の価値があるんだぜ?」
エルナは短くなった髪をかき上げ、力強く頷いた。
「うん。……信じる!」
「行くぞ!!」
カイが合図を送る。
ノクスとエルナの魔力が「飛竜の卵の殻」と共鳴し、戦場に無数の「カイとエルナ」が出現した。
「いたぞ! あっちだ!」
「いや、こっちだ!」
「ええい、撃て! 撃ちまくれ!」
混乱。誤射。怒号。
五万の軍勢が、二人の幻影に翻弄されて自滅していく。
その混沌の渦中を、二つの小さな影が、疾風のように駆け抜けていった。
「右だ! エルナ、伏せろ!」
カイの叫びと共に、二人は岩陰へと滑り込んだ。
直後、頭上を巨大な火球が通り過ぎ、荒野の岩盤を砕く。
「……おいおい。味方ごと吹き飛ばす気かよ」
カイは顔についた砂を払い、岩の隙間から戦場を覗き見た。
そこは、地獄の釜の蓋が開いたような大乱戦になっていた。
三つの異なる軍旗が入り乱れ、さらにカイがばら撒いた「幻影」に翻弄され、同士討ち寸前の混乱状態に陥っている。
カイはノクスの《戦術視覚》を最大出力にした。
赤いレーザーラインが網の目のように広がり、兵士たちの包囲網をスキャンする。
「エルナ、あそこ! 包囲網が薄くなってる!」
カイが指差す先、煙幕の向こうにわずかな隙間があった。
獣王の都へと続く、国境の裂け目だ。
「よし。あそこを突破すれば、こっちの勝ちだ」
カイはエルナの手を強く握り直した。
聖女の都を脱出してから数日。彼女の白い手は泥で汚れ、小さな傷も増えている。
だが、その握力は以前よりもずっと力強かった。
「……ここから全力ダッシュだ。転んでも止まるなよ!」
「うん!」
エルナが真剣に頷く。
その顔つきは、もう籠の中の聖女ではない。立派な冒険者の顔だった。
「3、2、1……今だっ!!」
二人は岩陰から飛び出した。
戦場のど真ん中、矢と魔法が飛び交う死地を、一直線に駆け抜ける。
「いたぞ! 本物だ!!」
「撃て! 逃がすな!」
聖騎士たちが気づき、一斉に殺到してくる。
だが、遅い。
『カイ、右舷より騎兵接近。距離50メートル』
ノクスの警告。
カイは走りながら、懐から「煙玉」を取り出し、地面に叩きつけた。
ボンッ!!
紫色の毒々しい煙が噴き出し、騎兵たちの視界を奪う。
馬が嘶き、隊列が崩れる。
「今だ、飛べ!!」
カイとエルナは、国境の裂け目――断崖絶壁の谷間へと身を躍らせた。
背後で、怒号と悲鳴が遠ざかっていく。
風が耳元で唸る。
落下する浮遊感の中、カイは叫んだ。
「ノクス、重力制御だ」
『了解』
ノクスの重力制御がクッションとなり、二人は谷底へふわりと着地した。
(……ふぅ。あぶねー、なんとか逃げ切れたが危機一髪だった)
隣のエルナを見ると、驚きの表情のまま口元が楽し気に笑っていた。
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